裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます

nanahi

文字の大きさ
22 / 51

22 高まる想い

アミアンとセドリックの想いはますます高まり、互いを引寄せあっていった。

今日も二人はセドリックの私室にいた。セドリックがアミアンにピアノを一曲引き終えたあと、おもむろにアミアンがソファーから立ち上がった。

「殿下、私も弾かせていただいても?」
「アミアン様が?ええ、どうぞ。ぜひ」

セドリックと入れ替わり、アミアンはグランドピアノの鍵盤に指を滑らせた。

……この曲はまさか。

その旋律に、セドリックは思わず息を呑んだ。自分がアミアンに捧げたあの曲だった。

「あっ」

中盤まで差し掛かった時、アミアンの指がからまり、音を外してしまった。アミアンはほうと息を吐き、セドリックを見上げた。

「私ではダメですわね。殿下の曲をどうしてもまた聞きたくなってしまって、こっそり練習したんですけれど」
「アミアン様──」

セドリックは感激のあまり涙が込み上げてきた。一度しか聴いていな曲をここまで再現するには、どれほどの時間がかかったのだろう。一人ピアノに向かうアミアンの姿を想像し、その健気さにセドリックは居ても立っても居られなくなった。

セドリックがアミアンの後ろに立った。音楽家の側面を持つセドリックは曲が完成するまで教えたくなったのだ。

「アミアン様、ここはこう弾いた後、右手はこうで……」

セドリックがアミアンに指を重ね、鍵盤を押していった。

ドクン──!

アミアンは心臓が跳ねた。

ああ。
私はこの方のことを──

セドリックに触れられるだけで、これほど心臓が波打つのは恋だ。アミアンは頬を染めながら、セドリックの指の温もりにときめいていた。

鍵盤の位置などとてもアミアンの頭に入らなかった。セドリックに導かれるままに指を滑らす。グランドピアノの胎内から放たれる音は、アミアンにとって目が眩むほどの官能的な響きに感じられた。

教えることに夢中になっていたセドリックは自分の頬がアミアンに触れそうなほど近づいていたことに、今更ながら気づいた。

「あっ!す、すみません、つい──」

セドリックはさっとアミアンから体を離した。アミアンは無言だった。その頬を薔薇色に染めたまま、気恥ずかしそうにうつむいていた。

アミアン様……。

その姿がいじらしく、セドリックの胸にある欲望が迫ってきた。

抱きしめたい。

拳を握りしめる。

抱きしめたい。

体が緊張で固くなる。

アミアンは顔を伏せたまま、セドリックを待っているように見えた。

セドリックはそっと手を伸ばした。セドリックはゆっくりとひざまずき、アミアンの右手を静かに取ると、唇を寄せた。

そして、その唇をアミアンの手の甲に優しく口付けた。

「っ」

アミアンの手がピクリと反応した。

セドリックは口付けたまま、唇を少し滑らせ、アミアンの手の甲に深く沈めた。

「あ」

アミアンは体を撃ち抜かれたように全身を火照らせ、その愛の衝撃に固く目を瞑った。

アミアンの手が小刻みに震えているのを察し、セドリックは名残惜しそうにアミアンの手を解放した。

「……!」

アミアンは恥じらいのあまり、セドリックを直視できなかった。血は繋がっていなくとも、家系図上、大叔母にあたる目上の女性と恋仲になることは、王侯貴族の世界では禁忌とされていた。これは、今のセドリックにできる、ギリギリの愛の表現だった。

初めての出来事に、その日、二人は体を硬くしたまま言葉少なに別れた。互いの姿が見えなくなった後も、二人の胸の奥には焦がれるような恋情が狂おしいほどに渦巻いていた。


あなたにおすすめの小説

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!