異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

文字の大きさ
125 / 131
王都フラシュ

地下です

しおりを挟む
「――むっ!」

 独りで下水道のように薄暗く汚れた城の地下通路を進んでいたアカネは何かを感じ足を止めた。

「今……ホイム様が誰かの手を握った気がします」

 誰にも説明ができない理屈でそう察したアカネであったが、すぐにイヤイヤと気を引き締め直す。

「いけません。些細なことに気を取られては任務が果たせません……そうなればホイム様に叱られてしまいます」

 やるべきことを思い出したアカネは音もなく駆けながら、地下を抜けてホイムと合流したらすぐにその手をにぎにぎしたいという欲求を抱くのであった。
 それはそれとして。
 任務を忠実にこなす忍となったアカネは真面目に頭の中に地図を思い描く。
 エイーリオで見た街と城の地図と実際の現在地を照らし合わせ、もうそろそろ目的の地下の幽閉場へと辿り着いてもいい頃だと勘案していた。
 果たして彼女の読みは当たっていた。
 静かに足を緩めるアカネは、罪人を囚えておくための鉄格子の牢屋が幾つも並ぶ一画へと辿り着いた。
 ここからはより静かに行動する必要がありますね。
 口元を隠す覆面を正し、一番手前にある牢へと無音で近付き中の様子を伺う。
 剥き出しの石床に最早用を成していないボロ布の筵が敷かれた牢内には、ひとりの女性がうつ伏せに倒れていた。
 片隅に汚物が積まれ鼻を覆いたくなる(覆面で覆っているのでその必要はないが)その場所に罠などないことを用心深く探ってから踏み込んだアカネは、そっと女性の首筋に指を当てた。
 裸に剥かれ幾多の傷を刻まれているが生きている。純潔のままか否かは判断しかねるがそこまで調べる必要は感じない、生きていることだけ判明すればホイムも安堵するであろう。
 うつ伏せとなっていた騎士を仰向けにすると、生気を失ったやつれた顔をした彼女の口元に小瓶を傾けた。
 それはホイム謹製の回復薬である。こんなこともあろうかと事前にアカネで持たせていたのである。
 囚われている女性騎士十人分を準備していたのだが、半数は街の広場でホイムが直接治癒を施している。
 薬はダブついているが、余って困るものではない。

(飲み下すには至りませんか……)

 女性の口に回復薬を含ませたものの、そこで止まってしまう。飲み込むだけの体力すらない程痛めつけられているのだ。
 晴れぬ表情で傷だらけの騎士の看護をするアカネであったが、ホイム薬は口に含ませるだけで充分だったらしい。
 次第に彼女の傷は塞がっていき、土色をしていた肌も徐々に赤みを取り戻していく。呼吸も安らかなものとなっているようである。
 薬の効果を見届けたところで静かに布を取り出して女性の体を包み、筵の上に横たえる。
 まずは一人。残りは四人。
 用件が済んだ牢を出て次の牢へと向かおうとする。
 しかしアカネはピタリと足を止めたかと思うと、そのまま闇へ溶けるようにスッと姿を消した。直後に少し離れた角の先、地下牢への扉を開けて来る何者かの足音が石造りの地下へ響き渡る。
 槍を携行し兵隊服を着た男が二人、虚ろな表情で地下を歩き回る。
 どこを見ているのか定かではない見回りはただの徘徊でしかなかった。
 エイーリオで遭遇した兵士は尊大な態度ながらも自我はあったが、彼らにはそれがないようである。
 城にいるとこうなってしまうのでしょうか。
 考察するにも情報が少なく意味がある行為ではないので、すぐに思考を打ち切ったアカネは二人の背後から無音で姿を現し、間を縫うようにすり抜ける。
 途端に二人は糸の切れた人形のようにドシャリと崩れ落ちる。気を失い屍のように倒れたその表情は相も変わらず虚ろなものであった。
 まとめて意識を刈りとったのは残りの騎士の看護を邪魔されないためである。
 殺しはしない。彼らが何がしかの手段で尋常ではないのは明白であったからだ。
 それに兵士とはいえ国の民。その血を流さず制圧できたとなれば彼女の主も手際を褒めてくれるだろう。
 少しだけ得意になって手付かずの牢に足を弾ませていくアカネの背筋に悪寒が走った。
 シュッと空気を斬り裂く音と共に彼女の毛先が幾つか宙に舞った。
 深く身を屈めた彼女の頭上を鋭利な何かが掠めていったのだ。

『おど……ろいた……』

 声が彼女の足元からする。
 視線を下げた彼女が目にしたのは兵士の首であった。だらりと開いた口は微動だにしていないのに、確かにそこから声がした。

「影口……」

 敵意を前につい言葉が漏れてしまった。
 影口とは彼女が知る忍術の一つ。相手の意志と無関係に対象の口で言葉を操るさして難しくはない術である。
 それとよく似た術が彼女の眼下で披露されている。
 そして悟る。今襲いかかってきているのは彼女と同じ闇に忍ぶモノであると。
 アカネの頭上で槍を振るったのは首を失くした兵士の体であった。絶命しているとしか思えない状態にも関わらず、その体は油の切れたカラクリのようにギリギリとぎこちない仕草で動き続ける。
 人間であればそのようなことができるはずもない。特別な手段を施されて動いているのは間違いないはず、そしてそれを行っているのは、兵士の首から言葉を発したナニカ。
 離れた位置にある松明のみが光源となる薄暗い場所で、正体不明の何かを相手にすることになったのだった。
しおりを挟む
感想 180

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳
ファンタジー
庭付き一戸建て住宅ごと召喚されたせいで、召喚に失敗。いったん、天界に転送されたジュンは、これからどうしたいかと神に問われた。 「なろう」さまにも、以前、投稿させていただいたお話です。 ペンネームもタイトルも違うし、かなり書き直したので、別のお話のようなものですけれど。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...