あなたの破滅のはじまり

nanahi

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Ep.2-19

一方、実はこの場で、別の陰謀が仕掛けられていたことにヴィヴィアンもアレクたちも気づいていなかった。

復位の儀に第一側妃として臨席しているデリカが侍従により運ばれてきた王妃の冠を見て、ほくそ笑んだ。

毒針をしこんだ冠とすり替えておいたわ。
今日がお前の最後の日よ、魔女め。

隣に立っている第二側妃ミアは、にやつくデリカを軽蔑したような目で見ている。

ビロードのクッションに置かれた冠が冷たい光を放った。
ヴィヴィアンがジェハスの前で膝を折る。
ジェハスが冠を受け取り、ヴィヴィアンの頭上に冠を掲げ、そのまま載せた。

ついにやった!!!

もだえ苦しんで死ぬ姿を想像していたデリカだったが、ヴィヴィアンはいっこうに倒れなかった。

「どうしてよ!毒はどうしたの!!」

ついデリカは大声で叫んだ。

「え?」

みながデリカを見る。
ミアの隣にいたアーシャが「どういうことですの?」と問う。

デリカは慌てて、両手で口を押さえている。
ジェハスがデリカを鬼の形相でにらむ。

「毒だと?まさか王妃暗殺を企んだのか!?」
「ミア、助けて頂戴!」

ミアは、あわあわして助けを求めたデリカの背中をどんと突き飛ばした。

「きゃ!」

床に転んで手をつくデリカ。

「何するの!?」

デリカの非難は取り合おうとせず、ミアはジェハスにこう訴えた。

「王妃様暗殺を私は阻止しました!この女が王妃様の冠に毒を仕込んでいたのを知り、元の王冠とすり替えておきましたの!」

褒めて欲しいとばかりに、ミアは聴衆にもアピールした。
唐突な暴露話に聴衆は混乱している。

「余計なことを──!」

グラントたちは想定外の出来事に、タイミングを計れずにいる。

「バカ女どもが!大事な復位の儀を邪魔しおって!」

ミアはなぜ自分までののしられるのか、理解できなかった。

「なぜ?私は王妃暗殺を未然に──」
「なぜ儀式の前にそのことを伝えなかった?おかげでこんな危険な女の同席を許してしまったではないか!お前も同罪だ、ミア!」
「そ、そんな──!」

ジェハスは褒めるどころか、ミアに罵声を浴びせた。

「お許しください!つい魔がさしたのです、どうか、どうか──!」

がちがち震えて命乞いするデリカと一緒に、ミアも連行されていった。

二人は自滅した。悪妃たちは王宮から追い出されることになった。

「なんだ?誰か連れて行かれたぞ?」
「側妃が何かしたのか?」

まだ霧が薄いヴェールのように広がっており、聴衆は起こっていることがよくわかっていない。

「ヴィヴィアン、すまなかったな。これではれて再び夫婦となった」

ジェハスはヴィヴィアンの手を取った。

霧が邪魔だわ。
ジェハスの血を聴衆に暴露したいのに、これでは何が起こっているかよく見えない。
霧をはらす必要があるわ。

ヴィヴィアンは表向きはジェハスに微笑みながら、心では仕掛けるタイミングを見計らっていた。



急がないと……
戴冠が終わったということは、このあとすぐにヴィヴィアンたちは退場してしまう!

広場の片隅で、焦る心を必死に落ち着かせながら、アレクは聴衆の外側から弓を構えた。

狙うのはヴィヴィアンの右腕にはめられた腕輪だ。さらには、直径2センチ程度の魔封じの黒石を砕かなければならない。

だが、霧が波のように動き、アレクの視界をさえぎる。
腕輪までの距離、約80メートル。
警備兵に気づかれないようにするにはある程度、離れた場所から射る必要があった。

失敗は許されない。チャンスは一度だけだ。

もう少し、もう少し、腕輪を高く上げてくれ、ヴィヴィアン。

アレクの額に冷や汗が流れた。

ヴィヴィアンがなかなか矢を射ないアレクを察し、ジェハスの肩に手をかけるふりをして、右手を高く上げた。

今だ!
 


アレクから放たれた矢が寸分のズレもなく軌道を描き、霧の海を抜けていく。

腕輪が迫る──



ッシュガギン!


見事、魔封じの黒石が砕けた。

「やった!!!」

ヴィヴィアンの体に再び魔力が満ちてきた。

「なんだ、今のは!?誰か矢を射たのか!!?」

ジェハスが完全に気付く前に!

ヴィヴィアンは素早く呪文を唱えた。

──風よ、霧を断て。



突然、広場に風が吹き始め、霧を遠くへ運んでいった。

「急に霧が晴れたぞ?」
「おい、あれが王妃様か!?」
「噂には聞いていたが、なんて美しさだ!」

聴衆はにわかに開けた視界にはっきりと姿を現したヴィヴィアンに、感嘆の声をもらした。

時は満ちた。
今、ジェハスの偽りの血を証明すれば、確実に彼を倒せる。

グラントと仲間の騎士たちが聴衆の間から一斉に飛び出した。
騎士たちが警備兵と切り結んでいる間、グラントが壇上に飛び乗った。

グラントを狙って数人の狙撃手が銃口を向けた。

ッシュバシュバッ!

アレクの矢が立て続けに狙撃手の眉間に突き刺さった。

「ジェハス!スーザンとロン男爵の仇だ!!!」

背後から切り掛かったグラントの剣が、ジェハスの脇腹に突き刺さった。

「きゃあああ!陛下が!」

霧がはれたことで、起こっていることが周知のこととなった。
逃げ出すものもいたが、多くの聴衆は突然はじまった暗殺劇に釘付けになっている。

ジェハスは苦痛の顔も見せず、グラントの剣を引き抜いた。

「なぜだ!?」

刺し傷からなぜか血が流れない。
これでは血を布に染み込ませることができない。

ジェハスは人並外れた筋力で傷を一時的にふさぎ、止血したのだ。
父グスタフは戦場で傷を負っても血さえ出ないと言われていた。グスタフの武神のような体をジェハスも受け継いでいた。

信じられない光景に、聴衆がどよめいている。

「怪物か!?」
「騎士を応援したいが、あんなやつに勝てるのか?」

アレクがジェハスの腕に矢を射たが、ジェハスは小さなトゲを抜くかのように矢を引っこ抜いて捨てた。

もう一度剣で突こうとするグラントをなぐりつけたジェハスは、グラントの頭をつかみ、高台の下へ投げ飛ばした。

味方の騎士たちも、応援に来た王立軍の兵士たちに次々と取り押さえられていく。

まずい、早くけりを付けないと!

今度は兵から銃を奪ったアレクがジェハスの肩を撃ち抜いた。
だがやはりジェハスの傷口からは血が出なかった。

「銃もだめなのか!」

ジェハスはアレクを見つけ、壇上に引きずり上げた。

「アレク!!」

ヴィヴィアンが駆け寄ろうとすると、ジェハスが兵から槍を受け取り、アレクの腕を槍で突き刺した。

「ぐあ!」
「アレク!」
「動くな、ヴィヴィアン。お前がもう迷わなくていいように、こいつの息の根を止めてやる」

ジェハスはアレクが逃げないように腹を踏みつけた。

計画は失敗だ。
せめてヴィヴィアンだけでも──!

「ヴィヴィアン、逃げろ!!」

アレクが叫ぶ。
ジェハスがアレクの胸めがけて槍を構えた瞬間。




ヴィヴィアンがナイフで自身の胸を突いた。



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