22 / 96
第22話:最後の誓い、最後の答え。選ばれるのは、誰の隣か
しおりを挟む王宮正殿。
高い天井、磨かれた大理石の床、そのすべてが“王の権威”を象徴する空間に、
ゼフィリア・リューデルは一人立っていた。
王妃候補としての再審査。
それは、“王妃の資質”を問う最後の問答であり、
そして、“ゼフィリア・リューデル”というひとりの人間の生き様を見極める場でもあった。
「ゼフィリア・リューデル。問う」
宰相が厳かに声を放つ。
「そなたは、王太子殿下の隣に立つ覚悟を持つか。
名を賭け、未来を賭け、その命運を共に背負う覚悟が、そなたにはあるか」
ゼフィリアは息を呑む。
その問いは、あまりに重く、あまりに直接的だった。
けれど――
「私は……はい、“覚悟”はあります」
真っ直ぐに、静かに、彼女は言葉を紡いだ。
「ただ、それは“王妃”になるための覚悟ではありません。
私は、“エリオン・フォン・エイゼルヴァイン”という一人の人間と――
人生を、喜びも苦しみも、歩んでいくという覚悟です」
正殿が、静まり返った。
誰もがその言葉を、深く胸に刻むように、耳を澄ませていた。
「私に力がなければ、共に育て合えばいい。
私に知恵がなければ、支えてくれる人に感謝をして歩けばいい。
私は――ただ、誰かと共に笑い合える日々を、大切にしていきたいのです」
宰相は黙し、そして王が軽く頷いた。
やがて、扉の向こうに立っていたエリオンが、ゆっくりと歩み出る。
「ゼフィリア……」
彼は、誰の許可を求めるでもなく、彼女の前に立った。
「王太子としてじゃない。
俺は、ただ“君を好きになった男”として、ここにいる」
そして――ひざまずいた。
「ゼフィリア・リューデル。
君がこの国の“妃”でなくてもいい。
けれど、君が“俺の未来”であってほしい。
どうか、俺の隣にいてくれ」
正殿が、再び静寂に包まれた。
ゼフィリアは、そっと手を伸ばした。
その掌が、エリオンの手に触れた瞬間――
大きな拍手が、王宮に響き渡った。
◆ ◆ ◆
その夜。
王城の裏庭にて。
クラヴィスとアシュレイが、並んで空を見上げていた。
「……負け、たな」
「まあ、最初から予感はしてましたよ。
でも、全力で想えてよかった。あの人に、そう思わせるだけの力があったということです」
ふたりは、誰にも聞こえない声で笑った。
「俺たちの胃袋は、無駄じゃなかったってことか」
「ええ、本当に」
◆ ◆ ◆
そして、ヴェリシア。
彼女は、ひとり学園のラベンダーの花壇にいた。
風に揺れる紫の花々の中で、彼女は微笑んだ。
「……あなた、本当に強くなりましたわね、ゼフィリア」
その目に、少しだけ涙を浮かべながら。
「……いいですわ。わたくしも、次の恋を探しに行くとしましょうか」
◆ ◆ ◆
エリオンとゼフィリアは、ラベンダーの前で肩を並べていた。
「これから、たくさんの試練があると思います」
「うん」
「でも、一緒にいれば――全部、大丈夫な気がします」
そう言って笑ったゼフィリアの手を、エリオンは強く握った。
「ありがとう。君に、出会えてよかった」
ふたりの未来は、これから始まっていく。
恋と成長の果てに見つけた、“隣にいたい”という願いを胸に――
──完。
本作『初恋令嬢は鈍感すぎて、王太子・騎士団長・学園貴公子の胃を壊す』はこれにて一章完結です!
【あとがき】
最後までお読みいただきありがとうございました!
ゼフィリアという“鈍感だけれど真っ直ぐ”な令嬢と、三人の胃痛男子たちによる恋愛戦線、いかがでしたか?
ここまでお付き合いくださった皆さまのおかげで、彼らの物語がちゃんと未来へ進めました。
続きを読みたい方の声が多ければ、“新章・王宮編”としてゼフィリアの妃修業や新キャラとの波乱を描いていきます!
4
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!
宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。
静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。
……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか?
枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと
忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称)
これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、
――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる