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第18話:王宮の返答と、恋の続章。三角関係はまだ終わらない
しおりを挟む王妃候補としての最終査定が終了してから三日。
王宮からの返答は、まだ届かなかった。
それでも学園の空気は変わっていた。
ゼフィリア・リューデル――その名は、もはや「奇跡の令嬢」でも「鈍感娘」でもない。
自らの意志で立ち、恋と信念を語った少女として、確かな“敬意”と“関心”を集めていた。
そんな空気の中で、彼女の恋模様もまた、終わることはなかった。
◆ ◆ ◆
「ゼフィリア嬢。……少し、よろしいですか?」
放課後、ラベンダーの花壇の前。
姿を現したのは、かの“完璧令嬢”――ヴェリシア・グランシュ=フェルナーだった。
「……何のご用件でしょうか、ヴェリシア様」
ゼフィリアが身構えるのも無理はない。
この二人は、王妃候補として争ったばかり。
そして、未だにその結果は正式には決まっていないのだ。
だが――ヴェリシアは、意外な言葉を口にした。
「私、“恋”というものを……初めて、本気で考えましたの」
「……え?」
ゼフィリアの目が大きく見開かれる。
ヴェリシアは花壇に手を伸ばし、一輪のラベンダーをそっと指先で撫でた。
「殿下があなたを想う理由。殿下の眼差しが“王太子”ではなく“エリオン”に変わった理由。
……それを、ようやく理解できた気がします」
ヴェリシアは、ほんの少し微笑んだ。
「ですので、今度は“令嬢として”……私も、あなたに恋の勝負を挑みますわ」
「……っ!」
「これは政略ではありません。栄光の座でもない。
ただ、一人の男を“好きになってしまった”女として――」
その告白に、ゼフィリアは返す言葉を失った。
◆ ◆ ◆
その夜。
エリオン・フォン・エイゼルヴァインは、執務室で深いため息をついていた。
「ふたりとも、真剣すぎる……胃が……」
クラヴィスからの報告で、ゼフィリアとヴェリシアが再び火花を散らし始めたことは知っていた。
王太子として、あるいは一人の青年として。
彼の胸の内は、日に日に複雑さを増していた。
「“選ばれる”立場ってのも……楽じゃないんだな」
そのとき、執務室の扉が軽くノックされた。
「エリオン様。……少し、お時間をいただけますか?」
静かに扉を開けたのは――ゼフィリアだった。
「ゼフィリア……!」
立ち上がろうとする彼を、彼女は制止する。
「立たなくていいんです。……今日は、“王太子殿下”じゃなくて、“エリオン様”に話したくて来ました」
小さく、頷くエリオン。
ゼフィリアは一呼吸おいて、まっすぐ彼を見つめた。
「エリオン様。私は、まだあなたの隣に立ち続けたいと思っています。
でもそれは、誰かと争って勝ち取りたいものじゃない。
あなたが、私といたいと思ってくれるなら――そのときは、もう一度、ちゃんと“恋”をしましょう」
その言葉に、エリオンは目を伏せ、ゆっくりと深く頷いた。
「……ありがとう。ゼフィリア。
そう言ってもらえるだけで、少し胃の痛みが和らぐよ」
二人の間に流れた、静かな時間。
そしてその静寂の中、エリオンはそっと彼女の手を握った。
「――待ってる。君の気持ちが、また俺を選んでくれるその日まで」
◆ ◆ ◆
そしてその翌日。
クラヴィスとアシュレイもまた、それぞれゼフィリアのもとを訪れていた。
「僕は諦めないよ、ゼフィリア嬢。恋っていうのは、“終わらなければ負けじゃない”らしいからね」
「俺は……ずっと“傍にいる”。それだけだ。……選ばれなくても、それが俺の誇りだからな」
ゼフィリアの周囲には、相変わらず三人の“胃を痛める男たち”がいた。
けれど彼らは、もう以前のように焦ってはいなかった。
彼女が“まっすぐに選んでくれる”と、信じることができたから――
──つづく。
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