ムーランディア

イーストバリボー

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第一章 冒険者ギルド

エルフのセシーリア

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 ルキアが部屋の中に入ると、そこには一人の美しいエルフがいた。

 金色の美しい髪が腰のあたりまで伸びていて、とがった耳とあおい瞳がじっとルキアを見つめている。

 首から下げた大きな赤い宝石が若草色のドレスの胸元で光っている。

「初めまして。どうぞこちらに掛けて……確か名前は……ルキア君ね。私は案内人のセシーリア」

 そのエルフは事も無げにルキアの名前を言い当てた。

「どうして? 今さっき思い出した名前なのに」

「君の事は、よく知っているわ」

 エルフは、手元にある分厚い本のページをめくった。

「どうして僕のこと知ってるの? それからここは何処でなぜ僕はこの世界にいるんですか? どういうことか……教えてくれませんか? セシーリアさん」

「……それはルールとして出来ません」

「ルール?」

「そう、この世界のルールです」 

「僕よく分からないことが多すぎて……色々と教えて欲しいんです」

「私があなたに教えられることは少ないの」

「なぜ僕がこの世界にやってきたのかも教えられないんですか?」

「その通りです。この国にやってきた理由は、自分で探してください」

「自分で探す? 探せば見つかるんですか?」

「それはあなた次第です」

 エルフは、短く答えた。

「ただ、もとの世界に戻るためのヒントは与えましょう」

「ヒント?」

「そうです」

「今からあなたがやらなくてはいけない事だけ説明します」

「やらなくてはいけない事……わ、わかった。お願いします」

「まず、冒険者として登録して、幾つかのクエストをこなしてもらいます」

「僕が冒険者にっ?! 魔物と戦わなくちゃいけないんですか?」

「そうです、魔物と戦ってもらいます」

「まずは冒険者になるために、あなたの適正を見なければいけません。つまり、この世界でどんな職業に向いているかです」

「この世界で向いてる職業?」

「そう。どんな人にも得意不得意があるでしょ? それを調べるから……このプレートに触れてみて」

 セシーリアはそういうと親指程の小さな金属プレートを差し出した。

 ルキアは言われた通りにその金属プレートに触れた。するとその金属プレートが光を放ちそこに文字が浮かんだ。

「あなたは魔力は低いみたいね……その代わり力強い精神力のようなものを感じる……剣を握った時のほうがあなたの真の力は発揮される……ただ選ぶのはあなた自身よ……」

 金属プレートに浮かび上がった文字をエルフがゆっくりと読み上げた。

「戦士、盗賊、弓使い、武闘家、今あなたがなれる職業クラスはこの4つです」

「じゃあ……戦士でおねがいします」

 ルキアは答えた。

 もちろんセシーリアの言葉もあるが色々武器が装備出来るほうが良いとおもったからだ。

「戦士ですね分かりました。レベルが上がれば様々な上級職にクラスチェンジも可能です。それまで生きていたらの話ですが……」

 エルフはサラッと怖いことを言った。

「アハハ……」

 ルキアは引きつった笑いを浮かべた。

「さあこれを首に掛けて下さい」

 セシーリアはそういって、先程の金属プレートに小さなチェーンを通してルキアに手渡した。

「これは冒険者プレートと呼ばれる物で、これからはあなた達の能力を示してくれる大事なものとなります。そしてこれを持っていることが冒険者の証しでもあるのです」

 言われるままそれを首に掛けたルキアの体に不思議な感覚が訪れた。それはいつもより体に力がみなぎるような感覚だった。

 そのプレートには、

レベル1  戦士ルキア

HP 15
MP  0
力  10
魔力  0
素早さ 7
器用さ 5
スキル 0

と刻印されていた。

「今からあなたはレベル1の戦士です」

「え!? もうレベル1の戦士?」
 
 実感がなかった少年は思わずエルフに聞き返した。

「そうよ。そしてこれからレベルを上げて強くなる必要があります」

「そして私が依頼するクエストを1つずつクリアーしていく。それが元の世界に戻るヒントになります」

「もとの世界に戻るヒント……」

「まずは魔石をお金に換えて街に出て装備を整えて下さい。そんな恰好じゃすぐ死んじゃいますから」

「死んじゃうって言われてもな」

 ルキアは宿屋の女将にもらったばかりの布の服を見つめた。

「もし死んでしまったらそこで終了です」

「え? 終了ってどういう意味です?」

「この世界から消失ロストします。生き返る手段は無く、その後どうなるかは私にはお答え出来ません」

消失ロスト……」

「まずはこの街の周辺で弱い魔物を倒してレベルを上げていくのです。全てはそれからです」

「僕、魔物との戦い方なんて知らないんですけど……」

「みんな初めはそうです。少しずつ戦い方を覚えていって下さい」

「……」

「レベルを上げたらまたここに来てください。その時あなたに合ったクエストを用意しておきます」

「……はぁ、分かりました」

 えらいことになったと思いつつルキアは部屋を出ようとした。

「ちょっと待ってルキア君」

「え? なんですか?」

 セシーリアはルキアに近づくとジッと目を見つめてきた。碧い宝石のような彼女の瞳にドキッとするルキア。

「……まだ、ハッキリとは分からないけど……あなた特別なスキルを身に付ける事になるわ」

「特別なスキル?」

「そう、それが何なのかは今はまだ分からない……ただそのスキルがあなたや仲間たちを救う事になる」

「僕や、仲間たちを救う事になる?」

「そのスキルを覚えるまで……頑張ってね」

 セシーリアはそういってルキアを見送った。

「はぁ……とりあえず頑張ります…」

 よく意味が分からなかったルキアは気のない返事をした。

 ”その前にスキルって何だろう?”

 もう少し説明を聞こうかと思ったが、これ以上説明を聞くと余計に混乱しそうだと思ったルキアはエルフに挨拶し部屋を出た。

 部屋を出るとそこには心配そうに、ルキアの顔を見つめるエリナがいた。
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