凡人ソロ探索者は現代ダンジョンに酔いながら恐ろしい怪物に立ち向かうようです

黒柴部隊

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無音事態

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 …すごい。


 俺は手の中にあるそれから目を離せない。


 人差し指と親指でつまんだ半円の宝石は、その内側から光を放ち続けている。


 宝石の通販番組のようなライトを当ててそれを反射しているような輝き方ではない。



 この宝石はこれ自体が輝いている。黄緑色の明るい光り。それが全体を包み込んでいるのだ。





 不思議な光りだ。俺はそれを近くで見ながら感じた。


 瞳孔が反応しない。

 これだけ眩しいのに、目を焼かない。目を瞑る事なく至近距離で見続けることができる。



 始めて見る光景だった。光がまるでその半円の宝石を包んでいるようにも見える。


 まるで俺の手の中に光そのものが在るかのような。


 無音の世界の中、音を立てずに光りが辺りを照らす。

 灰色の地面に黄緑色の光りが混じる。

 しばらく俺はそのまま動かなかった。


 気付けば、その宝石から熱が消えていた。手袋の向こうから何も感じない。同時に光が少しづつ陰っている。


 消えかけの線香花火の玉のように、宝石を包む光は萎んでいき、やがて消えた。



 そこには俺が見つけた時と同じ、静かな深緑の色が戻っていた。



 俺はすぐにまたその宝石をポケットに入れる。まるで余人の目から隠すように手早くと。


 なに、今の?
「」




 まただ。俺は今たしかに言葉を発した。喉を震わせ、歯をあげ、舌を動かし、唇を開いて声を出した。



 


 これならどうだ。


 すうと大きく息を吸い、大口を開けて思いっきり地面に向かって叫ぶ。




 ああああああああああ!
「」



 俺の声が空気を震わせることなかった。




 なんなんだこれは。


 胸の中でドラムを鳴らされているようだ。しかもそれはゆっくりと、しかし確実にペースが上がって来ている。


 心臓が五月蝿い。



 周囲の音が聞こえない。体の中で鳴る音ばかりが骨を通じて俺の耳に届く。



 心臓のペースとともに呼吸が乱れる。無意識に浅く早くなっていた呼吸を遅らせるように努める。



 鼻から吸い、口から吐く。だめだ。逆に苦しい。



 なんだ? 何が起こった?


 いや、起こっている?

 俺は両耳にそれぞれ左右の人差し指を差し込みぐるぐると回す。

 耳の孔の中で、手袋の革と耳の皮膚が擦れ合う音が届く。

 指が耳の中でぐるぐると回り、迫り来るような音が聞こえる。


 俺の耳が失聴したわけではないらしい。ひとまずは安心か?



 俺は辺りを見回す。盛り上がった灰色の土、突き刺さったシャベルに灰色のナップザック。少し歩けば奴らの住居に、奴らの死体。



 異変はないように見える。周囲の音がまったく聞こえないこと以外は。


 まるで誰かが世界の消音ボタンを押したようだ。




 俺はその時点でシャベルを引き抜きそのバーを折りたたむ。80センチほどの長さだったものが30センチほどに縮まる。それをナップザックに放り込み、持ち上げて右肩に乗せる。すぐさまその場を離れる準備を整えた。


 俺は平凡な探索者だ。


 探索者になりたての頃から憧れで使っていた剣も才能がないから捨てて、簡単に扱える斧を扱うように変えた。


 上級探索者になりかけの昔の仲間からは、伸び代がないとの理由から別れを告げられた。



 今年で28歳になる。身体能力もこれ以上の向上は難しいだろう。


 人間を二種類に分けたとして、持っているものと、持っていないものに分けるとするのなら、俺は残念な事に持っていない方なのだろう。

 学生時代や、社会人時代にそれを嫌というほど思い知らされた。



 だが、特別その事を悲観的には捉えていない。持っている人間の数は少ない。他の大多数が俺と同じ持っていない側の人間のはずだ。




 だからだろうか? ここバベルの大穴はいい。


 何故かって? 持っていようと持っていなくても同じだからさ。


 つまり、死ぬ時は死ぬ。生きる時は生きる。



 シンプルな二択が意外なほど自分の性にあっていた。その証拠に俺は探索者になって3年。まだ生き残っている。



 そしてその3年間の経験が、俺の毛穴を拡げて冷や汗を促す。



 この状況はヤバい。この意味のわからない状況は俺の手に負えるものではない。


 とにかくここを離れよう。そしてすぐにサポートセンターへ連絡して…



 偶然だった。偶然その時、正面を向いた。




 は?




 やばっ



 宙に浮く、何か、ここへ向かってー



 俺は反射的にその場から飛び退く。一塁に駆け込む球児のように体が砂まみれになることも厭わずに。




 俺が先程までいた場所には、灰ゴブリンの死体が二体折り重なるように落ちていた。



 いや、この二体が飛んで来たのだ。上から降ってくるように音もなく俺に向かって落ちてきた。





 まだ生きている? すぐに立ち上がり奴らの方へ向き直す。


 虚ろな瞳に、固まった血に塗れて萎んだ体。それはピクリとも動かない。死んでいる。俺が殺した二体。



 何故? 



 どうやって飛んできた? しかもまたこいつらが地面に落ちた音が聞こえなかった。


 ああ、もう最悪だ。この状況は、すごく悪い。何も把握出来ずに事態がどんどん変化してしまっている。



 俺の心臓の焦りが脳にまで昇ってしまった。落ち着かなければならないのに、落ち着いているという状況が思い出せない。




 こいつらが飛んできた方向を、見た。見てしまった。





 っひ。
「」

 悲鳴が漏れて、漏れなかった。

 いる。

 そこには何かがいた。奴らの住居のすぐそば奴らの死体があった場所にソイツは立っていた。







 距離にして8メートル弱、

 そこに立っているのは





 大きな、大きな、人の耳ー?



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