全てを奪われた公爵令嬢は第二王子と女男爵を破滅に導く

nanahi

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29 湖

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「逃げられたみたい」

王太子と同席し、アメリオの報告を聞いたシアラは館に戻り、ディオに作戦が失敗したことを話していた。

「アメリオが言うには、悪魔が関与しているんじゃないかって。魔術の形跡があったみたいなの」
「悪魔……誰だ」

ディオはテーブルの紅茶を手付かずのまま考え込んだ。

「でも希望はまだ残ってる。金庫の鍵が使われないままだったらしいの。つまり、レイモンドたちは実印を取り出せていないわ」
「そうなると、銀行を見張っていればいいのか」
「いえ。しばらく来ないと思うわ。危ない橋は好んで渡りたくはないはずよ。実印をなかなか取り出せない状況になった今、今度は私を殺しにくると思うの」
「!」

ディオは顔をしかめた。レイモンドたちは強硬手段に出てくるかもしれない。

「俺は反対だ。今からレイモンドとジョゼフィーヌを殺してくる」
「待って」

席を立ったディオをシアラが制止した。

「気持ちはありがたいけど、これは私の問題なの。あの人たちを簡単になんて死なせたくない」

ディオはシアラの強い意志に、再び椅子に腰を下ろした。

「……わかった」

しぶしぶディオは承諾した。

「ありがとう。明日、王太子殿下とアメリオと作戦会議をしてくる」

シアラは最近、硬い表情が増えた。

「ちょっと外を散歩しないか」

ディオは席を立ち、シアラの手を取った。




湖のほとりをふたりで歩く。睡蓮が白や桃色の花弁を開き、涼しげな風を運ぶ。
シアラとのんびりするのは久々だった。

「もしもだけど、シアラは誰かと結婚したら、どこに住みたい?」

ディオは何の気なしを装ってシアラに訪ねた。
誰か、というのはもちろん自分だが、照れ臭くてはっきり言えないディオだ。

「んー。ここかな」

シアラはいともあっさりと回答を出した。
ディオの顔がぱあっとほころぶ。

「本当に!?ここなら子どもができても──」

ここまで言って、はたとディオは我に帰る。
シアラがうつむいて頬を赤らめている。
数秒遅れてディオの顔から火が吹く。

「べべ別に急いでいるわけじゃ──っ!」
「いいわよ」
「へ?」

ディオは目を点にして、シアラを見返す。

「今なんて言った?」
「何も言ってない」

ぷいとあっちを向いてしまったシアラの耳は赤く染まったままだ。

「お願い、もう一回言って!」
「知らないっ」

シアラの周りをぐるぐる周りながら、ディオが何度も頼んでいる。

永遠を信じてもいいのかな。

ディオは愛しい番との戯れに、永遠を夢見るのだった。




その夜、自分の腕枕で寝息をたてているシアラをディオは眠れずに眺めていた。

ずっとそばにいてほしい。

そう願えば願うほど遠くにいってしまう気がして、ディオは自分の胸にシアラを引き寄せた。

「ん……」

夢を見ているのだろうか。
シアラは「子ども……」と寝言を言っている。

昼間のディオとのやりとりをもう一度夢の中で繰り返しているのかもしれない。

シアラとの子どもが欲しい。

こう思うのは本能が相手を求めている証拠だ。

ディオはぐっとシアラが愛おしくなり、長い髪をかきいだき、その唇に口付けをした。





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