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パルメティの街
見て回りました
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「それではルカさんは必要な手続きが終わり許可証が出るまでこちらで身柄を預からせていただきます」
「分かりました」
ホイムとアカネはルカと別れ、先に二人だけでパルメティの中へと進むのだった。
「……来て早々こんなことになるなんて」
ホイムは俯いて歩いていた。
「私も軽率でした……反省です」
アカネも落胆した様子であったが、ホイムの肩に手を乗せると励ますように声をかけた。
「さ。今は前を向きましょう。ルカと合流するまでにやるべきことをしておかなくては」
「……そうだね。まずは街を見て回って、宿を探そうか!」
ようやく前を向いた二人は、ザーインの町よりも格段に賑わうパルメティの街中を進んでいく。
少し歩いただけで酔ってしまいそうな人の多さと建物の大きさ。ホイムには初体験のことである。
大きな街に来たことがないわけではない。しかしこうして彼女と二人で観光するように街を見て回ることはできなかった。これまでのホイムは、保井武は今の彼とは比較にならないほど下ばかり見ているしかできなかったのだから。
(……彼女)
彼女扱い、していいんだよね?
ホイムはあまり自信を持てずにいたが、寄り添って歩くアカネとの距離が腕が触れ合うくらいしかないことに少しだけ勇気を振り絞って指を絡めた。
「あ」
驚いて声を漏らすアカネは反射的に手を引きそうになったが、主人のドギマギした横顔を見てしまうと……そっと手を握り返していた。
「……」
「……」
「行きましょうか?」
「う、うん!」
街には立派な店を構えた商店街もあるが、それ以上に人と活気に溢れているのは大広場で開かれているバザーであった。
武具や道具などの品質や素性がはっきりとした安心を得たいのならば正規の専門店で購入する方がいいのだが、そこまで質にこだわらない衣類や小物といったものや、極稀にある思わぬ掘り出し物を見つけたいのなら広場に軒を連ねる露店も悪くはない。
加えてここでの売上の幾らかは街の公共施設等への寄付にも当てられるので、ホイム達のように街の外から来た冒険者や観光客には積極的に声がかけられる。
「姉ちゃん! 弟にお土産でも買ってやんないか!」
「あら坊や。お姉さんにプレゼントなんてどう?」
「姉弟で観光かい?」
ホイムとアカネに掛けられる声はほとんどそんな具合であった。
言われる度にホイムは苦笑いと溜め息を繰り返していた。
(普通の人にはそういう風に見えてしまうのかな……)
恋人つなぎをしていても、端からは姉に手を引かれてバザーを見て回る弟としか見られていないのであった。
「どうかしましたか?」
何度目かの溜め息をホイムが吐いたところでアカネが心配して声をかけた。
「いえ……人が多くて目が回りそうだなって」
姉弟と思われたことがショックでしたとは言えず、今のこの状況で感じたことを答えていた。
実際にこれほどまでの人混みに揉まれた経験は、こちらの世界に来てから初めてのことであった。
忍であるアカネの導きでするすると人の間を縫って進んでいるとはいえ、小柄なホイムが周囲から感じる圧というのは相当なものであるのも事実であった。
「しっかりと握っていてくださいね?」
そんな中でアカネに手をきゅっと握られれば、それだけで色々考えていたのがどうでもよくなるほど顔がにやけるのだった。
まずは宿を見つけようと歩き回りながらも、時折露店に目を奪われては二人の足は止まっていた。
「あ、見てください。きれいなアクセサリーですよ」
手をつないだまま二人して軒先に陳列された銀の装飾品を覗き込む。
シルバーのネックレスやリング、指輪などシンプルな意匠のものが並んでいる。お洒落やかわいいといったものではなく、それ自身の輝きを彼女は気に入っているようだった。
「こういうのが好きなんですか?」
そういえば彼女の好みなど詳しく訊いたことはなかったと思い、ホイムは世間話のように話を振った。
「ええ……あまり凝ったデザインは私には似合わないので」
「そうですか? アカネさんならもっとかわいいのだって……」
「ありがとうございます。でも気を遣っていただなくて結構ですから」
どうやらお世辞と思われたのか、笑って言葉をかわされる。
そんなことはないのにと思うホイムだったが、気を取り直して露店の品揃えにもう一度目を凝らし、
「あの、これください」
店頭にいる柔和そうなおばあさんに告げてホイムが購入したのは、飾り気のないシルバーのチェーンだった。
「彼女へのプレゼントかね?」
商品を左手で受け取る時におばあさんからそう訊かれたので、ホイムはこくこくと首を縦に振った。
「まあ……」
驚きを隠せないアカネにチェーンが差し出されるが、遠慮する素振りで受け取ろうとしなかった。
「……」
しかしホイムが頑なに手を差し出していると、やがて右手を伸ばしてプレゼントを受け渡すことができた。
「へへ」
「ありがとうございます」
受け取ったプレゼントを胸の前で大切に握りしめると、此の人混みで失くしてしまわないようにそっと懐にしまうのだった。
「私だけ受け取ってしまうのも心苦しいです。何かお返しを……」
「いいのいいの! 僕はいつもアカネさんから沢山の気持ちをもらってるから……」
「それを言ってしまったら、私だって常日頃色々なものを授かっております」
二人は見つめ合ったまま、お互いの思いやりが通じ合ってしまったのか胸が温かくなるのを感じた。
「ほっほっほ。乳繰り合うなら他所でやってくれんかね」
店の前でいちゃつかれるのを見かねた店のおばあさんが二人にちくりと釘を差した。
「すみません」
と、声を揃えてその場を退散していく二人を見ながら、店のおばあさんや周りにいた客はにこにこしながらウブなカップルを見送ったのだった。
「分かりました」
ホイムとアカネはルカと別れ、先に二人だけでパルメティの中へと進むのだった。
「……来て早々こんなことになるなんて」
ホイムは俯いて歩いていた。
「私も軽率でした……反省です」
アカネも落胆した様子であったが、ホイムの肩に手を乗せると励ますように声をかけた。
「さ。今は前を向きましょう。ルカと合流するまでにやるべきことをしておかなくては」
「……そうだね。まずは街を見て回って、宿を探そうか!」
ようやく前を向いた二人は、ザーインの町よりも格段に賑わうパルメティの街中を進んでいく。
少し歩いただけで酔ってしまいそうな人の多さと建物の大きさ。ホイムには初体験のことである。
大きな街に来たことがないわけではない。しかしこうして彼女と二人で観光するように街を見て回ることはできなかった。これまでのホイムは、保井武は今の彼とは比較にならないほど下ばかり見ているしかできなかったのだから。
(……彼女)
彼女扱い、していいんだよね?
ホイムはあまり自信を持てずにいたが、寄り添って歩くアカネとの距離が腕が触れ合うくらいしかないことに少しだけ勇気を振り絞って指を絡めた。
「あ」
驚いて声を漏らすアカネは反射的に手を引きそうになったが、主人のドギマギした横顔を見てしまうと……そっと手を握り返していた。
「……」
「……」
「行きましょうか?」
「う、うん!」
街には立派な店を構えた商店街もあるが、それ以上に人と活気に溢れているのは大広場で開かれているバザーであった。
武具や道具などの品質や素性がはっきりとした安心を得たいのならば正規の専門店で購入する方がいいのだが、そこまで質にこだわらない衣類や小物といったものや、極稀にある思わぬ掘り出し物を見つけたいのなら広場に軒を連ねる露店も悪くはない。
加えてここでの売上の幾らかは街の公共施設等への寄付にも当てられるので、ホイム達のように街の外から来た冒険者や観光客には積極的に声がかけられる。
「姉ちゃん! 弟にお土産でも買ってやんないか!」
「あら坊や。お姉さんにプレゼントなんてどう?」
「姉弟で観光かい?」
ホイムとアカネに掛けられる声はほとんどそんな具合であった。
言われる度にホイムは苦笑いと溜め息を繰り返していた。
(普通の人にはそういう風に見えてしまうのかな……)
恋人つなぎをしていても、端からは姉に手を引かれてバザーを見て回る弟としか見られていないのであった。
「どうかしましたか?」
何度目かの溜め息をホイムが吐いたところでアカネが心配して声をかけた。
「いえ……人が多くて目が回りそうだなって」
姉弟と思われたことがショックでしたとは言えず、今のこの状況で感じたことを答えていた。
実際にこれほどまでの人混みに揉まれた経験は、こちらの世界に来てから初めてのことであった。
忍であるアカネの導きでするすると人の間を縫って進んでいるとはいえ、小柄なホイムが周囲から感じる圧というのは相当なものであるのも事実であった。
「しっかりと握っていてくださいね?」
そんな中でアカネに手をきゅっと握られれば、それだけで色々考えていたのがどうでもよくなるほど顔がにやけるのだった。
まずは宿を見つけようと歩き回りながらも、時折露店に目を奪われては二人の足は止まっていた。
「あ、見てください。きれいなアクセサリーですよ」
手をつないだまま二人して軒先に陳列された銀の装飾品を覗き込む。
シルバーのネックレスやリング、指輪などシンプルな意匠のものが並んでいる。お洒落やかわいいといったものではなく、それ自身の輝きを彼女は気に入っているようだった。
「こういうのが好きなんですか?」
そういえば彼女の好みなど詳しく訊いたことはなかったと思い、ホイムは世間話のように話を振った。
「ええ……あまり凝ったデザインは私には似合わないので」
「そうですか? アカネさんならもっとかわいいのだって……」
「ありがとうございます。でも気を遣っていただなくて結構ですから」
どうやらお世辞と思われたのか、笑って言葉をかわされる。
そんなことはないのにと思うホイムだったが、気を取り直して露店の品揃えにもう一度目を凝らし、
「あの、これください」
店頭にいる柔和そうなおばあさんに告げてホイムが購入したのは、飾り気のないシルバーのチェーンだった。
「彼女へのプレゼントかね?」
商品を左手で受け取る時におばあさんからそう訊かれたので、ホイムはこくこくと首を縦に振った。
「まあ……」
驚きを隠せないアカネにチェーンが差し出されるが、遠慮する素振りで受け取ろうとしなかった。
「……」
しかしホイムが頑なに手を差し出していると、やがて右手を伸ばしてプレゼントを受け渡すことができた。
「へへ」
「ありがとうございます」
受け取ったプレゼントを胸の前で大切に握りしめると、此の人混みで失くしてしまわないようにそっと懐にしまうのだった。
「私だけ受け取ってしまうのも心苦しいです。何かお返しを……」
「いいのいいの! 僕はいつもアカネさんから沢山の気持ちをもらってるから……」
「それを言ってしまったら、私だって常日頃色々なものを授かっております」
二人は見つめ合ったまま、お互いの思いやりが通じ合ってしまったのか胸が温かくなるのを感じた。
「ほっほっほ。乳繰り合うなら他所でやってくれんかね」
店の前でいちゃつかれるのを見かねた店のおばあさんが二人にちくりと釘を差した。
「すみません」
と、声を揃えてその場を退散していく二人を見ながら、店のおばあさんや周りにいた客はにこにこしながらウブなカップルを見送ったのだった。
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