追放同然で遠国に献上された古代種の姫を王太子が溺愛しているらしい

nanahi

文字の大きさ
64 / 71

62 闇の穴

深い川の底。アクアマリンのように輝く鱗の水龍がゆったりと泳いでいる。

数えきれないほどの魚たちが一箇所に集まっている。魚の隙間から、透明な空気の膜に守られ、眠り続けている男が見える。

男の指がピクリと動く。

<翡翠が……助けを呼んでいる>

水龍が男の膜に近づき口の先で破ると、魚たちが一斉に離れた。男が眠そうな目をゆっくりと開ける。漆黒の髪にエメラルドグリーンの瞳が精悍な顔立ちの男に品格を与えている。

水の中で起き上がると、男は顔を寄せて来た水龍のあごをなでた。

<ありがとう、水龍よ……お前が助けてくれたのだな>

水龍は顎をなでられ気持ちよさそうにしている。

<礼をしたいところだが、私は急ぎ行かなければならない所がある>

聡明そうな目で男をじっと見つめた後、水龍は口をぱかっと大きく開け、そのまま男を飲み込んでしまった。


∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


「あれ? ここはどこだ? ノスカ王国に着かないぞ」

ガネシュは違和感を感じ、つぶやいた。ガネシュ、翡翠、ジェーンがいる場所は、七色に歪んだ空間だった。

見知らぬ女性を連れて来たガネシュに疑問を抱いたジェーンはガネシュに質問した。

「殿下、異国の者までお連れになって、一体どうなさるおつもりですの?」

「すまない。私の想い人だ。この者を王太子妃とする。申し訳ないがジェーン、君は第一側妃だ」

「えええ!!!?」

ジェーンは仰天して翡翠を凝視し、目を皿のように丸くしている。

「お前、勝手に何を言っている??」

翡翠はガネシュへの怒りも忘れ、年下の異国の少年が言い出したことに困惑した。

「心配いらないよ。ノスカ王国は大陸一のお金持ちだから」

「そういう問題ではないのだが」

「ああ、それよりここから出ないと」

この歪んだ空間はワープホールの中かもしれない。ならば出口があるはずだ。僕の魔力が足りずに、出口に辿り着く前に降りてしまったのかもしれない。

先ほど、全力で魔力を振り絞ったので、すぐには魔術を使えそうになかった。うーん、どうしたら……

ガネシュが思案し始めたとき、ガネシュとジェーンの後ろを指差し翡翠が不穏な声を出した。

「おい、黒いものが近づいてくるぞ」

え? とガネシュとジェーンが後ろを振り向いた時──

「きゃああああ!」

ジェーンの足元が崩れ始めた。ジェーンは突然地面がなくなり下に落ちそうになっている。危機一髪、ガネシュがジェーンの腕を掴み、翡翠と力を合わせて引っ張り上げた。

「空間が闇に飲まれていっている。ここも崩れるぞ」

3人は追ってくる崩壊の闇から逃れるべく必死で走る。ガネシュは力任せに魔術で空間の壁を攻撃してみるも、攻撃が壁に吸い込まれただけで全く効き目がない。

「出口はどこだ!!」

焦りが募る。何とか生き延びて来たけど、もうここまでなのか? せっかく翡翠を手に入れたのに──

息切れしているジェーンの手を引いてやりながら走る優しい翡翠にガネシュの心が痛んだ。だめだ、諦めるな! どこかに突破口があるはずだ。

ガネシュが気持ちを立て直して前を向くと、前方に光る穴が見えた。

「あった!! 出口だ、あそこまで頑張るんだ!!」

やっと希望が見えたと思った3人だったが、無情にもついに闇が追いついてしまった。

「うわああ!」
「きゃああ!」

3人はなすすべもなくぽっかりと開いた大きな穴に落下していった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

​「役立たず」と捨てられた仮面聖女、隣国の冷徹皇帝に拾われて真の力が目醒める〜今さら戻ってこいと言われても溺愛されすぎて忙しいので無理です

まさき
恋愛
​「役立たずの偽聖女め、その不気味な仮面ごと消えてしまえ!」 ​十年もの間、仮面で素顔を隠し、身代わり聖女として国を支えてきたリゼット。 しかし、異母妹が聖女として目醒めたことで、婚約者の第一王子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 ​捨てられた先は、凶悪な魔獣が跋扈する『死の森』。 死を覚悟したリゼットだったが、仮面の下の本音は違った。 ​(……あー、やっとあのブラック職場からおさらばですわ! さっさと滅びればいいんですわ、あんな国!) ​清々した気持ちで毒を吐くリゼットの前に現れたのは、隣国の冷徹皇帝・ガイウス。 彼はリゼットの仮面の下に隠された「強大すぎる魔力」と、表の顔とは裏腹な「苛烈な本性」を瞬時に見抜き、強引に連れ去ってしまう。 ​「気に入った。貴様は今日から、私のものだ」 ​バルディア帝国へと連行されたリゼットを待っていたのは、冷徹なはずの皇帝からの、逃げ場のない過保護な溺愛だった……。 ​一方、真の聖女(リゼット)を失った王国は、守護の結界が崩壊し絶体絶命の危機に陥る。 「戻ってきてくれ」と泣きつく王子たちに対し、皇帝の腕の中に収まったリゼットは、極上のスイーツを頬張りながら優雅に言い放つ。 ​「お断りいたしますわ。私、今とっても忙しい(溺愛されている)んですもの」 ​仮面の下で毒を吐くリアリスト聖女と、彼女を離さない執着皇帝の、大逆転溺愛ファンタジーが開幕! ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」