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nanahi

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37 優斗 沙耶視点

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あれから西くんから何度も着信やメッセージが来たけど、全部見てない。
着信拒否は、さすがに気が引けてできなかった。

私は一時期、西くんに心を許した。
そんな相手に裏切られるのが怖かった。

優斗のときのトラウマだ。


「ああ、どうしたら……」


一条専務がいてくれても、西くんとの関係が壊れてしまった。
私は悩みすぎて一睡もできず、頭が重かった。


どこかに行きたいな。
誰もいないどこかに。


私は何気なく窓の外を見た。
すると、マンションの門の前で、誰かが旗を振っているのが見えた。


──!!!


優斗だった。
しかも、旗には、

”一条専務に気をつけろ”

と書いてあった。

私は頭を殴られたようなショックで優斗を見ていた。
どこまでおかしな人なのか。

通行人たちが、優斗を怪訝な目でチラチラ見ている。


ああ!
何で!?


専務に電話したけど、留守電になってしまった。

優斗が何か叫んでいる。
通行人が集まり出した。


このままだとマンションの住人に迷惑をかけてしまう。
この部屋は専務の持ち物なのに。


私は行かなければいいのに、罪悪感にさいなまれ、下へ降りてしまった。





「やめて、優斗!!」

私は野次馬に頭を下げながら、優斗をマンションの壁際に引っ張って行った。

「お願い。もう付きまとわないで」

優斗はぽかんとした顔で私を見た。

「俺は沙耶のためを思って来たんだよ? さっきさ、一条専務が怪しい男としゃべってるの偶然見かけたんだ。口元にほくろがある──」
「専務の悪口、言わないで!!! 何にも知らないくせに!!!」

私は怒鳴っていた。
こんな大声を出したのは生まれて初めてだった。

「もうウンザリなの!! あの日、私を捨てたのはあなたでしょう!? 私、優斗との結婚も夢見てたのに。どんどん私に冷たくなって、とうとうあの人と──」

私はわっと泣き出した。
恐怖と、疲労と、不安で、頭の中がぐしゃぐしゃだった。

「ごめん。本当にごめん」

優斗はおろおろして私に何度も謝った。

「俺がバカだった。やっと気付いたんだ。俺には沙耶しかいないって」

優斗が私の両手を握り、じっと私の目を見た。

冷静な判断力を失っていた私は、優斗の必死な表情に少しだけ同情の気持ちがわいてきた。


もし。
もし、本当に反省してるのなら。
警察への通報を取り下げようか。
元の鞘には戻れないけど、一時期は好きだった人なんだもの。


私が口を開きかけた時、

「手を離せ!」

と、誰かの声がした。
声の主を見ると、警官だった。

その後ろから、一条専務が現れた。

「沙耶さん、助けに来たよ」
「え?」

私はすぐには理解ができなかった。
優斗は警官たちに取り押さえられた。

「何だよ!俺は何もしてないのに!! おい、そこの一条専務は悪人だぞ!! そっちを逮捕しろよ!!!」

そう叫びながら優斗はあっという間に連行されて行った。


私はしばらく呆然としていた。


助けて、くれたの?
一条専務が?

そうか、警告無視して近づいたら、逮捕されることもあるんだっけ。


私はちょっと腑に落ちなかったけど、なるべくしてなったんだと、自分を納得させた。





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