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おさがり様
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母方の田舎に、年に一度だけ帰る。
小さな集落で、携帯も圏外になるような山の中だ。
そこには「おさがり様」という神様が祀られている。
お盆の夜になると、村の家々はそれぞれ門に小さな皿を出す。
皿には炊き立ての白飯をほんの少しだけ盛る。
それが「おさがり」だ。
子供の頃、何度も祖母に言われた。
「絶対におさがり様の皿には触れるなよ。
何を思っても、腹が減っても、口にするんじゃないよ。」
理由を聞いても、
「神様のものは神様のものだから」
とだけ言われた。
小学生の頃は、そんな決まりがちょっと面白かった。
高校の夏休み、久しぶりに田舎に帰った時。
夜中にふと小腹が空いて縁側に出た。
月明かりでよく見える。
門の前に置かれた小皿の上に、
白飯がほんの少し乗っているのを見つけた。
子供の頃に止められたことなんてすっかり忘れて、
「一口くらいなら」とつまんで口に入れた。
柔らかくて甘い香りがした。
それから数分後、
家の中から祖母が慌てて出てきた。
目が合った瞬間、顔を真っ青にして口を押えた。
「……お前……やったのか……?」
俺が「え?」と言うと、祖母は膝から崩れ落ちて泣き出した。
その夜、夢を見た。
見渡す限りの真っ黒な田んぼの中に立っていた。
水も稲もなく、泥だけが広がっている。
そこに、白い顔をした何かが並んでいた。
ぼろぼろの着物を着て、顔だけが真っ白。
みんな首を少しずつ傾けて、俺を見ていた。
どれも顔が似ていた。
よく見たら、全部、
俺の顔だった。
朝起きると、祖母が仏壇の前でずっと何かを拝んでいた。
顔を見たら、俺を見たときと同じ、真っ青な顔だった。
「……もう、来年のお盆には帰ってくるんじゃないよ……
もうここは、お前の居場所じゃないから……」
小さな集落で、携帯も圏外になるような山の中だ。
そこには「おさがり様」という神様が祀られている。
お盆の夜になると、村の家々はそれぞれ門に小さな皿を出す。
皿には炊き立ての白飯をほんの少しだけ盛る。
それが「おさがり」だ。
子供の頃、何度も祖母に言われた。
「絶対におさがり様の皿には触れるなよ。
何を思っても、腹が減っても、口にするんじゃないよ。」
理由を聞いても、
「神様のものは神様のものだから」
とだけ言われた。
小学生の頃は、そんな決まりがちょっと面白かった。
高校の夏休み、久しぶりに田舎に帰った時。
夜中にふと小腹が空いて縁側に出た。
月明かりでよく見える。
門の前に置かれた小皿の上に、
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「一口くらいなら」とつまんで口に入れた。
柔らかくて甘い香りがした。
それから数分後、
家の中から祖母が慌てて出てきた。
目が合った瞬間、顔を真っ青にして口を押えた。
「……お前……やったのか……?」
俺が「え?」と言うと、祖母は膝から崩れ落ちて泣き出した。
その夜、夢を見た。
見渡す限りの真っ黒な田んぼの中に立っていた。
水も稲もなく、泥だけが広がっている。
そこに、白い顔をした何かが並んでいた。
ぼろぼろの着物を着て、顔だけが真っ白。
みんな首を少しずつ傾けて、俺を見ていた。
どれも顔が似ていた。
よく見たら、全部、
俺の顔だった。
朝起きると、祖母が仏壇の前でずっと何かを拝んでいた。
顔を見たら、俺を見たときと同じ、真っ青な顔だった。
「……もう、来年のお盆には帰ってくるんじゃないよ……
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