1 / 84
1 逃亡
牢に幽閉され、何日が経っただろう。
「おい、ちゃんと生きてるだろうな?もうすぐバルクレー王陛下がいらっしゃるぞ」
鉄柵の扉を開け入ってきた牢番二人が、冷たい石床に転がっている私を足でこづく。
「う…」
私がわずかに身じろぎすると「何だ、生きてるじゃないか。まぎらわしいことするな」と私のお腹を蹴った。
「この女が生きているだけでいいらしいぜ。アンデッドを祓うには」
「一介の聖女のくせに陛下に逆らうからこんなことになるんだ。奇妙な色の髪しやがって。聖女の証らしいが不気味なんだよ」
牢番はさくら色の私の髪を踏みにじった後、痛みで身を縮ませている私をせせら笑いながら、牢の鍵を閉め出ていった。
私は聖女ローザリア。大聖女ドロテアの霊から啓示を受け、聖女に覚醒したのは約一年前。
数年前からこの大陸ではアンデッドが増殖し人々を困らせていた。そこに現れたのがアンデッドを祓うという稀有な能力を得た私だった。
それ以来、私の力をめぐり大陸中の国で争奪戦が始まった。皆、最初は甘い言葉で近づいてくるが、私の力をコントロールしようと次第に横暴になっていく。
今度こそ…と思いながら逃げて渡り歩いて、四つ目のこの国・ザーラ王国でも同じだった。
「ローザリア。そろそろ私の妾になる気になったか?」
牢番二人に先導され、大柄で高圧的な男が牢の前に立った。
来た。この国の王、バルクレー・ハイグン・ザーラ。30歳で王位を継ぎ、瞬く間に近隣諸国を配下に加えていった武闘派だ。武には優れているが人望は皆無。叔父であった先王を暗殺して王位を奪ったと陰で囁かれていた。
私は床に倒れたまま、顎ひげをたくわえたバルクレーを睨んだ。
「ふん。まだ反抗する気か。そんな態度ではいつまでもここから出られんぞ」
「私を…だました…くせに…!」
バルクレーは両手をわずかに開き、呆れたような顔をした。
「隣国の王女と婚約していたことを隠していたのは悪かった。だが何も私をぶたなくてもよいだろう?そんな態度だから私に婚約破棄されるのだ」
「最初から私と結婚するつもりなんかなかったんでしょう!?私の力が欲しくて嘘を──」
がん!!!
突然バルクレーが鉄柵を蹴った。私はびくりと身を震わせる。
「ちょっと優しくすればつけ上がりやがって。これだから平民出は。私の妾になれることがどれだけ誉高いことかお前にはわからないようだな」
バルクレーは狂犬のような恐ろしい目で私にすごむ。
「しばらく水も与えなくていいぞ」
バルクレーは吐き捨てるように牢番にそう命じた後、乱暴な足取りで去っていった。
誰がお前の妾なんかに…
そう言おうとしたが衰弱してついに声が出なかった。
自由がない。
私は水も食事も与えられず、ぼんやりした頭で考える。婚約破棄された挙句、妾になれと言われ、断ると幽閉されてしまうなんて。
どんなに強い力を持っていても、この世界で私は自由に生きられない。こんなことならいっそ、たとえ無謀だとしても。
この大陸から逃げ出したい──
意識を失っていく中、ただひたすらにそう強く願った。
ある満月の夜、チャンスは突然訪れた。
牢番が牢の扉を開け、三日ぶりに夕食を運んできた時だった。
「うぎゃあああ!!!」
「助けてくれえええ!!!」
突如あちこちで絶叫が聞こえた。
「逃げろお!アンデッドだあ!!!」
「聖女がいるのになんで──ぎゃああ!!」
虐げられ弱りきっていた私は、アンデッドを祓う力もまたかなり弱ってきていたらしい。そのせいでアンデッドの群れが城に侵入したのだ。
アンデッドが一匹、私の牢獄に近づいて来た。恐怖に駆られ食事の皿をひっくり返し逃げようとする牢番に、アンデッドはあんぐりと口を開け噛み付いた。
今だ!
私は力をふり絞り、その隙に牢から飛び出した。
「待ってくれ!助けてくれえ!!」
悲痛な叫びにも振り返らず、私は夜に紛れ一目散に走った──
「おい、ちゃんと生きてるだろうな?もうすぐバルクレー王陛下がいらっしゃるぞ」
鉄柵の扉を開け入ってきた牢番二人が、冷たい石床に転がっている私を足でこづく。
「う…」
私がわずかに身じろぎすると「何だ、生きてるじゃないか。まぎらわしいことするな」と私のお腹を蹴った。
「この女が生きているだけでいいらしいぜ。アンデッドを祓うには」
「一介の聖女のくせに陛下に逆らうからこんなことになるんだ。奇妙な色の髪しやがって。聖女の証らしいが不気味なんだよ」
牢番はさくら色の私の髪を踏みにじった後、痛みで身を縮ませている私をせせら笑いながら、牢の鍵を閉め出ていった。
私は聖女ローザリア。大聖女ドロテアの霊から啓示を受け、聖女に覚醒したのは約一年前。
数年前からこの大陸ではアンデッドが増殖し人々を困らせていた。そこに現れたのがアンデッドを祓うという稀有な能力を得た私だった。
それ以来、私の力をめぐり大陸中の国で争奪戦が始まった。皆、最初は甘い言葉で近づいてくるが、私の力をコントロールしようと次第に横暴になっていく。
今度こそ…と思いながら逃げて渡り歩いて、四つ目のこの国・ザーラ王国でも同じだった。
「ローザリア。そろそろ私の妾になる気になったか?」
牢番二人に先導され、大柄で高圧的な男が牢の前に立った。
来た。この国の王、バルクレー・ハイグン・ザーラ。30歳で王位を継ぎ、瞬く間に近隣諸国を配下に加えていった武闘派だ。武には優れているが人望は皆無。叔父であった先王を暗殺して王位を奪ったと陰で囁かれていた。
私は床に倒れたまま、顎ひげをたくわえたバルクレーを睨んだ。
「ふん。まだ反抗する気か。そんな態度ではいつまでもここから出られんぞ」
「私を…だました…くせに…!」
バルクレーは両手をわずかに開き、呆れたような顔をした。
「隣国の王女と婚約していたことを隠していたのは悪かった。だが何も私をぶたなくてもよいだろう?そんな態度だから私に婚約破棄されるのだ」
「最初から私と結婚するつもりなんかなかったんでしょう!?私の力が欲しくて嘘を──」
がん!!!
突然バルクレーが鉄柵を蹴った。私はびくりと身を震わせる。
「ちょっと優しくすればつけ上がりやがって。これだから平民出は。私の妾になれることがどれだけ誉高いことかお前にはわからないようだな」
バルクレーは狂犬のような恐ろしい目で私にすごむ。
「しばらく水も与えなくていいぞ」
バルクレーは吐き捨てるように牢番にそう命じた後、乱暴な足取りで去っていった。
誰がお前の妾なんかに…
そう言おうとしたが衰弱してついに声が出なかった。
自由がない。
私は水も食事も与えられず、ぼんやりした頭で考える。婚約破棄された挙句、妾になれと言われ、断ると幽閉されてしまうなんて。
どんなに強い力を持っていても、この世界で私は自由に生きられない。こんなことならいっそ、たとえ無謀だとしても。
この大陸から逃げ出したい──
意識を失っていく中、ただひたすらにそう強く願った。
ある満月の夜、チャンスは突然訪れた。
牢番が牢の扉を開け、三日ぶりに夕食を運んできた時だった。
「うぎゃあああ!!!」
「助けてくれえええ!!!」
突如あちこちで絶叫が聞こえた。
「逃げろお!アンデッドだあ!!!」
「聖女がいるのになんで──ぎゃああ!!」
虐げられ弱りきっていた私は、アンデッドを祓う力もまたかなり弱ってきていたらしい。そのせいでアンデッドの群れが城に侵入したのだ。
アンデッドが一匹、私の牢獄に近づいて来た。恐怖に駆られ食事の皿をひっくり返し逃げようとする牢番に、アンデッドはあんぐりと口を開け噛み付いた。
今だ!
私は力をふり絞り、その隙に牢から飛び出した。
「待ってくれ!助けてくれえ!!」
悲痛な叫びにも振り返らず、私は夜に紛れ一目散に走った──
あなたにおすすめの小説
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!
もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。
ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。
王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。
ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。
それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。
誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから!
アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。
※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。