異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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獣狼族の森

別れました

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 あのブラックドラゴンが何故死ななくてはならなかったのか訊いておかないと、獣狼族に託すわけにもいかないと思ったのだ。

「……ドラゴンが狙われたのは、兄上がたまたま実験の対象として彼女を選んだからだろう」

 要するに不運だったと言う他ない。たまたまツイていなかったからあんな目に遭わされた……それは非常に悲しくて、悔しいことだとホイムは唇を噛んだ。

「何故あの呪文の実験をしていたかは、その身で感じただろう。あの人は、死者や屍を用いた不死の軍団を作るつもりだ……おそらくは勇者との、世界との戦争に備えて」

 ホイムは戦慄した。
 勇者パーティにいたはずなのに、世界のことに思いを馳せる余裕のなかった彼にとって、世界が戦争に巻き込まれることを真剣に考えることすらなかった。
 それを今日、その一端を体験したのだ。
 幸いにして今回の実験は失敗であったが、あれが完成した暁には、強力な魔人の存在も相まって恐ろしく高い戦力となる可能性がある。そうなれば、強力な力を有する勇者や戦士、賢者といった限られた者たちはともかく、何の力も持たないただの人々は呆気なく蹂躙されることだろう。

「我々は争う気がないというスタンスを崩すつもりはない。勿論、勇者が我らの地に立ち入り本気で蹂躙してくるというのなら、抵抗はする。だが、魔王様はそうならないよう穏便にことを収めたいと……。私は、多くの者はその御意志を尊重しているからこそ、兄上たち一部の者の過激な行為を止めねばならないと、考えている」

 彼女の言葉を疑うつもりはホイムにはなかった。しかし、その話を鵜呑みにしてしまっていいものかと慎重にならざるをえなかった。
 話のスケールが大きすぎるからだ。彼女が語っているのは、戦乱という爆弾の導火線に誰が火を付けようとしているのかという事に他ならないのだから。
 判断のつかぬ、いやできぬ話を聞かされて考えに窮するホイムに、マールフレアが助け舟を出す。

「信じられないと思うのなら、その時が来るのを待つか、我らの地に来て魔王様の真意を直接聞いてみればいい」
「聞けちゃうの!?」
「私の紹介と言えばお会いしてくださるだろう。もっとも、往来が許可されている間に会いに来れれば、だがな」

 勇者一行が魔族領に近付けば近付くほど、往来の断たれる可能性は増していく。早々に真意を知りたければ、早々に辿り着かねばならないということだ。
 強制されることではない。聞きに行かぬという選択もないわけではない。
 しかし一応の旅の目的に魔族領を掲げていた手前、果たしてそれを全く無視してしまってもいいものかともホイムは考えてしまっていた。
 首を突っ込む必要はない。のほほんと暮らしていければ……いけるだけの力やパートナーが今は傍らにある。
 しかし、見過ごしてしまって本当にいいのだろうかという迷いがほんの少しだけついて回っているのだった。

「そうだ、獣狼族と交渉するつもりならあのことも知っておいたほうがいいだろう」
「まだ何か……何があるんですか?」
「獣王は殺されている。兄上たち過激派の手によって」

 獣王とは、獣人族の中に数多ある種族の中から選ばれた代表である。
 全ての獣人族を束ねる力、勇気、カリスマ、様々な能力を兼ね備えた最強の獣人とも言える。
 その強さは勇者に勝るとも劣らないと専らの噂である。
 そんな獣王が殺されているということが事実なら、世界の混乱をもたらすには十分な出来事だ。

「交渉にこのカードを使うかは君次第だが、覚えておくといい……君は既に、勇者すら知らぬ戦乱の火種を知ってしまった」
「僕が……?」
「一介の回復術士の手には余る話だ、な……まったく君には迷惑を背負わせてしまっている」

 マールフレアは少し申し訳なさそうに顔を伏せるのだった。

「とにかく卵の件は任せる。私は行く」

 ホイムに卵を託して話を終えたマールフレアは用が済んだとばかりに立ち去ろうとした。

「待ってください!」
「まだ何か?」

 引き止めてしまったのは話したいことがあったからではない。
 ただ、色々な話を受け止めてしまったことで自分がどうしたいのか分からなくなってきていたことが原因であった。

「……」

 しかしそのことを出会ったばかりのマールフレアに告げるのもおかしい気がし、結局沈黙して俯くしかなかった。
 その思いを察したわけではないが、マールフレアは別れの言葉に一言付け加えた。

「……またな、少年」
「また……」

 会えるんでしょうか。
 そう訊ねようとして顔を上げた時には、マールフレアの姿は夜闇に消えていた。
 またいつか、どこかで彼女と会える日が来るのだろうか。
 話す相手のいなくなったホイムはしばらく立ち尽くしていたが、やがてテントを立てて必死に戦ってくれた二人を中へと運び入れるのだった。

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