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63 ノスカ王国
ガネシュが翡翠とジェーンの肩を抱き、3人は体を寄せ合っていた。
体が浮いている。とうとう自分達は死んだのか? そう思った時、上から声が降って来た。
「頑張れ! まだ間に合う!!」
少年の声が3人を励まし、ガネシュのベルトを掴み、一気にみなを引き上げた。
体にまとわりつくような重力から解放され、3人は明るい外へと倒れ込んだ。ガネシュが体を起こすと、そこは見慣れた離宮の林だった。
「やった、ノスカ王国だ! 脱出できたんだ!!」
ガネシュの歓喜の声にジェーンと翡翠は安堵のため息をもらす。
「みんな大丈夫かい?」
3人を覗き込む少年がフードをとった。
「と、特級魔術師が……ロネシュラル殿下!?」
ジェーンは衝撃的な事実についていけず、目を白黒させている。
「ロネシュラル!! ありがとう、助けてくれたんだね!」
ガネシュが少年に飛び抱きつく。背丈がほとんど変わらず、顔もよく似ている少年に。
「ガネシュラルたちはワープホールに閉じ込められていたんだよ。僕が無理やり出口をこじあけたんだ」
「やっぱり僕の兄さんだ。頼りになる」
ガネシュは涙ぐみながらロネシュラルを見つめる。
「あの……兄さんを差し置いて僕なんかが王太子になってごめん」
思い出したようにシュンとして肩を落とした弟の言葉をロネシュラルは慌てて否定した。
「いいんだよ! あの時僕はむしろホッとしたんだ。僕はコツコツ何かを研究するのは好きだけど、国事の判断を下すのは荷が重過ぎて僕には無理だったんだ。こういう風に誰かをアシストする役目の方が僕には合ってる。それと」
今度はジェーンに向けてロネシュラルが謝罪した。
「正体を明かせずごめん、ジェーン。僕はガネシュラルが王太子になってから、密かに好きな魔術の研究に明け暮れてたんだ。そんな時、君が移動術を使える魔術師を探してると噂で聞いて、力を貸したくなってしまって」
「そうだったんですの……私の事などお気になさらないでくださいまし。よかったですわ。かつて仲睦まじかったおふたりがまた微笑みあっていらして」
王太子選定の儀以降、疎遠になってしまった兄弟がわだかまりなく笑い合っている姿にジェーンは心が温かくなった。
「実は一つ問題があるんだ」
ロネシュラルがワープホールの危機から解放され安堵していた3人を見渡して告げる。
「今の3人は霊体なんだよ。実体は並行世界に置いて来たままになっている」
「えっ!?」
驚いた3人は自分の体をまじまじと観察する。そして気づく。太陽は高く登っている。それなのに──
「影がない!!!」
「しかも、ガネシュラルとジェーンの体はおそらく魔物化して、もう取り戻せないだろう」
「そんな……」
おろおろする2人にロネシュラルは「万が一のために準備しておいたんだ」と、地面の布を取り払った。そこにはガネシュとジェーンそっくりの擬似クローンが横たわっていた。
「ガネシュラルとジェーンはこの器の中に入れば以前と同じように暮らしていけるはずだ。ただ──」
ロネシュラルが申し訳なさそうに翡翠を見る。
「あなたの分はなくて……」
「当然だろうな」
翡翠はこの状況に半ば諦めたように言った。
「マハへ帰りたい」
王太子殿下の元へ──
そう心で呟いた時、翡翠は立ちくらみを覚え、地面にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か!?」
ガネシュが差し伸べようとした手をふと止める。翡翠の体がノイズを発し消えかかっていた。
「祖国から離れ、霊体が弱ってるんだ。このままだとこの人は消滅してしまう」
ロネシュラルの推論に「どうすれば助かるんだい!?」と血相を変えてガネシュが問う。
「僕の妃にしたくて連れて来たんだ」
「そうだったのか……すぐにワープホールを開く魔力は今の僕にもガネシュラルにもないだろう。向こうから迎えに来てもらうしかない」
「迎えにって……マハ王国にそんな術使える者は──」
いない──絶望感に押しつぶされそうになりながら、ガネシュは「翡翠、勝手な事しちゃって、ごめん」と声を振り絞った。
体が浮いている。とうとう自分達は死んだのか? そう思った時、上から声が降って来た。
「頑張れ! まだ間に合う!!」
少年の声が3人を励まし、ガネシュのベルトを掴み、一気にみなを引き上げた。
体にまとわりつくような重力から解放され、3人は明るい外へと倒れ込んだ。ガネシュが体を起こすと、そこは見慣れた離宮の林だった。
「やった、ノスカ王国だ! 脱出できたんだ!!」
ガネシュの歓喜の声にジェーンと翡翠は安堵のため息をもらす。
「みんな大丈夫かい?」
3人を覗き込む少年がフードをとった。
「と、特級魔術師が……ロネシュラル殿下!?」
ジェーンは衝撃的な事実についていけず、目を白黒させている。
「ロネシュラル!! ありがとう、助けてくれたんだね!」
ガネシュが少年に飛び抱きつく。背丈がほとんど変わらず、顔もよく似ている少年に。
「ガネシュラルたちはワープホールに閉じ込められていたんだよ。僕が無理やり出口をこじあけたんだ」
「やっぱり僕の兄さんだ。頼りになる」
ガネシュは涙ぐみながらロネシュラルを見つめる。
「あの……兄さんを差し置いて僕なんかが王太子になってごめん」
思い出したようにシュンとして肩を落とした弟の言葉をロネシュラルは慌てて否定した。
「いいんだよ! あの時僕はむしろホッとしたんだ。僕はコツコツ何かを研究するのは好きだけど、国事の判断を下すのは荷が重過ぎて僕には無理だったんだ。こういう風に誰かをアシストする役目の方が僕には合ってる。それと」
今度はジェーンに向けてロネシュラルが謝罪した。
「正体を明かせずごめん、ジェーン。僕はガネシュラルが王太子になってから、密かに好きな魔術の研究に明け暮れてたんだ。そんな時、君が移動術を使える魔術師を探してると噂で聞いて、力を貸したくなってしまって」
「そうだったんですの……私の事などお気になさらないでくださいまし。よかったですわ。かつて仲睦まじかったおふたりがまた微笑みあっていらして」
王太子選定の儀以降、疎遠になってしまった兄弟がわだかまりなく笑い合っている姿にジェーンは心が温かくなった。
「実は一つ問題があるんだ」
ロネシュラルがワープホールの危機から解放され安堵していた3人を見渡して告げる。
「今の3人は霊体なんだよ。実体は並行世界に置いて来たままになっている」
「えっ!?」
驚いた3人は自分の体をまじまじと観察する。そして気づく。太陽は高く登っている。それなのに──
「影がない!!!」
「しかも、ガネシュラルとジェーンの体はおそらく魔物化して、もう取り戻せないだろう」
「そんな……」
おろおろする2人にロネシュラルは「万が一のために準備しておいたんだ」と、地面の布を取り払った。そこにはガネシュとジェーンそっくりの擬似クローンが横たわっていた。
「ガネシュラルとジェーンはこの器の中に入れば以前と同じように暮らしていけるはずだ。ただ──」
ロネシュラルが申し訳なさそうに翡翠を見る。
「あなたの分はなくて……」
「当然だろうな」
翡翠はこの状況に半ば諦めたように言った。
「マハへ帰りたい」
王太子殿下の元へ──
そう心で呟いた時、翡翠は立ちくらみを覚え、地面にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か!?」
ガネシュが差し伸べようとした手をふと止める。翡翠の体がノイズを発し消えかかっていた。
「祖国から離れ、霊体が弱ってるんだ。このままだとこの人は消滅してしまう」
ロネシュラルの推論に「どうすれば助かるんだい!?」と血相を変えてガネシュが問う。
「僕の妃にしたくて連れて来たんだ」
「そうだったのか……すぐにワープホールを開く魔力は今の僕にもガネシュラルにもないだろう。向こうから迎えに来てもらうしかない」
「迎えにって……マハ王国にそんな術使える者は──」
いない──絶望感に押しつぶされそうになりながら、ガネシュは「翡翠、勝手な事しちゃって、ごめん」と声を振り絞った。
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