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獣狼族の森
不意を突かれました
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ブラックドラゴンの周囲に溢れていた死臭。それは森の悲鳴でもドラゴンが殺した生き物の臭いでもなく、それ自身が放つ死臭であった。
触れても全く反応を示さない。間違いなくこのドラゴンは絶命している。
「いつから、でしょうか……」
「ルカのお父さん達が来た後って考えるのが自然、かな」
彼らを殺したのがドラゴンの火炎なら、それからここで最期を迎えたと考えるのが辻褄が合う。
しかし、これではなんとも釈然としない結末である。
仇討ちに来てみれば既に対象は死んでいた。ルカの心中はいかばかりかと、ホイムとアカネは目配せをした。
ルカはといえば、先程ホイムがしていたように竜の鱗に触れながら、その巨体を見上げていた。
そこから手をついたまま少し歩いたところで、ドラゴンの死顔をじっと見つめていた。
「ドラゴン……とても静かな顔してる」
穏やかな死顔と言いたいのだろう。確かにホイムとアカネにも、その顔は苦しんで亡くなったようには見えなかった。
満足気……と言ってしまうには彼らにはドラゴンと接する機会などなかったので断言はできないのだが、種族は違えどなんとなくそうであるのだろうと察せた。
「ルカ……」
「死んだら皆同じ。ドラゴンも森の一部。お墓作る」
それがルカの導き出した決着だった。
復讐心も呑み込んで仇も受け入れる度量は、さすが族長の娘だとホイムもアカネも感心するのだった。
「これで一件落着……でしょうか?」
「そうだね」
ホイムはアカネの顔を見上げて言った。
「後はロム爺さん達に場所を伝えて、竜を」
解決したことに皆胸を撫で下ろしていた。
解決したと思い込んでいたところに隙が生じていた。
安堵の表情を浮かべるアカネの手を引き寄せたホイムは、彼女を地面に転がした。
「キュア【防壁】!」
アカネが状況を把握するより先に、彼女たちに灼熱の業火が襲いかかっていた。
咄嗟の判断でホイムはアカネとルカを守るように防御魔法を展開した。あと数瞬遅れていたら、彼らはドラゴンの眠る大地と同じように焼け焦げ、消し炭に変わり果てていただろう。
「はぁ……はぁ……」
突然の攻撃に一瞬で対処したために思いの外消耗したホイムは呼吸を荒げていた。頭上に掲げた両手の先に、何者かが浮いているのを険しい表情で見据える。
気付いたのは本当に偶然である。
ホイムがアカネの顔を見上げていなければ、その後ろで魔法陣から灼熱を放つ者を視認することはできなかった。
「二人とも、怪我はない?」
なんとか守ることができたアカネとルカの方を見る。
幸いにも彼女たちにダメージはないようだ。
「ホイム、様……一体」
「アイツ、何だ!」
呆けるアカネと威嚇するルカの二人も頭上に浮かぶ存在を確認する。
空からはパチパチと手を打つ音が響いてきた。
「流石ドラゴンの装甲。死んでてもこの程度の炎じゃ傷一つ付かないねえ。感心感心」
男の声である。拍手が止むと同時にその姿がゆっくりとホイム達のいる地表へと下りてくる。
「感心といえば君も……なかなかどうして勘がいいねぇ。実にいいよ。素晴らしい。ところで君は今キュアを唱えたね。不思議だねえ実に不可思議。どういう理屈で防いだのかなぁ?」
その疑問に答えることなく、ホイムは男に叫んでいた。
「いきなり攻撃しておいてよくもヌケヌケとそんなことが訊けるもんですね! ……あんた何者だ」
男は両腕を広げてみせた。
漆黒のスーツ、紅色の肌、入れ墨のように体表に記される文様、そして額に生える三本の角。
ホイムとルカは、奇妙な男の姿を訝しんだ。
ただ一人、彼らの中で様々な文献に触れ知識豊かなアカネだけが、男の正体に勘付いていた。
「まさかあれは……」
「知っているのか、アカネさん!」
アカネは神経を張り巡らせていた。気を抜けば先のように不意打ちによる攻撃を容易く繰り出してくるはず。
目の前に立つ男には、それだけの力があるのだと彼女の本能が告げていた。
「あれは、おそらくアレは――魔族です」
魔族。
この地より北方にある世界中心の大陸にあり魔族領と称される地にその種を根付かせている種族。
この世界には人族、獣族、精霊族、魔族、竜族が存在している。
種族間の特色としては先に述べた種ほど数が多く、個体能力が低い傾向があり、後に述べた種ほど個体数が少なく個体能力が高い傾向がある。
例外として種族間の実力的な差を覆す個体が稀に現れることがある。その代表が人族の勇者であり、魔族の魔王である、
今ホイム達の目の前に立ちはだかるのは、個体数は少ないが戦闘能力に秀でた人型の種族、魔族の青年である。
「知っててくれてありがとう。正確には魔族の中の魔人種だけどね。説明の手間が省けて助かるよ」
三本角の魔人の青年が明るい声で話しかけてきた。
触れても全く反応を示さない。間違いなくこのドラゴンは絶命している。
「いつから、でしょうか……」
「ルカのお父さん達が来た後って考えるのが自然、かな」
彼らを殺したのがドラゴンの火炎なら、それからここで最期を迎えたと考えるのが辻褄が合う。
しかし、これではなんとも釈然としない結末である。
仇討ちに来てみれば既に対象は死んでいた。ルカの心中はいかばかりかと、ホイムとアカネは目配せをした。
ルカはといえば、先程ホイムがしていたように竜の鱗に触れながら、その巨体を見上げていた。
そこから手をついたまま少し歩いたところで、ドラゴンの死顔をじっと見つめていた。
「ドラゴン……とても静かな顔してる」
穏やかな死顔と言いたいのだろう。確かにホイムとアカネにも、その顔は苦しんで亡くなったようには見えなかった。
満足気……と言ってしまうには彼らにはドラゴンと接する機会などなかったので断言はできないのだが、種族は違えどなんとなくそうであるのだろうと察せた。
「ルカ……」
「死んだら皆同じ。ドラゴンも森の一部。お墓作る」
それがルカの導き出した決着だった。
復讐心も呑み込んで仇も受け入れる度量は、さすが族長の娘だとホイムもアカネも感心するのだった。
「これで一件落着……でしょうか?」
「そうだね」
ホイムはアカネの顔を見上げて言った。
「後はロム爺さん達に場所を伝えて、竜を」
解決したことに皆胸を撫で下ろしていた。
解決したと思い込んでいたところに隙が生じていた。
安堵の表情を浮かべるアカネの手を引き寄せたホイムは、彼女を地面に転がした。
「キュア【防壁】!」
アカネが状況を把握するより先に、彼女たちに灼熱の業火が襲いかかっていた。
咄嗟の判断でホイムはアカネとルカを守るように防御魔法を展開した。あと数瞬遅れていたら、彼らはドラゴンの眠る大地と同じように焼け焦げ、消し炭に変わり果てていただろう。
「はぁ……はぁ……」
突然の攻撃に一瞬で対処したために思いの外消耗したホイムは呼吸を荒げていた。頭上に掲げた両手の先に、何者かが浮いているのを険しい表情で見据える。
気付いたのは本当に偶然である。
ホイムがアカネの顔を見上げていなければ、その後ろで魔法陣から灼熱を放つ者を視認することはできなかった。
「二人とも、怪我はない?」
なんとか守ることができたアカネとルカの方を見る。
幸いにも彼女たちにダメージはないようだ。
「ホイム、様……一体」
「アイツ、何だ!」
呆けるアカネと威嚇するルカの二人も頭上に浮かぶ存在を確認する。
空からはパチパチと手を打つ音が響いてきた。
「流石ドラゴンの装甲。死んでてもこの程度の炎じゃ傷一つ付かないねえ。感心感心」
男の声である。拍手が止むと同時にその姿がゆっくりとホイム達のいる地表へと下りてくる。
「感心といえば君も……なかなかどうして勘がいいねぇ。実にいいよ。素晴らしい。ところで君は今キュアを唱えたね。不思議だねえ実に不可思議。どういう理屈で防いだのかなぁ?」
その疑問に答えることなく、ホイムは男に叫んでいた。
「いきなり攻撃しておいてよくもヌケヌケとそんなことが訊けるもんですね! ……あんた何者だ」
男は両腕を広げてみせた。
漆黒のスーツ、紅色の肌、入れ墨のように体表に記される文様、そして額に生える三本の角。
ホイムとルカは、奇妙な男の姿を訝しんだ。
ただ一人、彼らの中で様々な文献に触れ知識豊かなアカネだけが、男の正体に勘付いていた。
「まさかあれは……」
「知っているのか、アカネさん!」
アカネは神経を張り巡らせていた。気を抜けば先のように不意打ちによる攻撃を容易く繰り出してくるはず。
目の前に立つ男には、それだけの力があるのだと彼女の本能が告げていた。
「あれは、おそらくアレは――魔族です」
魔族。
この地より北方にある世界中心の大陸にあり魔族領と称される地にその種を根付かせている種族。
この世界には人族、獣族、精霊族、魔族、竜族が存在している。
種族間の特色としては先に述べた種ほど数が多く、個体能力が低い傾向があり、後に述べた種ほど個体数が少なく個体能力が高い傾向がある。
例外として種族間の実力的な差を覆す個体が稀に現れることがある。その代表が人族の勇者であり、魔族の魔王である、
今ホイム達の目の前に立ちはだかるのは、個体数は少ないが戦闘能力に秀でた人型の種族、魔族の青年である。
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