32 / 84
32 クシュマトハの秘密
しおりを挟む
自分の館に戻ったネイブはソファーに沈み込み、たち騒ぐ胸の高鳴りを感じながら今夜の出来事を思い起こしていた。
ローザリア…
アンデッドを素手で倒し、傷さえも治癒した奇跡の少女。ユークリッドに手を引かれ去るローザリアの背中を見送りながら、ネイブはその背に抱きつきたい衝動を必死で堪えた。
あの髪と目の色さえ銀色であれば、クシュマトハ族であることは明白なのに。
村にいたころ、昔の絵巻物で学んだクシュマトハの秘密がある。古代クシュマトハ族が誇ったとされる力だ。
それは。
アンデッドを滅する力。
しかも、それは王位継承者だけが使えたという。
君は何処で生まれた?
クシュマトハの血を継いでいるのか?
今すぐにでも確かめたかったが、ユークリッドが庇護している限り、安易にローザリアを連れ出すことは難しかった。
じれったい。いっそのこと、君をさらって逃げようか。
果てない望みを抱きながら、ネイブは初めて感じる幸福感の中、久々に深く眠った。
--------------------
ユークリッドに付き添われ離れに戻ったローザリアは、部屋に入るなり脱力し、気を失った。
レオが運ぼうとするも「僕がやる」と言ってユークリッドはローザリアを抱き抱え、そっとベッドに寝かせた。
「かわいそうに…一度に色んなことが起こって疲れたんだろう」
動かない人形のようなローザリアの寝顔をじっと眺めながら、ユークリッドはローザリアの手を握った。
手など、握らないでください…!
レオは心の中で叫ぶ。ローザリアがいっそ、アンデッドになってくれたらどんなによかっただろう。よりにもよって、アンデッドを屠れる聖女だと周知のこととなってしまった。
ローザリアを見つめるユークリッドの目はうっとりとしてさえ見える。美しいだけではない、超常的な力を備え持つ少女が自分のそばにあることに誇りを感じているような。
このままでは陛下の心はこの娘から離れられなくなる。そんな焦燥感がレオの脳裏にこびりつく。
「僕が守る。君はすごい力を持っているけど、どこか危なっかしいんだ」
ユークリッドは両手でローザリアの手を包み込み、その手の甲にそっとキスをした。
……ロ…
まどろみの中。声が聞こえる。
……ローロ…
違う、私の名はローザリア。
でも懐かしく感じるのはなぜ?
孤児院の院長先生が微笑みながら教えてくれた話がある。
「あの時、あなたは1歳か2歳くらいに見えたわ。娼館に売られそうになっていたあなたを買い戻した後、”お名前は?”と聞いたの。そしたら小さいあなたは”ローロ”って答えたの。女性でローロはおかしいでしょ?だから、きっとローザとでも呼ばれてたんだろうと思って、あなたの名前をローザリアにしたのよ」
優しかった院長先生。私が大聖女ドロテアの啓示を受け聖女に選ばれた時もとても喜んでくれた。
「おめでとう、ローザリア。これからは聖女としてあなたの人生を歩むのよ」
先生、私今、逃げてばかりなの。
私の人生は一体どこにあるの──?
ローザリア…
アンデッドを素手で倒し、傷さえも治癒した奇跡の少女。ユークリッドに手を引かれ去るローザリアの背中を見送りながら、ネイブはその背に抱きつきたい衝動を必死で堪えた。
あの髪と目の色さえ銀色であれば、クシュマトハ族であることは明白なのに。
村にいたころ、昔の絵巻物で学んだクシュマトハの秘密がある。古代クシュマトハ族が誇ったとされる力だ。
それは。
アンデッドを滅する力。
しかも、それは王位継承者だけが使えたという。
君は何処で生まれた?
クシュマトハの血を継いでいるのか?
今すぐにでも確かめたかったが、ユークリッドが庇護している限り、安易にローザリアを連れ出すことは難しかった。
じれったい。いっそのこと、君をさらって逃げようか。
果てない望みを抱きながら、ネイブは初めて感じる幸福感の中、久々に深く眠った。
--------------------
ユークリッドに付き添われ離れに戻ったローザリアは、部屋に入るなり脱力し、気を失った。
レオが運ぼうとするも「僕がやる」と言ってユークリッドはローザリアを抱き抱え、そっとベッドに寝かせた。
「かわいそうに…一度に色んなことが起こって疲れたんだろう」
動かない人形のようなローザリアの寝顔をじっと眺めながら、ユークリッドはローザリアの手を握った。
手など、握らないでください…!
レオは心の中で叫ぶ。ローザリアがいっそ、アンデッドになってくれたらどんなによかっただろう。よりにもよって、アンデッドを屠れる聖女だと周知のこととなってしまった。
ローザリアを見つめるユークリッドの目はうっとりとしてさえ見える。美しいだけではない、超常的な力を備え持つ少女が自分のそばにあることに誇りを感じているような。
このままでは陛下の心はこの娘から離れられなくなる。そんな焦燥感がレオの脳裏にこびりつく。
「僕が守る。君はすごい力を持っているけど、どこか危なっかしいんだ」
ユークリッドは両手でローザリアの手を包み込み、その手の甲にそっとキスをした。
……ロ…
まどろみの中。声が聞こえる。
……ローロ…
違う、私の名はローザリア。
でも懐かしく感じるのはなぜ?
孤児院の院長先生が微笑みながら教えてくれた話がある。
「あの時、あなたは1歳か2歳くらいに見えたわ。娼館に売られそうになっていたあなたを買い戻した後、”お名前は?”と聞いたの。そしたら小さいあなたは”ローロ”って答えたの。女性でローロはおかしいでしょ?だから、きっとローザとでも呼ばれてたんだろうと思って、あなたの名前をローザリアにしたのよ」
優しかった院長先生。私が大聖女ドロテアの啓示を受け聖女に選ばれた時もとても喜んでくれた。
「おめでとう、ローザリア。これからは聖女としてあなたの人生を歩むのよ」
先生、私今、逃げてばかりなの。
私の人生は一体どこにあるの──?
11
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)
鷹 綾
恋愛
『永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる』
永遠の十七歳――
それは、誰もが一度は憧れる“理想”のはずだった。
だがキクコ・イソファガスにとって、それは紛れもない呪いである。
三百年前、王国を救うために力を使い果たした結果、
彼女は歳を取らない身体を得てしまった。
見た目は少女のまま、中身だけが時代を重ねていく存在として。
人々を救えば救うほど、
見送る別れは増え、
静かに生きようとすればするほど、
世界のほうが彼女を放っておかない。
魔王を倒してようやく戻った平穏な日常――
そう思った矢先、王家から持ちかけられたのは
「女王になってほしい」という、とんでもない提案だった。
政務も陰謀も人間関係も、全部面倒。
本音は、紅茶と本と静かな暮らしだけでいい。
だが王位継承問題に首を突っ込んだ結果、
意外な“最適解”を導き出してしまい、
さらに事態は思わぬ方向へ転がっていく。
――そして現れたのは、
自分ファーストで強引な若き国王からの、まさかの求婚。
「永遠に若いなんて、羨ましいだろ?」
「いいえ。呪いよ」
これは、
最強だけど面倒ごとが嫌いな“永遠の十七歳”と、
暴走気味だが真っ直ぐすぎる王が織りなす、
少しズレた恋と王国の物語。
永遠は祝福か、それとも呪いか。
答えはきっと――
静かな紅茶の時間の中にある。
---
婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?
春夜夢
恋愛
処刑台に立たされた公爵令嬢エリス・アルメリア。
無実の罪で婚約破棄され、王都中から「悪女」と罵られた彼女の最期――
……になるはずだった。
『この者、神に選ばれし者なり――新たなる聖女である』
処刑の瞬間、突如として神託が下り、国中が凍りついた。
死ぬはずだった“元・悪女”は一転、「聖女様」として崇められる立場に。
だが――
「誰が聖女? 好き勝手に人を貶めておいて、今さら許されるとでも?」
冷笑とともに立ち上がったエリスは、
“神の力”を使い、元婚約者である王太子を皮切りに、裏切った者すべてに裁きを下していく。
そして――
「……次は、お前の番よ。愛してるふりをして私を売った、親友さん?」
清く正しい聖女? いいえ、これは徹底的に「やり返す」聖女の物語。
ざまぁあり、無双あり、そして……本当の愛も、ここから始まる。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる