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44 審議開始
「まず、殺人未遂について審議を開始する」
セドリックの氷のように冷徹な声が響いた。
「ウィル・ミラー子爵、およびその妻ベティ。国王陛下の御前において、神に誓い、偽りなき真実を述べることを誓うか」
ウィルは喉を鳴らし、あまりの恐怖に声が掠れて出ない。だが、ベティは瞳に狡猾な光を宿し、はっきりと答えた。
「誓います」
続けてウィルも、震えながら「ち、誓いますっ」と絞り出した。ベティは隣に立つ情けない夫に、内心で舌打ちした。
誰のためにここまで危ない橋を渡ってきたと思っているのよ、この男は!
セドリックが追及の手を緩めず言葉を継ぐ。
「ウィル、ベティ。お前たちは昨年二月二日の正午過ぎ、ブラックウッド領付近の湖で、アミアン殿下と三人でボートに乗ったな?」
「ええ、確かに。懐かしいですわ」
ベティが飄々と、まるで世間話のように応じた。
「その際、アミアン殿下は湖へ転落し、記憶を失う重傷を負った。その理由はわかるか、ウィル」
「っ、そ、それは……その……」
セドリックのすべてを見通すような眼差しに射すくめられ、ウィルは狼狽の色を隠せなかった。アミアンも言葉を待つようにウィルをじっと見ていた。狼狽するウィルにベティがすかさず割って入った。
「アミアンが急に立ち上がり、足をもつれさせて勝手に落ちたのですわ」
「!」
アミアンがぐっと手を握りしめた。
なぜ嘘を──
アミアンはベティに鋭い視線を送ったが、ベティは余裕の表情を崩さず微笑みを浮かべたままだ。
「勝手に、か」
「ええ、間違いありません。ねえ、あなた?」
ベティの鋭い目配せに、ウィルは壊れた玩具のように激しく頷いた。
ウィルまで──
アミアンは心底失望した。かつて好きだった人が悪女に操られ平気で嘘をついている。
夜会で私に言い寄って愛を語ったくせに!
ウィルはアミアンの失望の視線に気づき、慌てて目を逸らした。
「では問おう。湖へ落ちた衝撃で、頭部を鈍器で殴られたような大怪我を負うなどということがあり得るのか?」
「え!?」
「頭部の怪我!?初耳だぞ」
貴族たちが色めき立った。セドリックは広間を見渡しながら、決定的な言葉を放った。
「アミアン殿下はオールで殴打されたのだ。……ベティ、貴様の手によってな」
「なっ」
王が顔色を変え、ベティを見た。
友人を悪評で貶めるだけでなく、命を狙った!?
あの女、まさかそんな凶悪なことをしでかしたのか!?
「な、何を……!? ひ弱な私に、そんなことができるはずありませんわ。何かの間違いです!」
「いいや、間違いではない。凶器となったオールからは血液反応が検出された。最新の鑑定術により、その血痕はほぼアミアン殿下のものと一致したのだ」
「な……」
ベティの思考が真っ白に染まる。じわりじわりとセドリックが理論的に追い詰めていく。
「鑑定結果が本当だとすると、やはりあの二人が?」
貴族たちは、ベティとウィル夫婦に、疑いを強めていく。
窮地に立たされている!
ベティは自覚した。アミアン一人であったなら、とっくに潰せていただろう。だが、アミアンにはセドリックがついていた。賢王弟、大公の再来と言われた第三王子が。
それでも、ベティは止まらなかった。このしたたかで負けず嫌いの女は、震える拳を握り、反論した。
「そ、それはアミアンの記憶違いですわ! 落ちた拍子に、偶然頭をオールにぶつけたに決まっています!おぞましい魔女と糾弾され、記憶喪失だった者の妄想を信じるのですか!?」
「まだ言うか。見苦しい限りだな。ならば、お前たちは転落した殿下を救うべく、誰かに助けを求めたのか?」
「もちろんです! 近くにいた行商人に助けを求めましたわ。ですが、一緒に湖へ戻った時にはもう、アミアンの姿はなかったのです。お気の毒でしたわ」
ベティは同情するようにしおらしく胸に手を当てた。その白々しい演技をセドリックは冷えた目で見ていた。
「わかった。では、証人を呼べ」
「え……!」
ベティはどきりとした。行商人に助けを求めたというのは、口から出まかせだった。
まあ、大丈夫よ。
ベティは心中で『放浪の商人など今さら見つかるはずがない』とたかをくくっていた。
直接犯行を見た者はいないんだもの。
いくら聡明なセドリック殿下だって、暴くことはできないわ。
私に論破され、青ざめ恥を晒すのはセドリック殿下の方なのよ。
だが、このあと青ざめるのはベティのほうだった。
セドリックの氷のように冷徹な声が響いた。
「ウィル・ミラー子爵、およびその妻ベティ。国王陛下の御前において、神に誓い、偽りなき真実を述べることを誓うか」
ウィルは喉を鳴らし、あまりの恐怖に声が掠れて出ない。だが、ベティは瞳に狡猾な光を宿し、はっきりと答えた。
「誓います」
続けてウィルも、震えながら「ち、誓いますっ」と絞り出した。ベティは隣に立つ情けない夫に、内心で舌打ちした。
誰のためにここまで危ない橋を渡ってきたと思っているのよ、この男は!
セドリックが追及の手を緩めず言葉を継ぐ。
「ウィル、ベティ。お前たちは昨年二月二日の正午過ぎ、ブラックウッド領付近の湖で、アミアン殿下と三人でボートに乗ったな?」
「ええ、確かに。懐かしいですわ」
ベティが飄々と、まるで世間話のように応じた。
「その際、アミアン殿下は湖へ転落し、記憶を失う重傷を負った。その理由はわかるか、ウィル」
「っ、そ、それは……その……」
セドリックのすべてを見通すような眼差しに射すくめられ、ウィルは狼狽の色を隠せなかった。アミアンも言葉を待つようにウィルをじっと見ていた。狼狽するウィルにベティがすかさず割って入った。
「アミアンが急に立ち上がり、足をもつれさせて勝手に落ちたのですわ」
「!」
アミアンがぐっと手を握りしめた。
なぜ嘘を──
アミアンはベティに鋭い視線を送ったが、ベティは余裕の表情を崩さず微笑みを浮かべたままだ。
「勝手に、か」
「ええ、間違いありません。ねえ、あなた?」
ベティの鋭い目配せに、ウィルは壊れた玩具のように激しく頷いた。
ウィルまで──
アミアンは心底失望した。かつて好きだった人が悪女に操られ平気で嘘をついている。
夜会で私に言い寄って愛を語ったくせに!
ウィルはアミアンの失望の視線に気づき、慌てて目を逸らした。
「では問おう。湖へ落ちた衝撃で、頭部を鈍器で殴られたような大怪我を負うなどということがあり得るのか?」
「え!?」
「頭部の怪我!?初耳だぞ」
貴族たちが色めき立った。セドリックは広間を見渡しながら、決定的な言葉を放った。
「アミアン殿下はオールで殴打されたのだ。……ベティ、貴様の手によってな」
「なっ」
王が顔色を変え、ベティを見た。
友人を悪評で貶めるだけでなく、命を狙った!?
あの女、まさかそんな凶悪なことをしでかしたのか!?
「な、何を……!? ひ弱な私に、そんなことができるはずありませんわ。何かの間違いです!」
「いいや、間違いではない。凶器となったオールからは血液反応が検出された。最新の鑑定術により、その血痕はほぼアミアン殿下のものと一致したのだ」
「な……」
ベティの思考が真っ白に染まる。じわりじわりとセドリックが理論的に追い詰めていく。
「鑑定結果が本当だとすると、やはりあの二人が?」
貴族たちは、ベティとウィル夫婦に、疑いを強めていく。
窮地に立たされている!
ベティは自覚した。アミアン一人であったなら、とっくに潰せていただろう。だが、アミアンにはセドリックがついていた。賢王弟、大公の再来と言われた第三王子が。
それでも、ベティは止まらなかった。このしたたかで負けず嫌いの女は、震える拳を握り、反論した。
「そ、それはアミアンの記憶違いですわ! 落ちた拍子に、偶然頭をオールにぶつけたに決まっています!おぞましい魔女と糾弾され、記憶喪失だった者の妄想を信じるのですか!?」
「まだ言うか。見苦しい限りだな。ならば、お前たちは転落した殿下を救うべく、誰かに助けを求めたのか?」
「もちろんです! 近くにいた行商人に助けを求めましたわ。ですが、一緒に湖へ戻った時にはもう、アミアンの姿はなかったのです。お気の毒でしたわ」
ベティは同情するようにしおらしく胸に手を当てた。その白々しい演技をセドリックは冷えた目で見ていた。
「わかった。では、証人を呼べ」
「え……!」
ベティはどきりとした。行商人に助けを求めたというのは、口から出まかせだった。
まあ、大丈夫よ。
ベティは心中で『放浪の商人など今さら見つかるはずがない』とたかをくくっていた。
直接犯行を見た者はいないんだもの。
いくら聡明なセドリック殿下だって、暴くことはできないわ。
私に論破され、青ざめ恥を晒すのはセドリック殿下の方なのよ。
だが、このあと青ざめるのはベティのほうだった。
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