異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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パルメティの街

討伐に来ました

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 しばらく進み、周辺の空気が一変してくる。
 街道付近は人の行き来があるため、いくらかは活気というものがあったのだが、湿地の近くは空気も重く気持ちさえ沈むような雰囲気であった。
 そしてホイム一行は拡がる湿地帯に辿り着いたところで早々に標的の一つに出くわした。
 己の縄張りに何者かが侵入したことに気付いた怪物が泥沼のような水たまりの中から這い出してきた。
 巨大毒蛙・マーブルフロッグ。
 全長数メートルはある巨体と斑模様に紫色のでこぼこ皮膚。毒々しさを放つ不気味な蛙がのそのそと水辺を歩き回っている。
 ギョロギョロと動く左右の目でそれぞれ明後日の方向を見ながら縄張りへ踏み込んだ侵入者を探していた。
 喉から重低音の鳴き声が一度響き、その目がギラリと空を捉えた。

「疾ッ!」

 上空からの襲撃を気付かれたことへの舌打ちと同時に、アカネの振るった忍刀から一刃のカマイタチが放たれた。
 魔人の青年へ使った風の忍術と同じ技である。
 風切による斬撃は複数を同時に放つこともできるが、一つに集約することで威力や大きさを強大にすることができる。
 そして此度のカマイタチは、直撃さえすれば一撃で蛙の巨体を両断できるだけの威力を備えていた。

「ゲコロブベロルゲォロロッ!」

 けたたましい鳴き声、というよりも吐瀉音に近い気色悪い音を上げた毒蛙の口から、汚物の色をした穢らわしいジェル状の毒液が吐き出された。
 カマイタチと交わった毒物は破裂するように弾け散る。
 上空で身を翻したアカネは華麗に散弾毒物の飛来を避けるが、奇襲は失敗に終わった。
 が、意識が空へと向いていた蛙の懐に超高速で飛び込む銀色の影。
 がら空きの蛙の顎へ強烈なルカの一撃が見舞われる。

「ゲボォッ!」

 今度のは蛙の鳴き声ではなく悲鳴であった。
 四肢を広げた怪物の体が空に舞う。的としては十二分の大きさである。
 近接間合いにいるアカネとルカから少し離れた位置に陣取っていたホイムは両手を掲げる。
 魔力を練り上げ、イメージを具現化する。右手には弓、左手には矢。
 そして付与する属性は、炎。

「キュア【火弓】!」

 燃え盛る炎で形成された弓から引き絞られた火の矢が一直線に放たれる。
 手足を広げた巨大蛙の土手っ腹に命中した矢が怪物の体を燃え上がらせる。
 地に落ち、湿地の上で転がり炎上を食い止めた毒蛙であったが既に虫の息であった。

「終いだ!」

 アカネは仰向けに転がる蛙の喉元に忍刀を根元まで突き刺した。
 そのまま柄尻を右足の足場にして大きく跳躍し、絶命しているであろう蛙から間合いを取った。
 止めはさせていると思われるが、万が一にも返り討ちもしくは死に際に爆発四散しないとも限らない。用心しての退避であった。
 三人がかりで仕留めた獲物がもう動かないことを確認し、ようやく近くにいたアカネとルカは緊張を解いた。

「一人ならまだ苦戦していただろうな」
「ルカなら一人でも平気!」
「馬鹿者。ルカだけなら最初の毒を浴びてすぐに退場だ」

 調子づきそうなルカを嗜めながら、アカネは忍刀を討伐対象の亡骸から引き抜いた。
 ルカならば蛙の毒攻撃を躱し続けて間合いに入ることも難しいことではないはずだが、敢えて釘を刺すことで油断せぬようにというアカネの親心であった。

「それに我らが臆せず立ち向かえたのは、例え毒を浴びてもホイム様が回復術で治してくださるからだというのを忘れてはならない」
「うん、ホイムのおかげ」

 二人を後ろから支える縁の下の力持ちの事を思い浮かべ、彼の方を振り向いた時、

「助けてぇ!」

 ホイムはさらわれようとしていた。
 人喰い植物・女中草が長く太い縄のような蔦を二本、自在に動かしてホイムの体を縛りあげていたのだ。
 女中草はひと所に留まる植物とは違い、地表に出た根も自在に動かし自立して動くことのできる動性植物である。そして獲物を見つけては、蔦で対象を絡め取って閉じた花弁の中にある摂食槽でねっとりと獲物を捕食するのだ。
 そしてクパァッと開いた花弁の中には、摂食槽だけでなく人の女性を模した雌しべが待ち構えている。
 そう、女中草が栄養としているのは主に男性の精である。
 ズルリッ。

「きゃあああッ!」

 蔦で器用にズボンを脱がされたホイムが雌しべの元へ運ばれる。捉えられたが最後、誰かに助けてもらうまで抜け出すことなど不可能な状況。なぜなら、

「……ちょっと好みかも」

 雌しべは捕食対象の好みに合わせてその造形すらも自在に変えるのだ。これを攻撃するなど心優しくスケベな男性にはなんと難しいことであろうか。
 そして摂食槽に浸けられるより先、まず前戯として雌しべの口がホイムの下半身に食らいつくのだ。

「た……食べられる」

 恐ろしい捕食行為。しかしそれに抗うなど男には無理である。
 パクッ。

「……ん?」

 一口で包まれた時、ホイムはもっと気持ちいいことを若干期待していた。
 だがそれは期待以下のものであった。ただ単に咥えられているだけという行為としか感じられず、なんの興奮も生まれなかったのであった。

(なんだろう……全然気持ちよくない)

 この場面で気持ちよさに溺れるわけにもいかないのだが、それはそれとして本当に何も感じず、むしろ自分が不感症にでもなってしまったのではないかという事の方に危機感を覚えるホイムであった。

「フンッ!」

 思い耽るのも束の間、無様に拘束されてされるがままだったホイムのところに辿り着いたアカネとルカが問答無用で二つの蔦を斬り落とす。

「獲物! 探す手間省けた!」
「ああ……だがそれ以上にホイム様に手を出した事は万死に値する」

 なんとも頼もしい二人の到着にホイムは頬が緩むのだが、

「ホイム様」
「は、はい?」
「事が済んだらお話があります」

 なんとも冷ややかな声と視線で告げるアカネに、ホイムは背筋に薄ら寒いものが走るのを覚えた。
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