裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます

nanahi

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19 崩落

アミアンが自分の曲で泣いてくれたことが、セドリックにこれまでにない自信を与えて始めていた。

「やっぱり言ったほうがいい」

セドリックは先日の商人の橋で見た亀裂がいまだ心に引っかかっていた。

『何か気になられたことがおありなら、もっと技官と話されてみては?』

このアミアンの言葉がどうしても頭から離れなかった。この言葉に背中を押されるように、セドリックは護衛を連れ、急遽、再び商人の橋を訪れた。


再度、橋のそばで亀裂を見たセドリックは、わずかに石が軋む音に総毛立った。

セドリックは確信した。

この橋は崩壊する──

「みんな、避難するんだ!!」

セドリックが突然、大声を上げた。

「貴殿はまだウロチョロしていたのか?」

今日も視察に来ていたルパートが顔色を変えて叫んでいるセドリックに迷惑そうな視線を向けた。

「この橋は間もなく崩壊します!殿下も逃げてください!」
「はあ?貴殿は我が国の天才技師を愚弄する気か?半年前の地震にも耐えたこの素晴らしい橋を……!」

誇りを傷つけられ、ルパートの顔は不快に歪んだ。

「そうです……。これは世界に誇れる素晴らしい橋です。天才技師の図面も拝見しました。一ミリのズレもない合理的で完璧な計算だった。半年前、この地を襲った局地的な地震で、一帯の石造物はことごとく壊滅した。ところがこの橋だけが奇跡的に耐えた」
「当たり前だ。歴史に名を残した天才技師だぞ?貴殿はおかしなことを言っていないで、城でオセロでもしているがいい」

ルパートはバカにしたように鼻を鳴らした。

「だからこそ問題なのです」
「は?」

ルパートの口元が怒りで引きつった。ルパートはぎろりとセドリックを睨み、あえて無言の圧をかけてくる。それでもセドリックはルパートの眼光に抗うように、ぐっと顔を上げ、彼を見据えた。

「橋周辺の地震の記録は、約1500年間皆無。つまり300年前に建てられたこの橋は、耐震設計がされていない」

冷静なその言葉に周りにいた技師たちの顔色がさっと変わった。セドリックの説は橋に入った亀裂に対して核心を突く指摘だった。技師たちは天才技師の威光に目が曇り、この橋の致命的な弱点が見えていなかった。

「おいみんな……セドリック殿下の言う通り、逃げたほうがいいかもしれない……あの亀裂、日に日に深くなっている気がしてたんだ……」

おそるおそる言葉を発した技師にルパートが怒鳴り声を上げた。

「おい、お前たち!私を裏切るのか!?」
「ルパート殿下、皆が避難する許可を!」

セドリックが願い出るも、

「ダメだっ!」

と、ルパートは逃げようとした技師の首根っこを掴んだ。

「我が国の威信がかかっている。逃げたら首を刎ねるぞ?」
「ひっ」

技師たちの足がすくんだ。

「あなたは何てわからず屋なんだ!」

セドリックの目に怒りの火が灯った。セドリックはつかつかとルパートの目の前まで寄ると彼の瞳を真っ向から覗き込んだ。

「国民と国の威信と、どっちが大事なんです?」

その眼光の鋭さに、ルパートは息を呑んだ。セドリックは、ルパートからついと目を背けると、護衛や技師たちに向かって命じた。

「セドリック・エレヴァーンの名において命ず!私の首をかけ、橋周辺の者たちに避難命令を出す!即刻、民衆を避難させよ!急げっ!!」

その声は日頃気弱なセドリックから発せられたとは到底思えないほど威厳と気迫に満ちた声だった。

「はっ!!」

皆一様に鞭を打たれたごとく背筋を伸ばし、命じられたとおり、急きょ避難を始めた。

「ルパート殿下の命を失いたいのか!?」

セドリックはまだ躊躇しているルパートの護衛たちを一喝した。

「はっ、はいっ!!」
「おい、何をするっ!」

ルパートの護衛たちは、雷に打たれたように主人の体を横抱きにすると全力で走り出した。


ギ、グググ……

巨竜の唸り声──ぞっとする軋み音が橋から発せられた。

ビキ……

ほとんどの民衆が逃げおおせた刹那、橋にさらなる亀裂が走った。

「橋が!」

見守る皆の目に、みるみる歪み始める橋が映った。

ドゴオオオオオン……

けたたましい轟音とともに、商人の橋は跡形もなく崩落した。

「殿下のおかげだ……セドリック殿下のおかげで助かったぞお!!!」

九死に一生を得た民衆は躍り上がるようにセドリックを讃えた。

歓喜の声の中、ルパートだけが取り残されたように、崩れ落ちた橋を呆然と見つめていた。

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