追放同然で遠国に献上された古代種の姫を王太子が溺愛しているらしい

nanahi

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48 術が解ける

鉄檻の中のガネシュは移送中、自分の異変に気づき始めていた。

「体がどうしようもなくだるい……それに気のせいだろうか、腕の皮膚が黒く変色してきている」

ガネシュはしとしとと背後から恐怖が追ってくるような焦燥感を抱いていた。鉄檻にところどころ貼られている魔封じの護符が鈍く光り続けている。

「護符が光っているということは僕の何かに反応しているのだろうか?」

自分は一体どうなるのか。魔術も使えない今、されるがままだ。

「ジェーンは大丈夫だろうか……」

ルヒカンドに置いてきたジェーンのことが無性に心配だった。体が僕と同じような事になっていたら怖くて泣いているかもしれない。ジェーンは無謀だし足手まといだと思っていたが、不思議なことに今では同胞として見捨てられない存在になっていた。

「どうにかして祖国に帰らなければ……」

ガネシュは諦めていなかった。囚われの身であってもひっそりと機会をうかがい考えを巡らせていた。


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憤りに近い怒りと悔しさを抱えたまま、王太子は父王やマール家父娘を連れ、大勢のルヒカンド兵と共に謁見の間へと入った。ガネシュの鉄檻は部屋の前方に置かれた。

翡翠はどこにいる。

王太子は周辺をくまなく観察したが姿が見えない。

女王として同席はしないのだろうか? ルシウスが言っていた婚約の儀というのが気に掛かる。真実を知りたい。翡翠の口から。

先ほどの再会から王太子は翡翠への想いばかりが募っていた。マール家父娘はそうとも知らず、王太子の後ろで期待を胸に嬉しそうな笑みを浮かべている。

「お父様、きっと王太子殿下が不届き者のガネシュをこらしめて、ルヒカンドの威厳をお示しになるのではないかしら?」

「きっとそうだろう。さすが未来のお前の婿殿だ。頼もしい限りだな」

謁見の間は天井が高く、広いホールのような重厚な作りだ。前方の高い段の上にかつてマハ王が鎮座していた玉座がある。ルヒカンド王は当然のようにその玉座に座るため段を上ろうと足をかけた。

「待たれよ」

ルシウスが現れ、ルヒカンド王に待ったをかけた。黒髪緑眼となったルシウスのことをルヒカンド王は最初誰だか認識できなかった。しかも、銀糸が散りばめられた黒いビロードの豪奢な衣装を身につけた姿は王族のようだったので尚更だった。

「ルシウスです、父上」と王太子に低い声でささやかれ、ようやくルヒカンド王はかつての部下を思いだした。

「ルシウスだと? 姿を消したと聞いていたがなぜここにいるのだ?」

アンダルケとジェーンも「まさかあれがルシウス? 親衛部隊長だった?」といぶかしがっている。ルシウスは不敵な笑みを浮かべたまま答えた。

「世界を元に戻すためだ。お前たちに誰が主人かよくよくわからせてやろう」

「なんだと?」

ルヒカンド王は侮辱的な発言に怒りを露わにした。ルヒカンド兵たちもルシウスの態度に怒りを覚え、剣を抜こうと構えた。

「やめよ!」

それを察した王太子が命じる。皆は知らされていないので無理もないが、これからガネシュが施した記憶操作を解くのだ。

「しかし──!」

兵たちが疑問を呈するが王太子は強く首を横にふった。

「やれ」

王太子が兵士たちを制する様子を横目に、ルシウスはマハの残党兵に命令した。

残党兵はガネシュの檻の中に入り、背後から剣をガネシュの首元に当て「記憶改竄の術を解け」と命令した。

「魔力が──」

ガネシュは今は不可能だと抵抗したが、王太子が檻の魔封じの護符を全て剥ぎ取って言った。

「ガネシュよ、お前も一国の王太子というのなら自分のやったことに責任を取るのだ」

残党兵の剣がガネシュの首に徐々に当たり、血が一筋流れた。

自分がここで死んでしまったらジェーンも祖国に帰れなくなる。僕が気まぐれに平行移動してしまったばかりに。

何とかしなければ、という切迫した強い思いがあふれる。

「ここで死ぬわけにはいかない!」

ガネシュがそう叫んだとき、一気に力が身体中に満ちた。ガネシュの思いに呼応するように再びアプリが起動した。

驚きながらもガネシュはだるさの残る震える指で、目の前に現れたアプリメニューから”記憶改竄術リセット”の項目を表示した。これを選択したら何が起こるのかわからなかったが、今はやるしかない。ガネシュは指に魔力を込めた。

「実行」

アプリのメニューが光り、リセットが実行された。
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