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第10話『王都の天秤、貴族たちの査定と《解析》の宣戦布告』
しおりを挟む王都《セレヴィナ》、第五層にある貴族街の一角。
そこには、定期的に貴族子弟と才能ある庶民を集めて査定を行う「天賦適性会議」が存在していた。
名目は“教育の場”だが、実態はスキルの取引と支配関係の調整会議である。
そして今、その場に“異物”が踏み込もうとしていた。
「本当に、参加する気なのですね……?」
ルヴァンス家の別邸にて、アリシアは微かに眉をひそめていた。
「リク、あの会議は名ばかりの査定。スキルの内容すら誰も知らないのに、家柄と“印象”で格付けされるだけ」
「だから行くんだ。そこにこそ、俺の《解析》が効く」
彼らの“見えない査定”に、俺の“視える解析”で真っ向からぶつかる。
そして、はっきりと証明してみせる。
スキルの価値は、肩書きではなく、本質で決まると。
◇ ◇ ◇
会場は、王都中央学院の大ホール。
上階には貴族評議員、下階には参加者と付き添いの魔導官が座る、まるで公開裁判のような造りだ。
今日の査定対象は10名。うち7名が貴族、3名が庶民。
俺は、フィアとアリシアを伴って最下層の控室に入った。
控室には、すでに緊張と冷笑が混ざった空気が漂っていた。
「……“無天賦”が混ざってるぞ」「なにかの冗談か?」「また貴族を侮辱しにきたのか?」
ざわつきの中で、アリシアが静かに一言放つ。
「その者は、ルヴァンス家が推挙した“解析士”よ。無礼な口は控えなさい」
場の空気が一瞬、凍った。
ルヴァンス家——公爵家であり、王都五大貴族のひとつ。
その名前は、言葉以上に重かった。
◇ ◇ ◇
査定会が始まった。
評価者である評議員たちは、名家出身の老貴族ばかり。
彼らは“光の札”と呼ばれる魔導器でスキルの有無だけを判定し、過去の実績と家柄に点数をつけていく。
その査定に、本来“内容”は必要とされていない。
そして、ついに俺の番が来た。
——対象:リク・カザマ
——天賦:無判定
——家系:不明
——推薦者:ルヴァンス公爵家
会場にざわめきが走る。
無天賦でありながら、貴族家が推すという異常。
「君のスキルは、“無し”と出ているが……どういうことかね?」
評議員の一人が訊ねた。
その口調は侮りと困惑、そして軽い嘲笑にまみれていた。
俺は、会場全体を見渡した。
そして、一歩、前に出る。
「——俺のスキルは《解析》。この世界で唯一、“スキルの中身を視ることができる能力”だ」
静まり返る会場。
「この中に、自分のスキルの“具体的な効果と成長段階”を言える者がいるか?」
誰も返事をしない。
なぜなら、この世界において**スキルとは“あるだけで満足される存在”**だったからだ。
「俺には視える。どのスキルが、何に使え、どう進化し、どう欠陥を抱えているか。あなた方の“誤った査定”もすべて解析できる」
俺は、《解析》を起動し、壇上の貴族数名のスキルを読み上げた。
「侯爵家次男の《剛腕》は、Lv2で成長限界。物理抵抗に弱く、加速スキルと併用できない」
「第三王子の《魔弾強化》は、射程と命中精度が反比例。遠距離戦には向かない」
場内が騒然となる。
彼ら自身も、そこまでの情報を知らされていなかったのだ。
「な、なぜ……そんなことが……!」
「《解析》だからだ。この力で、スキルの本質を暴く。それが俺の“宣戦布告”だ」
——この王都に。
——この世界に。
“視えないままに人を値踏みする社会”に、俺は抗う。
◇ ◇ ◇
その夜。
俺の存在は、王都の貴族層と学院上層部に正式に“危険人物”として記録された。
一方で、“本物のスキル士”として、民間やギルドの中で密かに名が広がり始めていた。
アリシアが言った。
「始まったわね、“解析の時代”が」
フィアも笑っていた。
「リクさんなら、きっと……この世界を変えられます」
誰かが視なければならない。
誰も視なかった真実を、誰かが暴かなければ。
その役目を、俺は担う。
《解析》という異能を武器にして。
───
あとがき
第10話では、スキル査定制度の根本的な欠陥に《解析》が正面から挑む回でした。
主人公の社会的な“宣戦布告”をもって、物語は第1章(王都編)の転換点を迎えます。
───
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