裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます

nanahi

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26 望まぬ見合い

セドリックとアミアンが胃の痛むような数日を過ごした後、イザーク・フェルカを交えた茶会が王宮の一室で開かれた。

最高級の茶葉が放つかぐわしい紅茶の香りが漂う中、表向きは優雅に始まった茶会だが、その実態は王によって仕組まれた顔合わせの場だった。

出席者は、王夫妻とアミアン。そして、第三王子という高貴な身分でありながら、実質的にはこの縁談を見届ける証人として同席したセドリック。

そこへ、今日の主役であるイザークが姿を現した。彼は王の右腕として国政を操るフェルカ侯爵の次男であり、王にとっては最も信頼のおける家系からの婿候補だった。

アミアンはこの日、淡いペールグリーンのシルクのドレスを纏っていた。セドリックが初めて見るドレスの色だ。それは王がイザークとの顔合わせ用に、彼の好みに合わせて整えさせたものだった。イザークはグリーンを好んでいた。 

アミアンは内心、ペールブルーのドレスで臨まずに済んだことに安堵していた。ペールブルーは、初めてセドリックと出会った日に着たドレスの思い出の色だ。王が選んだ男のために着たくはない、彼女にとっての聖域だった。

だが、セドリックの目には、その新調されたペールグリーンが残酷なほど新鮮に映った。まるで彼女が、新しい出会いのために特別に美しく装ったかのように見えたのだ。

アミアン様。
どうしてあなたは誰の前でも、残酷なまでに美しいのですか?

ひりつくような胸のかすれが、セドリックを息苦しくさせた。

「では、若い者同士でゆっくり語らうが良い。我々は公務があるのでな」

王は満足げにそう告げ、王妃を伴って席を立った。二人を自由にするための露骨な差配だ。退室の間際、王妃だけがアミアンとセドリックの痛々しい表情に気づき、密かに顔を曇らせていたが、王の決定を覆す言葉はとてもかけられなかった。

残されたイザークは、目の前に座るアミアンの気品ある美しさに、瞬く間に虜になった。

「アミアン様、実は私の母もベルシュタイン王国の伯爵家の出身なのです。あなたのお母上と同郷だと聞き、勝手ながら親近感を抱いておりました」

亡き母の故郷の名を聞き、アミアンの瞳に柔らかな光が宿った。

「ベルシュタインと縁がおありですの……?」

愛しい国の名にアミアンは思わずイザークに微笑みかけた。アミアンがイザークに話しかけるたび、セドリックは心の底から激しい嫉妬に焼かれた。

アミアンの視線の先ばかりを追いかけてしまう。自分ではない別の男を見つめ、声を弾ませる時間。セドリックの胸は苦悶の音を立て、自信は脆くも揺らいでいった。

アミアン様の隣に立つのは、他の男でもいいのか──

父王の寵愛を受ける侯爵家、その才気あふれる次男。自分の方が高位であるのに、王子の自分よりも彼女にふさわしいと王に認められた男を前に、二人を見守るしかないセドリックは消え入りそうな気持ちになっていった。

切なさに胸が塞がる。

”僕は、あなたを愛しています!”

叫びたかった。だが、王子という立場が、そして臣下との均衡を重んじる王の思惑が、その言葉を封じ込めた。決して言えない一言。言ってはならない一言だった。

アミアンは王命には抗えないが、節度を持ってイザークとの会話を保っていた。アミアンも心の中では始終セドリックが気にかかっていた。

だが、セドリックにアミアンの心遣いに気付ける余裕はなかった。華やかな歓談の笑い声が響く中、セドリックはただ一人、救いのない孤独の淵に取り残されていった。


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