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Ep.2-18
アレクは救出されたあと、グラントの兵舎のひとつに身を潜めていた。
拷問の傷はスーザンが派遣してくれた医師によって手当て済みだったが、かなり衰弱していたため、すぐには動けなかった。
ヴィヴィアンを置いて自分だけが救出されたことに、アレクは罪悪感と焦燥感を抱いていた。
ヴィヴィアンを助けに行こうと飛び出しそうなのをグラントがなんとか引き留めている状況だ。
「ヴィヴィアン様は無事だ。身代わりの魔法でジェハスを防いでいるらしい」
アレクもヴィヴィアンの密書を読ませてもらい、ヴィヴィアンの貞操がまだ守られていることを知って胸をなで下ろした。
「アレク殿は弓の名人と聞いた。君の腕を見せてくれないか」
アレクが動けるようになった頃、グラントがそう依頼してきたので、理由はわからないが快諾した。
まず50メートル離れた場所に的が準備された。腕に覚えのあるものなら当てるのは可能な距離だ。
アレクは慣れた手つきで弓に矢をかけた。
ッシュパン!
気持ちのいい矢音とともに、アレクはなんなく的を射抜いた。
「この程度は想定内だ。これではどうだ」
次に用意されたのは100メートルも離れた的だった。
「名人でもあの的に当てるのは難しいはずだ」
アレクはじっと的を睨んだ後、さきほどよりさらに強く矢をひきしぼった。
スカイブルーの澄んだ瞳がはるか遠くの的をとらえる。
数秒後。
ッジュパン!!!
寸分の狂いもなく、中央に矢が突き刺さっていた。
判じ役の騎士が赤い旗を大きく振り、命中の合図を出した。
あまりの腕に、周りにいた騎士たちがどよめいて拍手喝采している。
「見事だな。神業レベルといえる」
「いつもは飛んでる鳥を射ているので。止まっている的ならずっと簡単です」
「実はその腕をみこんで、君にやってもらいたいことがある」
グラントはヴィヴィアンの情報から練った作戦をアレクに明かした。
「必ずジェハスを倒し、ヴィヴィアン様を助いだそう。そして、ロン男爵の仇を取るぞ」
グラントは自分がいない間にロン男爵が酷い目にあわされたことに、マグマのような怒りを抱えていた。
それに、ヴィヴィアンの身代わり人形の魔法が切れるまでもう時間がない──
「わかりました。どんなことでもやります」
アレクはヴィヴィアンを助けるためなら、命さえ捧げる覚悟だった。
「まずいわ」
その夜、ついに身代わり人形が消えた。
ヴィヴィアンの魔力が腕輪により完全に封印されてしまったのだ。
ジェハスが寝所にやってきた。ヴィヴィアンの肩を抱く。
ヴィヴィアンは緊迫してはやる心音を隠しながら、ジェハスに寄りかかった。
「陛下、せっかくお越しいただいたのに心苦しいのですが、明日は大切な復位の儀ですから、今晩はよく眠りたいのです」
「ヴィヴィアン」
ジェハスは少し残念そうな声を出した。
「明日が過ぎれば、いつまででもご一緒できますわ」
ジェハスの胸で甘えた声を出すヴィヴィアンのお願いを、ジェハスが断れるはずはなかった。
「そうだな。俺も気が利かなかった。すまない。今日は一人でゆっくり眠るといい」
ジェハスが部屋をさった後、ヴィヴィアンは安堵のため息を吐いた。
もう魔法が使えない以上、明日がジェハスを撃つ、最初で最後のチャンスだ。
「お願い。どうか、どうかうまくいきますように……!」
ヴィヴィアンはアレクの顔を思い浮かべながら、空に祈った。
決行の日。
復位の儀は王宮の広場で行われることになった。
王都では明け方から珍しく霧が出ていた。
「視界が多少悪いが、抜かりなくいくぞ」
王都に忍び込んだグラントや騎士たち、アレクが民衆にまぎれた。
復位の儀では、ヴィヴィアンがジェハスから王妃の冠を頭にのせてもらうことになっている。
作戦はこうだった。
ジェハスを攻撃し、血を布にふくませ火をつける。
その血が燃えないことで、聴衆の面前で偽王だと暴くのだ。
とはいえ、警備は厳重だ。
いくらヴィヴィアンの願いだといっても、ジェハスには敵が多い。後宮の外に出た愛妃をさらわれる危険性をジェハスは少しでもつぶしたかった。
ヴィヴィアンとジェハスが登壇する予定の高台は、銃や槍を持った兵でぐるりと囲まれている。
この厳重警備をくぐりぬけ、なんとしてでもジェハスに一太刀を浴びせなければならない。
聴衆が集まってきた。
先に第一側妃デリカ、第二側妃ミア、第三側妃アーシャが入場した。
アーシャは計画の行方を固唾を飲んで見守っている。
ヴィヴィアンとジェハスが兵に守られながら登場した。
「あれが王妃様か?」
「霧でよく見えないな」
聴衆がヴィヴィアンの姿を見ようと目をこらす。
霧の中、ふたりは高台の階段を一歩一歩のぼりはじめた。
「少し霧が深いが、風がはらってくれることを祈ろう。アレク殿、やれるか?」
グラントがアレクを促す。アレクは覚悟を決めた目でうなずいた。
いよいよだ。
アレクは目をつむって緊張の息を吐き出した。
ヴィヴィアン、待ってて。
きっと君を助ける。
「よし。配置につけ」
グラントがみなに命を下した。
拷問の傷はスーザンが派遣してくれた医師によって手当て済みだったが、かなり衰弱していたため、すぐには動けなかった。
ヴィヴィアンを置いて自分だけが救出されたことに、アレクは罪悪感と焦燥感を抱いていた。
ヴィヴィアンを助けに行こうと飛び出しそうなのをグラントがなんとか引き留めている状況だ。
「ヴィヴィアン様は無事だ。身代わりの魔法でジェハスを防いでいるらしい」
アレクもヴィヴィアンの密書を読ませてもらい、ヴィヴィアンの貞操がまだ守られていることを知って胸をなで下ろした。
「アレク殿は弓の名人と聞いた。君の腕を見せてくれないか」
アレクが動けるようになった頃、グラントがそう依頼してきたので、理由はわからないが快諾した。
まず50メートル離れた場所に的が準備された。腕に覚えのあるものなら当てるのは可能な距離だ。
アレクは慣れた手つきで弓に矢をかけた。
ッシュパン!
気持ちのいい矢音とともに、アレクはなんなく的を射抜いた。
「この程度は想定内だ。これではどうだ」
次に用意されたのは100メートルも離れた的だった。
「名人でもあの的に当てるのは難しいはずだ」
アレクはじっと的を睨んだ後、さきほどよりさらに強く矢をひきしぼった。
スカイブルーの澄んだ瞳がはるか遠くの的をとらえる。
数秒後。
ッジュパン!!!
寸分の狂いもなく、中央に矢が突き刺さっていた。
判じ役の騎士が赤い旗を大きく振り、命中の合図を出した。
あまりの腕に、周りにいた騎士たちがどよめいて拍手喝采している。
「見事だな。神業レベルといえる」
「いつもは飛んでる鳥を射ているので。止まっている的ならずっと簡単です」
「実はその腕をみこんで、君にやってもらいたいことがある」
グラントはヴィヴィアンの情報から練った作戦をアレクに明かした。
「必ずジェハスを倒し、ヴィヴィアン様を助いだそう。そして、ロン男爵の仇を取るぞ」
グラントは自分がいない間にロン男爵が酷い目にあわされたことに、マグマのような怒りを抱えていた。
それに、ヴィヴィアンの身代わり人形の魔法が切れるまでもう時間がない──
「わかりました。どんなことでもやります」
アレクはヴィヴィアンを助けるためなら、命さえ捧げる覚悟だった。
「まずいわ」
その夜、ついに身代わり人形が消えた。
ヴィヴィアンの魔力が腕輪により完全に封印されてしまったのだ。
ジェハスが寝所にやってきた。ヴィヴィアンの肩を抱く。
ヴィヴィアンは緊迫してはやる心音を隠しながら、ジェハスに寄りかかった。
「陛下、せっかくお越しいただいたのに心苦しいのですが、明日は大切な復位の儀ですから、今晩はよく眠りたいのです」
「ヴィヴィアン」
ジェハスは少し残念そうな声を出した。
「明日が過ぎれば、いつまででもご一緒できますわ」
ジェハスの胸で甘えた声を出すヴィヴィアンのお願いを、ジェハスが断れるはずはなかった。
「そうだな。俺も気が利かなかった。すまない。今日は一人でゆっくり眠るといい」
ジェハスが部屋をさった後、ヴィヴィアンは安堵のため息を吐いた。
もう魔法が使えない以上、明日がジェハスを撃つ、最初で最後のチャンスだ。
「お願い。どうか、どうかうまくいきますように……!」
ヴィヴィアンはアレクの顔を思い浮かべながら、空に祈った。
決行の日。
復位の儀は王宮の広場で行われることになった。
王都では明け方から珍しく霧が出ていた。
「視界が多少悪いが、抜かりなくいくぞ」
王都に忍び込んだグラントや騎士たち、アレクが民衆にまぎれた。
復位の儀では、ヴィヴィアンがジェハスから王妃の冠を頭にのせてもらうことになっている。
作戦はこうだった。
ジェハスを攻撃し、血を布にふくませ火をつける。
その血が燃えないことで、聴衆の面前で偽王だと暴くのだ。
とはいえ、警備は厳重だ。
いくらヴィヴィアンの願いだといっても、ジェハスには敵が多い。後宮の外に出た愛妃をさらわれる危険性をジェハスは少しでもつぶしたかった。
ヴィヴィアンとジェハスが登壇する予定の高台は、銃や槍を持った兵でぐるりと囲まれている。
この厳重警備をくぐりぬけ、なんとしてでもジェハスに一太刀を浴びせなければならない。
聴衆が集まってきた。
先に第一側妃デリカ、第二側妃ミア、第三側妃アーシャが入場した。
アーシャは計画の行方を固唾を飲んで見守っている。
ヴィヴィアンとジェハスが兵に守られながら登場した。
「あれが王妃様か?」
「霧でよく見えないな」
聴衆がヴィヴィアンの姿を見ようと目をこらす。
霧の中、ふたりは高台の階段を一歩一歩のぼりはじめた。
「少し霧が深いが、風がはらってくれることを祈ろう。アレク殿、やれるか?」
グラントがアレクを促す。アレクは覚悟を決めた目でうなずいた。
いよいよだ。
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