29 / 39
29 湖
しおりを挟む
「逃げられたみたい」
王太子と同席し、アメリオの報告を聞いたシアラは館に戻り、ディオに作戦が失敗したことを話していた。
「アメリオが言うには、悪魔が関与しているんじゃないかって。魔術の形跡があったみたいなの」
「悪魔……誰だ」
ディオはテーブルの紅茶を手付かずのまま考え込んだ。
「でも希望はまだ残ってる。金庫の鍵が使われないままだったらしいの。つまり、レイモンドたちは実印を取り出せていないわ」
「そうなると、銀行を見張っていればいいのか」
「いえ。しばらく来ないと思うわ。危ない橋は好んで渡りたくはないはずよ。実印をなかなか取り出せない状況になった今、今度は私を殺しにくると思うの」
「!」
ディオは顔をしかめた。レイモンドたちは強硬手段に出てくるかもしれない。
「俺は反対だ。今からレイモンドとジョゼフィーヌを殺してくる」
「待って」
席を立ったディオをシアラが制止した。
「気持ちはありがたいけど、これは私の問題なの。あの人たちを簡単になんて死なせたくない」
ディオはシアラの強い意志に、再び椅子に腰を下ろした。
「……わかった」
しぶしぶディオは承諾した。
「ありがとう。明日、王太子殿下とアメリオと作戦会議をしてくる」
シアラは最近、硬い表情が増えた。
「ちょっと外を散歩しないか」
ディオは席を立ち、シアラの手を取った。
湖のほとりをふたりで歩く。睡蓮が白や桃色の花弁を開き、涼しげな風を運ぶ。
シアラとのんびりするのは久々だった。
「もしもだけど、シアラは誰かと結婚したら、どこに住みたい?」
ディオは何の気なしを装ってシアラに訪ねた。
誰か、というのはもちろん自分だが、照れ臭くてはっきり言えないディオだ。
「んー。ここかな」
シアラはいともあっさりと回答を出した。
ディオの顔がぱあっとほころぶ。
「本当に!?ここなら子どもができても──」
ここまで言って、はたとディオは我に帰る。
シアラがうつむいて頬を赤らめている。
数秒遅れてディオの顔から火が吹く。
「べべ別に急いでいるわけじゃ──っ!」
「いいわよ」
「へ?」
ディオは目を点にして、シアラを見返す。
「今なんて言った?」
「何も言ってない」
ぷいとあっちを向いてしまったシアラの耳は赤く染まったままだ。
「お願い、もう一回言って!」
「知らないっ」
シアラの周りをぐるぐる周りながら、ディオが何度も頼んでいる。
永遠を信じてもいいのかな。
ディオは愛しい番との戯れに、永遠を夢見るのだった。
その夜、自分の腕枕で寝息をたてているシアラをディオは眠れずに眺めていた。
ずっとそばにいてほしい。
そう願えば願うほど遠くにいってしまう気がして、ディオは自分の胸にシアラを引き寄せた。
「ん……」
夢を見ているのだろうか。
シアラは「子ども……」と寝言を言っている。
昼間のディオとのやりとりをもう一度夢の中で繰り返しているのかもしれない。
シアラとの子どもが欲しい。
こう思うのは本能が相手を求めている証拠だ。
ディオはぐっとシアラが愛おしくなり、長い髪をかきいだき、その唇に口付けをした。
王太子と同席し、アメリオの報告を聞いたシアラは館に戻り、ディオに作戦が失敗したことを話していた。
「アメリオが言うには、悪魔が関与しているんじゃないかって。魔術の形跡があったみたいなの」
「悪魔……誰だ」
ディオはテーブルの紅茶を手付かずのまま考え込んだ。
「でも希望はまだ残ってる。金庫の鍵が使われないままだったらしいの。つまり、レイモンドたちは実印を取り出せていないわ」
「そうなると、銀行を見張っていればいいのか」
「いえ。しばらく来ないと思うわ。危ない橋は好んで渡りたくはないはずよ。実印をなかなか取り出せない状況になった今、今度は私を殺しにくると思うの」
「!」
ディオは顔をしかめた。レイモンドたちは強硬手段に出てくるかもしれない。
「俺は反対だ。今からレイモンドとジョゼフィーヌを殺してくる」
「待って」
席を立ったディオをシアラが制止した。
「気持ちはありがたいけど、これは私の問題なの。あの人たちを簡単になんて死なせたくない」
ディオはシアラの強い意志に、再び椅子に腰を下ろした。
「……わかった」
しぶしぶディオは承諾した。
「ありがとう。明日、王太子殿下とアメリオと作戦会議をしてくる」
シアラは最近、硬い表情が増えた。
「ちょっと外を散歩しないか」
ディオは席を立ち、シアラの手を取った。
湖のほとりをふたりで歩く。睡蓮が白や桃色の花弁を開き、涼しげな風を運ぶ。
シアラとのんびりするのは久々だった。
「もしもだけど、シアラは誰かと結婚したら、どこに住みたい?」
ディオは何の気なしを装ってシアラに訪ねた。
誰か、というのはもちろん自分だが、照れ臭くてはっきり言えないディオだ。
「んー。ここかな」
シアラはいともあっさりと回答を出した。
ディオの顔がぱあっとほころぶ。
「本当に!?ここなら子どもができても──」
ここまで言って、はたとディオは我に帰る。
シアラがうつむいて頬を赤らめている。
数秒遅れてディオの顔から火が吹く。
「べべ別に急いでいるわけじゃ──っ!」
「いいわよ」
「へ?」
ディオは目を点にして、シアラを見返す。
「今なんて言った?」
「何も言ってない」
ぷいとあっちを向いてしまったシアラの耳は赤く染まったままだ。
「お願い、もう一回言って!」
「知らないっ」
シアラの周りをぐるぐる周りながら、ディオが何度も頼んでいる。
永遠を信じてもいいのかな。
ディオは愛しい番との戯れに、永遠を夢見るのだった。
その夜、自分の腕枕で寝息をたてているシアラをディオは眠れずに眺めていた。
ずっとそばにいてほしい。
そう願えば願うほど遠くにいってしまう気がして、ディオは自分の胸にシアラを引き寄せた。
「ん……」
夢を見ているのだろうか。
シアラは「子ども……」と寝言を言っている。
昼間のディオとのやりとりをもう一度夢の中で繰り返しているのかもしれない。
シアラとの子どもが欲しい。
こう思うのは本能が相手を求めている証拠だ。
ディオはぐっとシアラが愛おしくなり、長い髪をかきいだき、その唇に口付けをした。
68
あなたにおすすめの小説
(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。
青空一夏
恋愛
グレイスは大商人リッチモンド家の娘である。アシュリー・バラノ侯爵はグレイスよりずっと年上で熊のように大きな体に顎髭が風格を添える騎士団長様。ベースはこの二人の恋物語です。
アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのがグレイスの父親である。ところがお金の返済日にアシュリー・バラノ侯爵は満額返せなかった。そこで娘の好みのタイプを知っていた父親はアシュリー・バラノ侯爵にある提案をするのだった。それはグレイスを妻に迎えることだった。
年上のアシュリー・バラノ侯爵のようなタイプが大好きなグレイスはこの婚約話をとても喜んだ。ところがその三日後のこと、一人の若い女性が怒鳴り込んできたのだ。
「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは・・・・・・婚約破棄です!」
そうしてさらには見知らぬ若者までやって来てグレイスに婚約破棄を告げるのだった。
ざまぁするつもりもないのにざまぁになってしまうコメディー。中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。途中からざまぁというより更生物語になってしまいました。
異なった登場人物視点から物語が展開していくスタイルです。
[完結]だってあなたが望んだことでしょう?
青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。
アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。
やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー
(完結)私はもう他人です!
青空一夏
恋愛
マリアの両親は平民で、ピナベーカリーというパン屋を経営している。一歳違いの妹ソフィアはピンクブロンドにピンクの大きな瞳の愛らしい女の子で、両親に溺愛されていた。マリアも妹を可愛がっており、幼いころの姉妹仲はとても良かった。
マリアが学園に通う年齢になった頃、小麦粉の値上げでピナベーカリーの経営がうまくいかず、マリアは学園に行くことができない。同じ街のブロック服飾工房に住み込みで働くことになった。朝早く実家のパン屋を手伝い、服飾工房に戻って夜まで針仕事。 お給料の半分は家に入れるのだが、マリアはそれを疑問にも思わなかった。
その1年後、ソフィアが学園に通う年齢になると、ピナベーカリーが持ち直し、かなりパンが売れるようになった。そのためソフィアは裕福な子女が通う名門ルクレール女学園の寮に行くことになった。しかし、ルクレール女学園の学費は高く、マリアは給料を全部入れてくれるように頼まれた。その時もマリアは妹の幸せを自分のものとして捉え、両親の言うとおりにそれを受け入れる。
マリアは家族思いで誠実。働き者なところをブロック服飾工房のオーナーであるレオナードに見初められる。そして、レオナードと結婚を誓い合い、両親と妹と引き合わせたところ・・・・・・
これは、姉妹格差で我慢させられてきた姉が、前世の記憶を取り戻し、もう利用されないと、自分の人生を歩もうとする物語です。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?
青空一夏
恋愛
私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。
私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・
これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。
※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。
※途中タグの追加や削除もありえます。
※表紙は青空作成AIイラストです。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です
青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。
目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。
私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。
ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。
あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。
(お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)
途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。
※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる