異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

文字の大きさ
116 / 131
王都フラシュ

挨拶しました

しおりを挟む
 ノーデックを見失わないように後をつけるホイムたちはエイーリオの港へとやってきた。
 活気を失っていた街中とは打って変わって船員や漁師たちの生気に満ちた声が木霊している。

「ここだけは変わっていないな」

 ホイムを背負うエミリアの横顔には安堵と懐古の色が浮かんでいた。

「ルカにはうるさい……」

 獣人の少女には慣れぬ場所の喧騒が堪らないのか、耳をしょんぼりと畳んで音を遮っていた。

「けど確かに騒々しいですね。港って初めて来ましたから僕も驚いてます」
「ここは特にな。エイーリオの漁師たちの船だけでなく、貿易港……後は軍港も兼ねているからな」
「軍港?」

 ホイムの疑問に答えたのは、後ろから手を伸ばしてきたアカネであった。

「確か海賊ノーデックが束ねる商船団は武装船団でもあったはずです。フラシュと協力関係になった際、有事の時には国を守る海軍として働くことになっていたかと」

 いい加減エミリアから降りてくださいな。
 そう言わんばかりに彼女の背中からホイムを引っ剥がすと、後ろから抱きしめながらホイムに説明を加えた。

「海賊……ですか?」

 上を見上げればアカネのおっぱい。柔らかな感触がホイムの頭を包み込む。

「元、だな。今は商船団の長として一帯の貿易を仕切る堅気の男だ。それと海軍と言ってもフラシュに属しているわけではない。彼らには近海の脅威の排除を第一としてもらっている……義勇軍のようなものだ」
「正規じゃない……独自の権限で動けるってことですか?」
「ああ。彼らは一国のために命を張ってくれているわけではない。この海のために我らと協力してくれているんだ」

 まさに海の男と言ったところか。ホイムは少しだけかっこいいと思った。

「お詳しいこと。もしかしてノーデック殿はエミリアさんの想い人でしょうか」

 アカネが覆面をしてぐふふと笑う。こんなにいやらしい笑いをするのは初めて見た。

「彼とは何度か面識がある程度だ。人を惹きつけ頼りになる人物であることは間違いないが……」

 竜蜥騎を託していいと思える程度には信頼できる人物であるのだろう。先程の騒動を収めた時の周囲の人々の反応からもそれは伺えた。

「よお! 来たな!」

 一際大きく陽気な声がホイムたちに向けられた。

 港に停泊する最も大きな船舶を見上げると、甲板の縁から船長が右手を振って彼らを招いていた。

「上がりな。話があるんだろ」

 それだけ告げて彼の姿が消えた。

「どうやらバレてたみたいですね」

 あかねっぱいに頭を預けるホイムが言うと、エミリアもそれは承知していたらしく驚いた素振りは見せなかった。

「おやおや。情熱的にお声をかけてくださること」

 アカネはさっきから覆面の下でにまにましている。

「アカネ楽しそう?」

 ルカにも分かるくらいである。

「いえいえ。ただあの方とエミリアさんがとってもお似合いですねと思っているだけです。思っているだけ」
「彼とはそういう仲ではないと言ったろう?」

 エミリアは呆れ顔で「行こう」と先陣を切って歩きだした。アカネの胸を頭に乗せて歩きにくそうなホイムとルカも後に続き、一行は商船へと乗り込むのだった。



 逞しい船員たちが汗を流し荷物を担ぎ、せわしなく行き交う甲板から続く階段を下りた先にある船長室でノーデックはエミリア達を出迎えた。

「久しぶりだな筆頭騎士殿!」

 ノーデックは両腕を開いて再会を喜んだ。

「そちらはお変わりなくご健勝のようで」

 エミリアは少し畏まって礼節に重きをおいた挨拶をしながらフードを取って顔を晒した。この場で隠す必要はないということである。
 手を差し伸べて再会の握手を求めるエミリアに対し、ノーデックは片眉を上げて肩を竦めた。

「……」

 広げた腕を下げて無言で握手に応じてから、気を取り直して話しかけた。

「本当によく戻られたな。わざわざ此処へ顔を出したということは……王都へ斬り込むと決めたか」

 先程までの軽薄な雰囲気を抑えたノーデックが真面目な眼差しを向けている。

「ああ。逃げ隠れるのは終わりだ」

 きっぱりと言い切られたことが気持ちよかったか、ノーデックは含みを持たせた笑みを浮かべ彼女の背後に視線を送った。

「彼女たちが助っ人か」

 ズカズカと歩み寄るノーデックはまずアカネに手を差し出した。

「街中では彼を助けてくれたこと、改めて礼を言おう。アサシンのレディ」

 顔を合わせたばかりの相手と気安くできない性分の彼女であったが、見上げるホイムが小さく頷くのを見ると仕方なしと言った具合で手を握り返した。

「……目がよろしいんですね」
「美人の動向はつい追ってしまうものでね」

 ただの軽口か口説こうとしているのか判別しかねるホイムは、手を握らせたこと失敗だったんじゃ……と少し後悔した。
 が、ノーデックは執着するでもなくすぐに手を離すと続いてルカに握手を求めた。

「獣人の少女か。なかなかどうして頼もしい友達を連れてきたもんだ」
「うん! ルカは頼りになる!」

 ルカは無邪気に手を握り、ブンブンと腕を振る。
 千切れて飛んでいくんじゃないかという勢いの握手に、腕を引いたノーデックは軽く手首を擦っていた。
 そして最後にホイムの頭を雑に撫で、

「まだちっちゃいのに彼女が連れているということは……余程の実力」

 流石は商船を束ねる長。人の本質を見抜く眼を持っているようだ。

「か、余程趣味にどストライクだったか」
「んんん~!? 何を言い出すんだノーデック!」

 エミリアは狼狽して食ってかかった。
 ある意味本質は見抜いている……と言えなくもないであろうか。
 船長は愉快そうに笑いエミリアをからかっているのだろうが、本気で彼女の趣味で連れてこられたと勘違いされている可能性もゼロではないのでホイムはしっかりと訂正しておくことにした。
しおりを挟む
感想 180

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳
ファンタジー
庭付き一戸建て住宅ごと召喚されたせいで、召喚に失敗。いったん、天界に転送されたジュンは、これからどうしたいかと神に問われた。 「なろう」さまにも、以前、投稿させていただいたお話です。 ペンネームもタイトルも違うし、かなり書き直したので、別のお話のようなものですけれど。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...