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11 アミアン様
注目の的となっているアミアンの元に、二人の王子もやってきた。
「シャーウッド公爵、その麗しいご令嬢を私たちにも紹介してください」
「アリスト兄上、バルトラム兄上!」
セドリックは目の前に来た二人の兄、王太子アリストと第二王子バルトラムの名を呼んだ。
「セドリック、お前だけ独り占めするのはずるいぞ?」
「シャーウッド公爵の妹君だと聞こえてきましたが」
二人の兄は控えめなセドリックとは対照的に溌剌としており、社交上手だった。
「アリスト殿下、バルトラム殿下。ようやく私のかわいい妹を紹介できます」
公爵は楽しそうにアミアンの肩を抱いた。
「アミアン・ブラックウッド。私の愛しき義妹です。以後お見知りおきを」
アリストとバルトラムの視線が、同時にアミアンへと注がれた。
アミアンはセドリックを含めて三人もの王子に囲まれ、心臓の鼓動が耳元まで跳ね上がるのを感じながらも、ゆっくりと、そして淀みなく一歩前へ踏み出した。
──大丈夫。お義兄様がついている。
私はブラックウッドの名を背負っているのだから。
アミアンはそっと両手でドレスの裾を摘み上げると、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、片足を斜め後ろへと滑らせた。
「初めてお目にかかります、殿下。アミアンにございます」
深く、優雅な、非の打ち所がないカーテシーだった。その姿は、王家の姓「エレヴァーン」を名乗らずとも、周囲の貴族たちに「さすがはブラックウッド大公が認めた令嬢である」と知らしめるには十分だった。
兄の王子二人は、歓迎の表情でアミアンを見た。兄たちがアミアンに興味を持ったことをセドリックはすぐに察し、とたんに不安になった。
「なんとお呼びすれば?」
高貴でスマートな佇まいの王太子アリストがアミアンから目を離さないまま問うた。
「アミアン嬢はどうかな?」
「バルトラム兄上、それだとあまりに近すぎて失礼にあたりませんか?」
普段滅多に口を挟んでこない弟が珍しく前に出てきた姿に、バルトラムもアリストも一瞬、意外そうに目を丸めた。
「そうか。ええと、家系図上では大公殿下はお祖父様の弟で、シャーウッド公爵は私たちにとって父上の従兄弟にあたるから、つまり……」
人懐こさのあるバルトラムが思案し始めた。
「義理の従叔母になるな。これはややこしいな。親族としてお呼びするなら”叔母上”か」
「セドリックと同い年だろう?私たちより年下であるのに叔母上とは背中がかゆくなる」
「アミアン様では少々堅苦しいな。ではやっぱり最初に戻ってアミアン嬢はどうかな」
上の王子ふたりは勝手に呼び名を決めてしまった。ゆかいげに眺めていたシャーウッド公爵がアミアンに目配せをした。
「殿下たちがよろしいのでしたら、そのようにお呼びになってくださいませ」
義兄の合図に応じるようにアミアンは笑みを見せ、同意した。
アミアン嬢……!?
無理だ。僕にはそんな風にはとても呼べない……。
本当は兄たちのように近しい呼び名を使ってみたかったが、真面目なセドリックは叔母上に対する礼儀が邪魔をして、できそうになかった。
どうして僕は兄上たちに似なかったのだろう。
天性の社交術で楽しそうにアミアンと歓談を始めた兄二人が眩しくて、セドリックはアミアンをかすめ盗られたような寂しさを覚えていた。
この場にいた誰もがまだ気づいていなかった。
実はセドリックこそ、のちにブラックウッド大公と並び『賢王弟』と称される器だった。アミアンに恋することで解き放たれていくその才気は、この時はまだ内気な胸の奥にひそんだままだった。
「シャーウッド公爵、その麗しいご令嬢を私たちにも紹介してください」
「アリスト兄上、バルトラム兄上!」
セドリックは目の前に来た二人の兄、王太子アリストと第二王子バルトラムの名を呼んだ。
「セドリック、お前だけ独り占めするのはずるいぞ?」
「シャーウッド公爵の妹君だと聞こえてきましたが」
二人の兄は控えめなセドリックとは対照的に溌剌としており、社交上手だった。
「アリスト殿下、バルトラム殿下。ようやく私のかわいい妹を紹介できます」
公爵は楽しそうにアミアンの肩を抱いた。
「アミアン・ブラックウッド。私の愛しき義妹です。以後お見知りおきを」
アリストとバルトラムの視線が、同時にアミアンへと注がれた。
アミアンはセドリックを含めて三人もの王子に囲まれ、心臓の鼓動が耳元まで跳ね上がるのを感じながらも、ゆっくりと、そして淀みなく一歩前へ踏み出した。
──大丈夫。お義兄様がついている。
私はブラックウッドの名を背負っているのだから。
アミアンはそっと両手でドレスの裾を摘み上げると、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、片足を斜め後ろへと滑らせた。
「初めてお目にかかります、殿下。アミアンにございます」
深く、優雅な、非の打ち所がないカーテシーだった。その姿は、王家の姓「エレヴァーン」を名乗らずとも、周囲の貴族たちに「さすがはブラックウッド大公が認めた令嬢である」と知らしめるには十分だった。
兄の王子二人は、歓迎の表情でアミアンを見た。兄たちがアミアンに興味を持ったことをセドリックはすぐに察し、とたんに不安になった。
「なんとお呼びすれば?」
高貴でスマートな佇まいの王太子アリストがアミアンから目を離さないまま問うた。
「アミアン嬢はどうかな?」
「バルトラム兄上、それだとあまりに近すぎて失礼にあたりませんか?」
普段滅多に口を挟んでこない弟が珍しく前に出てきた姿に、バルトラムもアリストも一瞬、意外そうに目を丸めた。
「そうか。ええと、家系図上では大公殿下はお祖父様の弟で、シャーウッド公爵は私たちにとって父上の従兄弟にあたるから、つまり……」
人懐こさのあるバルトラムが思案し始めた。
「義理の従叔母になるな。これはややこしいな。親族としてお呼びするなら”叔母上”か」
「セドリックと同い年だろう?私たちより年下であるのに叔母上とは背中がかゆくなる」
「アミアン様では少々堅苦しいな。ではやっぱり最初に戻ってアミアン嬢はどうかな」
上の王子ふたりは勝手に呼び名を決めてしまった。ゆかいげに眺めていたシャーウッド公爵がアミアンに目配せをした。
「殿下たちがよろしいのでしたら、そのようにお呼びになってくださいませ」
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アミアン嬢……!?
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本当は兄たちのように近しい呼び名を使ってみたかったが、真面目なセドリックは叔母上に対する礼儀が邪魔をして、できそうになかった。
どうして僕は兄上たちに似なかったのだろう。
天性の社交術で楽しそうにアミアンと歓談を始めた兄二人が眩しくて、セドリックはアミアンをかすめ盗られたような寂しさを覚えていた。
この場にいた誰もがまだ気づいていなかった。
実はセドリックこそ、のちにブラックウッド大公と並び『賢王弟』と称される器だった。アミアンに恋することで解き放たれていくその才気は、この時はまだ内気な胸の奥にひそんだままだった。
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