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17 失礼な公子
「ルパート殿下!そんな強引に失礼じゃないか……!」
セドリックは、アミアンの手に強引にキスをしたルパートに怒りをあらわにした。だが、ルパートはくだらなそうに鼻を鳴らした。
「こんなに美しい君の隣にいるのがあれでは台無しだな。セドリック王子……彼は実に地味だ。兄二人はあんなに華があるというのに。本当に兄弟か?」
アミアンの頬が怒りで赤らんだ。アミアンはまだ自分の手を握っているルパートの手を振り払うように離した。
「……ルパート殿下。セドリック殿下は建築史や構造学において、並ぶ者のない素晴らしい見識をお持ちなのです」
「ははっ! それが何の役に立つんだい?」
ルパートはアミアンの言葉を遮り、肩をすくめた。
「石ころの積み方や、カビの生えた歴史を知って何になる。そんなものは技官に任せていればいい。王族に必要なのは民を平伏させる威光と敵をなぎ倒す武力だ。図面を眺めて震えているような男に、君のような美しい花はふさわしくない」
アミアンがさらに反論しようとした時、ふとセドリックが呟いた。
「……おかしい」
セドリックは自分が侮辱されていることよりも、ずっと気になる何かを見つけてしまっていた。修復箇所とされた橋の中央の亀裂がどうにも不自然に見えたのだ。
「あの亀裂……雨の重みでついたものではない。もっと深い、基部の歪みからきているのではないか?」
セドリックの表情がサッと険しいものに変わった。彼はルパート側の技官が提出した図面を隅から隅まで頭の中に記憶していた。技官は「先日の大雨による経年劣化の亀裂」と断じ、表面的な補強作業を進めていた。しかし、セドリックの目にはその亀裂の角度がどうしても不自然に映った。
「ルパート殿下、あの亀裂の原因をもう一度よく調べたほうがいいかもしれません」
「ぷっ」
セドリックの問いかけにルパートが失笑した。
「大雨のせいで表面に亀裂が入っただけですよ。我が国の優秀な技官が言うのだから間違いありません。貴殿は素人のくせに、我が国の建築技術にケチをつけるつもりか?」
「いえ、そのようなつもりは──」
セドリックが感じた微かな違和感をルパートは経験の浅い王子の独り言だと聞き流した。このルパートの判断が後に騒動になることなど、夢にも思わず──。
「すみません。僕の気のせいだったようです……」
セドリックは違和感を押し殺し、謝罪した。本当は納得できていなかった。けれど、セドリックには自分の意見を通すほどの自信がなく、ルパートの言葉に押されるように言葉を飲んだ。
「殿下?」
顔色が冴えないセドリックにアミアンが声をかけた。
「何か気になられたことがおありなら、もっと技官と話されてみては?」
「いえ……その……」
セドリックは言い淀んだ。自分の意見を前に出すことがセドリックは一番苦手だった。ルパートともっと交渉すればよかったかもしれないが、セドリックは「では我々は失礼します」と早々にその場を離れた。
これだから僕はいつもみんなに負けてダメなんだ。
ひとり気持ちが沈んだ時、アミアンが、
「あのような無礼な方の言うことなど、お気になさらないでくださいませね」
と励ましの言葉をかけてくれた。セドリックは感動の面持ちでアミアンを見つめた。
お優しい方だ……。
堂々としているルパート殿下より、アミアン様は僕の味方をしてくれている。
そう思うと、さっきまで落ち込んでいた気持ちがふんわりとあたたかくなった。
護衛が「殿下、そろそろお時間です」と囁いた。
「あっ……もうこんな時間なのか」
あっという間に時間が過ぎていた。セドリックはもうすぐ公務が終わる時間が迫っていることに気づき、アミアンともう離れなければならないことをひどく寂しく感じた。
もっとアミアン様と一緒にいたい。
「……もし、許可がおりればですが……明後日はカシム遺跡に視察に行くんです。ご一緒にどうでしょうか……」
セドリックは断られる覚悟でアミアンに申し出てみた。
駄目かもしれない。
今日だって、情けない姿をさらしてしまったし。
返答を待つ間、心臓がバクバクし、不安でセドリックは目を合わせられなかった。
「ぜひご一緒したいですわ」
「えっ!」
セドリックは跳ねるように顔を上げた。
「本当ですか!?ではさっそく城に帰ったら母上に相談してみます!」
「良いお返事をいただけると楽しみにしております」
アミアンは子どもの頃から遺跡巡りが好きだったので、素直にセドリックの誘いが嬉しかった。
セドリック殿下とご一緒するのはとても楽しいわ。
大公の養女となって気を張る場面が多い中、セドリックといるとアミアンは不思議と心が安らいだ。アミアンもセドリックと同様、数少ない同胞に巡り会えたような明るい気持ちになっていた。
セドリックは、アミアンの手に強引にキスをしたルパートに怒りをあらわにした。だが、ルパートはくだらなそうに鼻を鳴らした。
「こんなに美しい君の隣にいるのがあれでは台無しだな。セドリック王子……彼は実に地味だ。兄二人はあんなに華があるというのに。本当に兄弟か?」
アミアンの頬が怒りで赤らんだ。アミアンはまだ自分の手を握っているルパートの手を振り払うように離した。
「……ルパート殿下。セドリック殿下は建築史や構造学において、並ぶ者のない素晴らしい見識をお持ちなのです」
「ははっ! それが何の役に立つんだい?」
ルパートはアミアンの言葉を遮り、肩をすくめた。
「石ころの積み方や、カビの生えた歴史を知って何になる。そんなものは技官に任せていればいい。王族に必要なのは民を平伏させる威光と敵をなぎ倒す武力だ。図面を眺めて震えているような男に、君のような美しい花はふさわしくない」
アミアンがさらに反論しようとした時、ふとセドリックが呟いた。
「……おかしい」
セドリックは自分が侮辱されていることよりも、ずっと気になる何かを見つけてしまっていた。修復箇所とされた橋の中央の亀裂がどうにも不自然に見えたのだ。
「あの亀裂……雨の重みでついたものではない。もっと深い、基部の歪みからきているのではないか?」
セドリックの表情がサッと険しいものに変わった。彼はルパート側の技官が提出した図面を隅から隅まで頭の中に記憶していた。技官は「先日の大雨による経年劣化の亀裂」と断じ、表面的な補強作業を進めていた。しかし、セドリックの目にはその亀裂の角度がどうしても不自然に映った。
「ルパート殿下、あの亀裂の原因をもう一度よく調べたほうがいいかもしれません」
「ぷっ」
セドリックの問いかけにルパートが失笑した。
「大雨のせいで表面に亀裂が入っただけですよ。我が国の優秀な技官が言うのだから間違いありません。貴殿は素人のくせに、我が国の建築技術にケチをつけるつもりか?」
「いえ、そのようなつもりは──」
セドリックが感じた微かな違和感をルパートは経験の浅い王子の独り言だと聞き流した。このルパートの判断が後に騒動になることなど、夢にも思わず──。
「すみません。僕の気のせいだったようです……」
セドリックは違和感を押し殺し、謝罪した。本当は納得できていなかった。けれど、セドリックには自分の意見を通すほどの自信がなく、ルパートの言葉に押されるように言葉を飲んだ。
「殿下?」
顔色が冴えないセドリックにアミアンが声をかけた。
「何か気になられたことがおありなら、もっと技官と話されてみては?」
「いえ……その……」
セドリックは言い淀んだ。自分の意見を前に出すことがセドリックは一番苦手だった。ルパートともっと交渉すればよかったかもしれないが、セドリックは「では我々は失礼します」と早々にその場を離れた。
これだから僕はいつもみんなに負けてダメなんだ。
ひとり気持ちが沈んだ時、アミアンが、
「あのような無礼な方の言うことなど、お気になさらないでくださいませね」
と励ましの言葉をかけてくれた。セドリックは感動の面持ちでアミアンを見つめた。
お優しい方だ……。
堂々としているルパート殿下より、アミアン様は僕の味方をしてくれている。
そう思うと、さっきまで落ち込んでいた気持ちがふんわりとあたたかくなった。
護衛が「殿下、そろそろお時間です」と囁いた。
「あっ……もうこんな時間なのか」
あっという間に時間が過ぎていた。セドリックはもうすぐ公務が終わる時間が迫っていることに気づき、アミアンともう離れなければならないことをひどく寂しく感じた。
もっとアミアン様と一緒にいたい。
「……もし、許可がおりればですが……明後日はカシム遺跡に視察に行くんです。ご一緒にどうでしょうか……」
セドリックは断られる覚悟でアミアンに申し出てみた。
駄目かもしれない。
今日だって、情けない姿をさらしてしまったし。
返答を待つ間、心臓がバクバクし、不安でセドリックは目を合わせられなかった。
「ぜひご一緒したいですわ」
「えっ!」
セドリックは跳ねるように顔を上げた。
「本当ですか!?ではさっそく城に帰ったら母上に相談してみます!」
「良いお返事をいただけると楽しみにしております」
アミアンは子どもの頃から遺跡巡りが好きだったので、素直にセドリックの誘いが嬉しかった。
セドリック殿下とご一緒するのはとても楽しいわ。
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