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フラシュ王国への道中
お手入れしました
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「脱がないんですか、鎧」
アカネと操縦を交代したエミリアが休みはじめて早々、魔法の整理を中断していたホイムはそう訊ねた。
エミリアは少し目を丸くしてから視線を彷徨わせ、おずおずといった様子でマントと共に輝きを失っているくたびれた胸当てを外しだした。
「……そういうのは禁止と言ったろうに」
ガントレットやグリーブも何やらぎこちない手つきで取り外し過ごしやすい軽装になる。
「まあ、そちらから求めてくるのなら応じることもやぶさかではないのだが……禁止と言った手前他の者には申し訳ないが持ち主の特権ということで構わんか」
ぶつぶつと呟き続ける彼女に対してホイムは首を捻ったが、何故か更に衣類を脱ぎそうだったので慌てて止めるのであった。
「どこまで脱いでるんですか!」
「……き、着たままが良かったか?」
「何か噛み合ってない!」
齟齬が生じていることに気付いたホイムは丁寧に説明することにした。
「鎧を身に着けたままじゃ気が休まらないと思いまして。いつも鎧を纏っているエミリアさんには不要な申し出かもしれませんがたまには身軽な格好でゆったりとされてはいかがでしょうかという思いで鎧を外すことを提案したのですが」
バカ丁寧な解説の後、ゆっくりと居住まいを正したエミリアはそっとホイムに背を向けてしまった。
「……エミリアさん?」
ぷるぷると肩が震えている様子を案じたホイムが右から顔を覗き込むとプイと左に背けられ、左から顔を覗き込もうとすると逆に右へと首が動く。
耳がゆでダコのように赤くなっていることに気付いたホイムは心の中で「かわいいなあ」と密かに呟くのであった。
実際に口に出したりすると、幌の外から鋭い視線が突き刺さってきそうで怖かったのである。
それからしばらく沈黙が続き、竜蜥騎に引かれる荷車の揺れについうつらうつらと船をこぐホイム。薄く開いた視線の先では干し肉を口にして仰向けになるルカが夢の世界に旅立っている姿があった。
アカネさんだけ起きて操縦してもらっているのも悪い気がするという考えが夢見心地の頭の中に浮かんでくる。
ふわふわとした意識の最中にホイムの目に映ったのは、外した己の具足を磨くエミリアであった。
「……お手入れですか?」
欠伸を噛み殺しながら訊ねると、エミリアは一度手を止めた。
「ああ。せっかく落ち着く時間ができたから」
すぐに作業を再開する彼女は「それに」と小さく付け加えた。
「決戦を前に……気を引き締めると共に、身なりもと思ってな」
験担ぎのようなものだろう。追われた祖国へと再び足を踏み入れる前に鎧に付いた汚れを厄と一緒に落とすかのようだ。
「手伝いますよ」
なので共に負担を請け負おうと思ったホイムはエミリアが手を付けていない鎧に手を伸ばした。
「ありがたい……が」
彼女の装着する鎧の中で大きな部位になる胸当てを両手で掴んだホイムは寝起きで力が入らなかったせいか、重量のある胸当てを抱えたままごろんと後ろに転がってしまった。
「意外と重いぞ?」
「ぎゅう……早めに言ってください」
抱えるのを諦めたホイムは胸当てを表向きに置いてから、エミリアがまだ使用していなかった磨き布を手にし、彼女の手つきを真似して鎧の手入れを手伝いだした。
丸みのある女性騎士用の胸当てを優しい手つきで円を描くように磨いていると、エミリアの咳払いが聞こえた。
「んん……そのようにして手入れをされるのはいい気分はしないが……」
「いえこうやって流線型に沿って磨くのが楽で……すみません……」
言い訳がましくなりそうなのですぐさま素直に謝りつつ片手で磨くやり方に変えていった。
「……汚れを落として研磨もできる魔法が使えたらすぐに終わるんですけどね」
なんなら今から清掃用のキュアを造ってもいいかと手抜きな考えも浮かんでくる。
「それは確かに楽チンだが……こういうのは自分の手でやるからいいんだよ」
そう言うエミリアは磨き終えた具足の表面を目の前で確認し、続いて小手の手入れに取りかかった。
「と、魔法を使えないからの言い訳かもしれないが」
苦笑する彼女に、
「ほら手が止まっているぞ」
と忠告されたのでホイムもそそくさと手を動かす。丁寧に胸当てを磨きながら、口も動かす。
「エミリアさんは魔法が使えないんですか?」
「ああ。苦手だ」
「苦手って言うことは使えなくはないってことでは?」
問いかけを受けて一つ唸ったエミリアが答えを口にした。
「聖華騎士団に入団した十五の時に洗礼を受けた。その際に魔法への素養があるとは言われたが、魔術を学んだこともなかったからな。それなら慣れ親しんだ剣の腕を磨いた方が無駄にはならないと判断した」
おかげで筆頭騎士にまでなれたので間違ってはいなかった。
そう付け加えるエミリアの言葉にホイムも納得してしまった。結果が伴っているからには正しい判断であったのだろう。
アカネと操縦を交代したエミリアが休みはじめて早々、魔法の整理を中断していたホイムはそう訊ねた。
エミリアは少し目を丸くしてから視線を彷徨わせ、おずおずといった様子でマントと共に輝きを失っているくたびれた胸当てを外しだした。
「……そういうのは禁止と言ったろうに」
ガントレットやグリーブも何やらぎこちない手つきで取り外し過ごしやすい軽装になる。
「まあ、そちらから求めてくるのなら応じることもやぶさかではないのだが……禁止と言った手前他の者には申し訳ないが持ち主の特権ということで構わんか」
ぶつぶつと呟き続ける彼女に対してホイムは首を捻ったが、何故か更に衣類を脱ぎそうだったので慌てて止めるのであった。
「どこまで脱いでるんですか!」
「……き、着たままが良かったか?」
「何か噛み合ってない!」
齟齬が生じていることに気付いたホイムは丁寧に説明することにした。
「鎧を身に着けたままじゃ気が休まらないと思いまして。いつも鎧を纏っているエミリアさんには不要な申し出かもしれませんがたまには身軽な格好でゆったりとされてはいかがでしょうかという思いで鎧を外すことを提案したのですが」
バカ丁寧な解説の後、ゆっくりと居住まいを正したエミリアはそっとホイムに背を向けてしまった。
「……エミリアさん?」
ぷるぷると肩が震えている様子を案じたホイムが右から顔を覗き込むとプイと左に背けられ、左から顔を覗き込もうとすると逆に右へと首が動く。
耳がゆでダコのように赤くなっていることに気付いたホイムは心の中で「かわいいなあ」と密かに呟くのであった。
実際に口に出したりすると、幌の外から鋭い視線が突き刺さってきそうで怖かったのである。
それからしばらく沈黙が続き、竜蜥騎に引かれる荷車の揺れについうつらうつらと船をこぐホイム。薄く開いた視線の先では干し肉を口にして仰向けになるルカが夢の世界に旅立っている姿があった。
アカネさんだけ起きて操縦してもらっているのも悪い気がするという考えが夢見心地の頭の中に浮かんでくる。
ふわふわとした意識の最中にホイムの目に映ったのは、外した己の具足を磨くエミリアであった。
「……お手入れですか?」
欠伸を噛み殺しながら訊ねると、エミリアは一度手を止めた。
「ああ。せっかく落ち着く時間ができたから」
すぐに作業を再開する彼女は「それに」と小さく付け加えた。
「決戦を前に……気を引き締めると共に、身なりもと思ってな」
験担ぎのようなものだろう。追われた祖国へと再び足を踏み入れる前に鎧に付いた汚れを厄と一緒に落とすかのようだ。
「手伝いますよ」
なので共に負担を請け負おうと思ったホイムはエミリアが手を付けていない鎧に手を伸ばした。
「ありがたい……が」
彼女の装着する鎧の中で大きな部位になる胸当てを両手で掴んだホイムは寝起きで力が入らなかったせいか、重量のある胸当てを抱えたままごろんと後ろに転がってしまった。
「意外と重いぞ?」
「ぎゅう……早めに言ってください」
抱えるのを諦めたホイムは胸当てを表向きに置いてから、エミリアがまだ使用していなかった磨き布を手にし、彼女の手つきを真似して鎧の手入れを手伝いだした。
丸みのある女性騎士用の胸当てを優しい手つきで円を描くように磨いていると、エミリアの咳払いが聞こえた。
「んん……そのようにして手入れをされるのはいい気分はしないが……」
「いえこうやって流線型に沿って磨くのが楽で……すみません……」
言い訳がましくなりそうなのですぐさま素直に謝りつつ片手で磨くやり方に変えていった。
「……汚れを落として研磨もできる魔法が使えたらすぐに終わるんですけどね」
なんなら今から清掃用のキュアを造ってもいいかと手抜きな考えも浮かんでくる。
「それは確かに楽チンだが……こういうのは自分の手でやるからいいんだよ」
そう言うエミリアは磨き終えた具足の表面を目の前で確認し、続いて小手の手入れに取りかかった。
「と、魔法を使えないからの言い訳かもしれないが」
苦笑する彼女に、
「ほら手が止まっているぞ」
と忠告されたのでホイムもそそくさと手を動かす。丁寧に胸当てを磨きながら、口も動かす。
「エミリアさんは魔法が使えないんですか?」
「ああ。苦手だ」
「苦手って言うことは使えなくはないってことでは?」
問いかけを受けて一つ唸ったエミリアが答えを口にした。
「聖華騎士団に入団した十五の時に洗礼を受けた。その際に魔法への素養があるとは言われたが、魔術を学んだこともなかったからな。それなら慣れ親しんだ剣の腕を磨いた方が無駄にはならないと判断した」
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