亡命聖女─アンデッドを祓える力は内緒だけど、隣の大陸の王陛下が溺愛してくる

nanahi

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1 逃亡

牢に幽閉され、何日が経っただろう。


「おい、ちゃんと生きてるだろうな?もうすぐバルクレー王陛下がいらっしゃるぞ」


鉄柵の扉を開け入ってきた牢番二人が、冷たい石床に転がっている私を足でこづく。


「う…」


私がわずかに身じろぎすると「何だ、生きてるじゃないか。まぎらわしいことするな」と私のお腹を蹴った。


「この女が生きているだけでいいらしいぜ。アンデッドをはらうには」

「一介の聖女のくせに陛下に逆らうからこんなことになるんだ。奇妙な色の髪しやがって。聖女の証らしいが不気味なんだよ」


牢番はさくら色の私の髪を踏みにじった後、痛みで身を縮ませている私をせせら笑いながら、牢の鍵を閉め出ていった。




私は聖女ローザリア。大聖女ドロテアの霊から啓示を受け、聖女に覚醒したのは約一年前。

数年前からこの大陸ではアンデッドが増殖し人々を困らせていた。そこに現れたのがアンデッドをはらうという稀有な能力を得た私だった。

それ以来、私の力をめぐり大陸中の国で争奪戦が始まった。皆、最初は甘い言葉で近づいてくるが、私の力をコントロールしようと次第に横暴になっていく。

今度こそ…と思いながら逃げて渡り歩いて、四つ目のこの国・ザーラ王国でも同じだった。




「ローザリア。そろそろ私の妾になる気になったか?」


牢番二人に先導され、大柄で高圧的な男が牢の前に立った。

来た。この国の王、バルクレー・ハイグン・ザーラ。30歳で王位を継ぎ、瞬く間に近隣諸国を配下に加えていった武闘派だ。武には優れているが人望は皆無。叔父であった先王を暗殺して王位を奪ったと陰で囁かれていた。


私は床に倒れたまま、あごひげをたくわえたバルクレーを睨んだ。


「ふん。まだ反抗する気か。そんな態度ではいつまでもここから出られんぞ」


「私を…だました…くせに…!」


バルクレーは両手をわずかに開き、呆れたような顔をした。


「隣国の王女と婚約していたことを隠していたのは悪かった。だが何も私をぶたなくてもよいだろう?そんな態度だから私に婚約破棄されるのだ」

「最初から私と結婚するつもりなんかなかったんでしょう!?私の力が欲しくて嘘を──」


がん!!!


突然バルクレーが鉄柵を蹴った。私はびくりと身を震わせる。


「ちょっと優しくすればつけ上がりやがって。これだから平民出は。私の妾になれることがどれだけ誉高いことかお前にはわからないようだな」


バルクレーは狂犬のような恐ろしい目で私にすごむ。


「しばらく水も与えなくていいぞ」


バルクレーは吐き捨てるように牢番にそう命じた後、乱暴な足取りで去っていった。


誰がお前の妾なんかに…


そう言おうとしたが衰弱してついに声が出なかった。




自由がない。


私は水も食事も与えられず、ぼんやりした頭で考える。婚約破棄された挙句、妾になれと言われ、断ると幽閉されてしまうなんて。


どんなに強い力を持っていても、この世界で私は自由に生きられない。こんなことならいっそ、たとえ無謀だとしても。


この大陸から逃げ出したい──


意識を失っていく中、ただひたすらにそう強く願った。






ある満月の夜、チャンスは突然訪れた。

牢番が牢の扉を開け、三日ぶりに夕食を運んできた時だった。


「うぎゃあああ!!!」

「助けてくれえええ!!!」


突如あちこちで絶叫が聞こえた。


「逃げろお!アンデッドだあ!!!」

「聖女がいるのになんで──ぎゃああ!!」


虐げられ弱りきっていた私は、アンデッドを祓う力もまたかなり弱ってきていたらしい。そのせいでアンデッドの群れが城に侵入したのだ。

アンデッドが一匹、私の牢獄に近づいて来た。恐怖に駆られ食事の皿をひっくり返し逃げようとする牢番に、アンデッドはあんぐりと口を開け噛み付いた。


今だ!


私は力をふり絞り、その隙に牢から飛び出した。


「待ってくれ!助けてくれえ!!」


悲痛な叫びにも振り返らず、私は夜に紛れ一目散に走った──





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