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第五章 砦の戦い

総力戦

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「ゴブリンの足跡を追っていたら、こんな修羅場に来ちまった」

 ぼやくヴィツェルは油断する事なく腰から次の短剣を用意していた。一足遅れてヨークとクマリが合流し4人は隊列を整えてミノタウロスと魔女に対峙する。

「クエストの相手はゴブリンじゃなかったっけ?」

 クマリが小さな声でヨークに質問する。

「ゴブリンはすでに、ほぼ全滅してるみたいですね」

 冷静に答えるヨーク。ちらりと倒れているアイマールを見る。

「まさか、あの子一人でやったっていうの?」

 クマリが驚きの表情を見せる。

「おい! 今は目の前の敵に集中するぞ」

 セードルフが声を掛け皆の気を引き締める。数多くの魔物を支配下に置く目の前の魔女が、只者ではないことを歴戦の戦士は感じ取っていた。

「今日はやけに人間どもが森にやって来るね~みんなであたしの邪魔をするのかい?」

 魔女は赤く充血した目でセードルフ達を品定めするように見回した。

「そうはいかないよ……お前達、こ奴らを切り刻んで喰らってしまえ」

 魔女はしゃがれた声でそう叫ぶと、背後の暗闇から新たな魔物の群れが現れた。

 闇の中爛々らんらんと眼を光らせながら現れたのは、黒い短い体毛に覆われ犬によく似た顔をした魔物コボルトだった。

 ゴブリンと同じく人間型ヒューマノイドの魔物で、金属を腐らせる特殊な力を持っているためドワーフからは目の敵にされている。

 刃物のような鋭利な爪と、鋭い牙が武器で裂けた口から長い舌をチロチロと覗かせている。

 知能は高いわけでないが常に群れを成し、弱い者に狙いを定め相手を執拗に追跡し、弱ったところを集団で襲うという狙われると厄介な魔物だった。

「ヴォ~!」 

 ミノタウロスは雄叫びをあげながら戦斧を振りまわし、コボルトはミノタウロスの背後から隠れるように詰め寄ってくる。

「おいっ! この数はちょっとヤバくないかい?」

 ヴィツェルが、引きつった半笑いでナイフを構える。

 状況を見たヨークがすかさず魔法の詠唱えいしょうを始めた。朗々とした声が森の中に響き渡る。

「天使、シャムシエルよ……聖なる火花で、闇の眷属を照らしたまえ……」

 ヨークの周りに魔法風が巻き起こり、法衣と木の葉を巻き上げる。胸の前に組んだ複雑な印の隙間から魔法独特の淡い光が溢れだす。

「エクシアス・スパーク!」 

 その声と共にヨークは手の印を解き、魔力を空中に解放した。ミノタウロスの目の前の空間に突如として光球が現れ激しく炸裂した。その強烈な光が敵の視力を奪っていく。

 この魔法は、主に暗いダンジョンなどで一時的な明かりとして使用される事がほとんどだが、高位の神官魔法を習得しているヨークがその威力を極限まで高め、攻撃魔法として独自に使用している魔法だった。
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