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パルメティの街
強引にいきました
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ともあれこれでアリアスの身は安全だろうと判断したホイムは、さっきから黙って切り株に腰掛けていたエミリアに声をかけた。
「エミリアさん? 僕らものんびり戻りましょうか……多分一日遅れるくらいでパルメティに着くと思いますよ」
彼が話しかけてようやくエミリアは顔を上げた。周囲を見回すと、何かに気付いて問いかけた。
「……アリアスは?」
「アカネさんとルカが一足先にパルメティに運んでいます。今出ていったばかりじゃないですか」
面白いジョークですねとホイムは笑ってみせたのだが、特に反応が返ってくるわけでもなかったので次第に笑いは消えていった。
「そうか。手間をかけるな」
「見送ってあげれば良かったのに」
「ああ……その通りだ。彼女のことを見届けなければならなかった……なのに、私は今……自分のことしか考えられない」
どうやらここにも休息が必要な人がいたことにホイムは気が付いた。
「……とりあえず、安全な場所まで行きましょう」
ここはまだ森の中。消耗している二人に目をつけてモンスターが襲ってこないとも限らない。今は不要な戦闘は避けるべきである。
ホイムは多少足元のおぼつかないエミリアを先導し、森を抜けて安全な場所まで退避することにした。
アカネやルカほど足の速くない二人が森を出る頃には、陽が傾いていた。加えて遠くの空には不穏な暗雲が漂っていた。
「雨になるかもしれませんね……」
ホイムが口にしても誰も返事はしてくれない。不安になって後ろを振り返ると、ちゃんとエミリアがついてきているのでホッとする。
街道付近に来るまで、二人の間に会話はなかった。正確にはホイムは話しているのだが、それに対する答えがなかった。たまに「ああ」とか「うん」と返ってくることもあったが、ほとんどホイムからの一方通行である。
そろそろ落ち着いてしっかりと話をできればと思ったホイムは、ある地点を指差した。
「丁度いいや。あそこでテントを張りましょう」
その先には以前誰かが野営した跡が残されていた。石で作った竈と火を使った痕跡。他の者がいた後ならば安全だろうと判断したホイムは、今日はその場で休むことを提案した。
相変わらずエミリアの反応は薄いものであったが拒絶はなかったので、彼女の背負う荷物を下ろしてテントを設営することになった。
ホイムが一人でせっせとテントの準備をしていると、
「……手伝おうか?」
ようやくエミリアから声をかけてくるようになった。
「いえ、一人で大丈夫です」
だがホイムの脳裏に過ったのはひっくり返ったテントのオブジェ。間髪入れずにエミリアの協力を断ってしまった。
「……そうか」
エミリアはホイムに背を向け手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。
(……あれ、今のバッドコミュニケーション……?)
テントを組み立てる手を止めずにホイムが思ったのは、ゲームの選択肢をミスったかのような例えだった。
テントの設営を終えてそう間を置かず、ホイムが懸念していたように雨が降り出した。強い雨風ではないのでテントの中にいればどうということもなく、ただ小雨とテントの奏でるパラパラとした演奏が耳に響く夜であった
「夕飯は物足りなかったですよね? アカネさんがいないから、乾いたパンと干し肉くらいで……」
会話を続けるホイムに対し、エミリアはのろのろと装備を外し軽装となると、そのまま横になるところだった。
「先に休ませてもらう」
彼女が寝転がる寸前、ホイムは慌てて正座の姿勢で滑り込んだ。
「……ホイッ!」
タイミングよくエミリアの頭がホイムの太ももの上に乗っかって、上を向いたエミリアの顔とホイムの顔が直面した。
「……何してる?」
「膝枕……ですかね」
何故そんなマネを……と半眼で見てくるエミリアに対し、
「だってこうでもしないと話す暇もなく寝るつもりだったでしょ!」
とホイムは訴えた。
「こんな私と話がしたいのか?」
「そんな状態だからですよ」
目を見て話したところで、エミリアはすぐに横を向いて視線を外してしまった。
「……話が終わったら寝るぞ?」
ようやく会話の下準備が整ったことにホイムは安堵し、膝の上にあるエミリアの頭を撫でながら話をするのだった。
「今日は疲れましたね」
「ああ」
「アリアスさんを助けられた良かったです」
「そうだな」
「戻ったらきちんとお見舞いしなくちゃいけませんね」
「そうしよう」
「魔人に会ってからいろいろ考えているみたいですけど、どうかしましたか?」
魔人と遭遇した件に触れた時、エミリアは答えに窮した。あの場で奴に言われたことが彼女の中で引っかかっているらしい。
「……私は賢くない。だから、あいつに言い放たれたことに対してどうすればいいか……考えても、考えるほど……みんな無事なのかとか、気になって……」
「分かりますよ。分かりました。一つずつ……気持ちに整理をつけていきましょう」
ホイムに髪を撫でられながら、彼女は鼻をすするようにして頷いた。
「エミリアさん? 僕らものんびり戻りましょうか……多分一日遅れるくらいでパルメティに着くと思いますよ」
彼が話しかけてようやくエミリアは顔を上げた。周囲を見回すと、何かに気付いて問いかけた。
「……アリアスは?」
「アカネさんとルカが一足先にパルメティに運んでいます。今出ていったばかりじゃないですか」
面白いジョークですねとホイムは笑ってみせたのだが、特に反応が返ってくるわけでもなかったので次第に笑いは消えていった。
「そうか。手間をかけるな」
「見送ってあげれば良かったのに」
「ああ……その通りだ。彼女のことを見届けなければならなかった……なのに、私は今……自分のことしか考えられない」
どうやらここにも休息が必要な人がいたことにホイムは気が付いた。
「……とりあえず、安全な場所まで行きましょう」
ここはまだ森の中。消耗している二人に目をつけてモンスターが襲ってこないとも限らない。今は不要な戦闘は避けるべきである。
ホイムは多少足元のおぼつかないエミリアを先導し、森を抜けて安全な場所まで退避することにした。
アカネやルカほど足の速くない二人が森を出る頃には、陽が傾いていた。加えて遠くの空には不穏な暗雲が漂っていた。
「雨になるかもしれませんね……」
ホイムが口にしても誰も返事はしてくれない。不安になって後ろを振り返ると、ちゃんとエミリアがついてきているのでホッとする。
街道付近に来るまで、二人の間に会話はなかった。正確にはホイムは話しているのだが、それに対する答えがなかった。たまに「ああ」とか「うん」と返ってくることもあったが、ほとんどホイムからの一方通行である。
そろそろ落ち着いてしっかりと話をできればと思ったホイムは、ある地点を指差した。
「丁度いいや。あそこでテントを張りましょう」
その先には以前誰かが野営した跡が残されていた。石で作った竈と火を使った痕跡。他の者がいた後ならば安全だろうと判断したホイムは、今日はその場で休むことを提案した。
相変わらずエミリアの反応は薄いものであったが拒絶はなかったので、彼女の背負う荷物を下ろしてテントを設営することになった。
ホイムが一人でせっせとテントの準備をしていると、
「……手伝おうか?」
ようやくエミリアから声をかけてくるようになった。
「いえ、一人で大丈夫です」
だがホイムの脳裏に過ったのはひっくり返ったテントのオブジェ。間髪入れずにエミリアの協力を断ってしまった。
「……そうか」
エミリアはホイムに背を向け手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。
(……あれ、今のバッドコミュニケーション……?)
テントを組み立てる手を止めずにホイムが思ったのは、ゲームの選択肢をミスったかのような例えだった。
テントの設営を終えてそう間を置かず、ホイムが懸念していたように雨が降り出した。強い雨風ではないのでテントの中にいればどうということもなく、ただ小雨とテントの奏でるパラパラとした演奏が耳に響く夜であった
「夕飯は物足りなかったですよね? アカネさんがいないから、乾いたパンと干し肉くらいで……」
会話を続けるホイムに対し、エミリアはのろのろと装備を外し軽装となると、そのまま横になるところだった。
「先に休ませてもらう」
彼女が寝転がる寸前、ホイムは慌てて正座の姿勢で滑り込んだ。
「……ホイッ!」
タイミングよくエミリアの頭がホイムの太ももの上に乗っかって、上を向いたエミリアの顔とホイムの顔が直面した。
「……何してる?」
「膝枕……ですかね」
何故そんなマネを……と半眼で見てくるエミリアに対し、
「だってこうでもしないと話す暇もなく寝るつもりだったでしょ!」
とホイムは訴えた。
「こんな私と話がしたいのか?」
「そんな状態だからですよ」
目を見て話したところで、エミリアはすぐに横を向いて視線を外してしまった。
「……話が終わったら寝るぞ?」
ようやく会話の下準備が整ったことにホイムは安堵し、膝の上にあるエミリアの頭を撫でながら話をするのだった。
「今日は疲れましたね」
「ああ」
「アリアスさんを助けられた良かったです」
「そうだな」
「戻ったらきちんとお見舞いしなくちゃいけませんね」
「そうしよう」
「魔人に会ってからいろいろ考えているみたいですけど、どうかしましたか?」
魔人と遭遇した件に触れた時、エミリアは答えに窮した。あの場で奴に言われたことが彼女の中で引っかかっているらしい。
「……私は賢くない。だから、あいつに言い放たれたことに対してどうすればいいか……考えても、考えるほど……みんな無事なのかとか、気になって……」
「分かりますよ。分かりました。一つずつ……気持ちに整理をつけていきましょう」
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