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9 グレイと見知らぬ令嬢2
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「要件は」
侯爵は早く用事を済ませてグレイとカミラをこの屋敷から追い出したい気分だった。
「さっきから言ってるけど、グレイの子どもに会わせてくれる?」
この女は目上の者への口の利き方も知らないのか。
グレイ以外の全員がそう思っていたがカミラは相手の感情などどうでもいいのだろう。一方的に自分の都合を押し付けて来るタイプだった。
「実はエルザが男の子を育ててるって風の噂で聞いたんだ。それで提案なんだけど」
「提案って何。何もあなたから聞きたくないんだけど」
エルザはグレイを睨みながら噛みついた。
「まあ聞いてよ。育ててるのは僕との子どもだよね?だとしたら、僕にも養育権があるんだ」
「養育権……!?」
嫌な響きだった。
「共同で育てないか?ライアンを」
「何ですって!?」
エルザも侯爵もポーラも頭から火を吹きそうだった。浮気をし酷い仕打ちをした挙句妻を捨てておいて今更子どもをよこせとは。
「いやよ!絶対にいや!!」
エルザは断固として拒絶した。
「何もあなたから完全に取り上げようなんて思ってないのよ?時々会わせてあげてもいいわ」
時々?
どうしてそうなるのか。このふたりはこれまで育ててきた母から幼児を引き離し時々しか会わせない環境におこうとしている。
「子どもが欲しいなら産んだらいいじゃない!ふたりの子を!」
どうせカミラは浮気相手の一人なのだろう。エルザは軽蔑しながらふたりに叫んだ。
「それができないから困ってるんだ。カミラはその、医者に子どもが産めない体だって言われちゃって。な、可哀想だろ?」
「は?可哀想?」
気の毒かも知れないがグレイがエルザに言っていい言葉ではない。
「養子を取ればいいっていう人もいるけど私は嫌なの。愛するグレイの血を引く子がいいの。だからといって今から別の女にグレイの子を産ませるのも嫌なの。だからあなたが産んだ子どもが欲しいの。グレイは平民だけど、あなたは侯爵家の血筋だから貴族の血を引くライアンなら養子にしてもいいってパパが特別に許してくれたの。ね、いい話でしょ?」
一同は呆気にとられた。この女は相手の気持ちも考えずライアンを横取りする気満々である。
「示談金ならいくらでもお支払いするつもりよ?そうねえ……将来ゾフ家の当主となるだろうから、その謝礼も含めて……10億リルでどうかしら?」
「はあ!?」
信じがたいことにカミラはライアンを売り買いするモノのように扱おうとしてる。
「お金なんていらなわっ!ライアンはモノじゃないのよ!?」
「あなたが強情だから悪いんじゃない」
怒るエルザにカミラがつんと顎を上に向けほざいた。
「出て行けっ!!!」
尊大な態度のカミラをとうとう侯爵が怒鳴りつけた。
「まあ。そんな態度でいいのかしら、侯爵様」
カミラは目上の侯爵を睨んだ。
「エルザさんは再婚もしていないようね。平民との子がいるコブ付き令嬢では相手が見つからないのでは?」
「何だと──!」
悔しいが当たっていた。伝手を頼って婿を探してみたが、ライアンの存在を知ると途端に断られることが多かった。ライアンを養子に出すか後継から外せばまだ婿の成り手もいただろうが、侯爵とポーラはどうしてもライアンを後継にしたかったし、エルザもまたライアンを手元で育てたいと思っていた。
「ふふふ。また来るわね」
カミラはグレイを連れてひらひらと手を振りながら去っていった。
「つくづく無礼な女だ!絶対にライアンを渡してはならんぞ!」
「そうよ、何があっても手放してはダメよ!」
侯爵とポーラがエルザに詰め寄るように声をかけた。
「当たり前です。絶対に渡しません」
あの様子だとふたりはまた来るつもりだろう。
何か対策を打たなければ。
自分を捨てたのなら放っておいてくれたらいいのに厄介ごとを持ち込んできたグレイにエルザはげんなりした。
「強情な女ね。こっちの方が有利なのに滑稽だわ」
帰りの馬車に揺られながらカミラはエルザの悪口を言った。カミラはエルザを馬鹿にしていた。身分はエルザの方が上だが女として自分のほうが勝っていると思っていた。
正直自分が産めない子どもをエルザが持っていることが面白くなかった。金を積んでも自分の子は望めないのだ。だからカミラはライアンを完全に奪いたかった。
それにグレイは美しすぎる私にぞっこんだから。
カミラは自分に自信があった。本当は端からみればエルザの方が何倍も可憐で美しかった。だがカミラの取り巻きはいつもカミラを美人だと褒め称えたのでカミラはすっかり容姿に自信を持ってしまった。だからエルザのことをグレイに捨てられた哀れな女と見下し笑い飛ばしていた。
「まあ、そうだね……」
「何ぼうっとしてるの?きっと疲れたのね。屋敷に戻ったら何か美味しいものを食べましょうよ。料理長に作らせるわ」
生返事のグレイを見てカミラはいたわりの言葉をかけた。だが疲れているのではなかった。グレイの心にはさざ波が立っていた。
グレイはエルザの変化に驚いていた。大人っぽくなったエルザに色気さえ感じていた。昔は人形のような可愛さはあるがまだ子どもっぽくて物足りないと思っていた。
ところが久々に再会した時、グレイはエルザに釘付けになった。エルザは母としてのおおらかさと意志の強さをまとい、それなのにまだ若々しく聖母のように魅力的に見えた。
一方、富豪の一人娘カミラは溺愛されて育ち我儘で幼稚な所が多かった。お金目当てなので婚約したがカミラの顔はグレイの好みではなかった。今18歳のカミラとエルザは同い年ということもありグレイには両者の違いが一層はっきりと見えたのだ。
エルザが欲しい。
愛人に囲ってもいいかもな。
勝手なことにグレイは流れる馬車の窓の風景を眺めながらそんなことを考えていた。
侯爵は早く用事を済ませてグレイとカミラをこの屋敷から追い出したい気分だった。
「さっきから言ってるけど、グレイの子どもに会わせてくれる?」
この女は目上の者への口の利き方も知らないのか。
グレイ以外の全員がそう思っていたがカミラは相手の感情などどうでもいいのだろう。一方的に自分の都合を押し付けて来るタイプだった。
「実はエルザが男の子を育ててるって風の噂で聞いたんだ。それで提案なんだけど」
「提案って何。何もあなたから聞きたくないんだけど」
エルザはグレイを睨みながら噛みついた。
「まあ聞いてよ。育ててるのは僕との子どもだよね?だとしたら、僕にも養育権があるんだ」
「養育権……!?」
嫌な響きだった。
「共同で育てないか?ライアンを」
「何ですって!?」
エルザも侯爵もポーラも頭から火を吹きそうだった。浮気をし酷い仕打ちをした挙句妻を捨てておいて今更子どもをよこせとは。
「いやよ!絶対にいや!!」
エルザは断固として拒絶した。
「何もあなたから完全に取り上げようなんて思ってないのよ?時々会わせてあげてもいいわ」
時々?
どうしてそうなるのか。このふたりはこれまで育ててきた母から幼児を引き離し時々しか会わせない環境におこうとしている。
「子どもが欲しいなら産んだらいいじゃない!ふたりの子を!」
どうせカミラは浮気相手の一人なのだろう。エルザは軽蔑しながらふたりに叫んだ。
「それができないから困ってるんだ。カミラはその、医者に子どもが産めない体だって言われちゃって。な、可哀想だろ?」
「は?可哀想?」
気の毒かも知れないがグレイがエルザに言っていい言葉ではない。
「養子を取ればいいっていう人もいるけど私は嫌なの。愛するグレイの血を引く子がいいの。だからといって今から別の女にグレイの子を産ませるのも嫌なの。だからあなたが産んだ子どもが欲しいの。グレイは平民だけど、あなたは侯爵家の血筋だから貴族の血を引くライアンなら養子にしてもいいってパパが特別に許してくれたの。ね、いい話でしょ?」
一同は呆気にとられた。この女は相手の気持ちも考えずライアンを横取りする気満々である。
「示談金ならいくらでもお支払いするつもりよ?そうねえ……将来ゾフ家の当主となるだろうから、その謝礼も含めて……10億リルでどうかしら?」
「はあ!?」
信じがたいことにカミラはライアンを売り買いするモノのように扱おうとしてる。
「お金なんていらなわっ!ライアンはモノじゃないのよ!?」
「あなたが強情だから悪いんじゃない」
怒るエルザにカミラがつんと顎を上に向けほざいた。
「出て行けっ!!!」
尊大な態度のカミラをとうとう侯爵が怒鳴りつけた。
「まあ。そんな態度でいいのかしら、侯爵様」
カミラは目上の侯爵を睨んだ。
「エルザさんは再婚もしていないようね。平民との子がいるコブ付き令嬢では相手が見つからないのでは?」
「何だと──!」
悔しいが当たっていた。伝手を頼って婿を探してみたが、ライアンの存在を知ると途端に断られることが多かった。ライアンを養子に出すか後継から外せばまだ婿の成り手もいただろうが、侯爵とポーラはどうしてもライアンを後継にしたかったし、エルザもまたライアンを手元で育てたいと思っていた。
「ふふふ。また来るわね」
カミラはグレイを連れてひらひらと手を振りながら去っていった。
「つくづく無礼な女だ!絶対にライアンを渡してはならんぞ!」
「そうよ、何があっても手放してはダメよ!」
侯爵とポーラがエルザに詰め寄るように声をかけた。
「当たり前です。絶対に渡しません」
あの様子だとふたりはまた来るつもりだろう。
何か対策を打たなければ。
自分を捨てたのなら放っておいてくれたらいいのに厄介ごとを持ち込んできたグレイにエルザはげんなりした。
「強情な女ね。こっちの方が有利なのに滑稽だわ」
帰りの馬車に揺られながらカミラはエルザの悪口を言った。カミラはエルザを馬鹿にしていた。身分はエルザの方が上だが女として自分のほうが勝っていると思っていた。
正直自分が産めない子どもをエルザが持っていることが面白くなかった。金を積んでも自分の子は望めないのだ。だからカミラはライアンを完全に奪いたかった。
それにグレイは美しすぎる私にぞっこんだから。
カミラは自分に自信があった。本当は端からみればエルザの方が何倍も可憐で美しかった。だがカミラの取り巻きはいつもカミラを美人だと褒め称えたのでカミラはすっかり容姿に自信を持ってしまった。だからエルザのことをグレイに捨てられた哀れな女と見下し笑い飛ばしていた。
「まあ、そうだね……」
「何ぼうっとしてるの?きっと疲れたのね。屋敷に戻ったら何か美味しいものを食べましょうよ。料理長に作らせるわ」
生返事のグレイを見てカミラはいたわりの言葉をかけた。だが疲れているのではなかった。グレイの心にはさざ波が立っていた。
グレイはエルザの変化に驚いていた。大人っぽくなったエルザに色気さえ感じていた。昔は人形のような可愛さはあるがまだ子どもっぽくて物足りないと思っていた。
ところが久々に再会した時、グレイはエルザに釘付けになった。エルザは母としてのおおらかさと意志の強さをまとい、それなのにまだ若々しく聖母のように魅力的に見えた。
一方、富豪の一人娘カミラは溺愛されて育ち我儘で幼稚な所が多かった。お金目当てなので婚約したがカミラの顔はグレイの好みではなかった。今18歳のカミラとエルザは同い年ということもありグレイには両者の違いが一層はっきりと見えたのだ。
エルザが欲しい。
愛人に囲ってもいいかもな。
勝手なことにグレイは流れる馬車の窓の風景を眺めながらそんなことを考えていた。
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