追放同然で遠国に献上された古代種の姫を王太子が溺愛しているらしい

nanahi

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40 ルシウスの帰還

まずは自分のことを翡翠が思い出してくれるかどうかが大事だ。ルシウスはそう思いながらマハ王国の門のそばにうまく身を隠しながらたどり着いた。ルヒカンド王立軍の兵士たちが警備で王宮の周囲をうろうろしている。

道中、マハがルヒカンド軍により蹂躙された傷跡をルシウスは目撃してきた。焼かれた街。命を落とした者たちの簡素で大量の墓。あんなに麗しく栄えていたマハの国土が泣いているようだ……

翡翠と私が婚姻するためには、この国を正常に戻さなければならない。ルヒカンドの者たちも含め、記憶を取り戻させるにはどうしたらいいか。ルシウスはふつふつと湧き上がってくる怒りと共に、記憶改竄の犯人を思い出していた。

ガネシュだ。あの者に術を解かせるのだ。ルヒカンドの王太子に使いを送り、ガネシュを差し出すよう伝えるのだ。『王女のためだ』と書けば素直に応じるだろう。

その後のことは今考えまい。翡翠に会いにいく。そして遠くない未来、従兄弟の自分が翡翠の夫となるのだ。

「黒曜様ではないですか!? 生きてらっしゃったのですね!」

マハ王国軍の残党兵がルシウスに気づき声をかけてきた。久々に本当の名で呼ばれたな、とルシウスは自分の運命を面白く思いながら残党兵をねぎらう。

「よくぞ耐えて生き残ってくれたな」

「陛下は意識が戻らず危篤状態です。王妃様のお話では翡翠様が王位継承する日も近いとのことでした」

「そうか……何ともおいたわしいことだ。私はこれから王宮へ入ろうと思う」

「私が内密にご案内いたします」

ルシウスは残党兵の手引きで王宮へと入り込んでいった。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


「黒曜! 生きていたのですね!!」

ルシウスの顔を見るなり、王妃が駆け寄り手を握りしめてきた。ここは王妃の間の裏側にある隠し部屋だ。ルヒカンドの者たちが知らない安全な場所だった。

「一番お辛い時にそばにいられず申し訳ありませんでした」

「何を申すのです! お前が生きていてくれただけでもどんなにか私たちの力となるか……」

王子が全ていなくなり、王は危篤状態。心細かっただろうに、やつれながらも王妃は気丈にふるまい品格も失っていなかった。

「お前は行方知らずのため生死不明となっています。翡翠の夫となる大事な身です。くれぐれも敵兵に見つからないように。しばらくはここを使いなさい」

侍従に変装したマハの残党兵がルシウスの身の回りの世話をすることになった。

「翡翠はどこに」

一番聞きたかったことをルシウスはようやく口にした。王妃は表情をかげらせ答えた。

「ほとんど部屋に閉じこもってばかりで。母の私にはわかります。ルヒカンドで何かあったのでしょう。けれど話そうとしません。黒曜、お前が翡翠に寄り添ってあげて頂戴」

「もちろんです」そう答えながらも、ルシウスの頭に王太子の顔が浮かんでいた。自分は王太子を忘れさせることができるだろうか。いや何を気弱になっている。自分は正々堂々と翡翠の夫を名乗れる立場になったのだ。邪魔者を全てこの手で消して──

ルシウスの言う邪魔者とは、王太子のことではなかった。ルシウスは戦の混乱に紛れ、決して償うことのできない重罪を犯していた──
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