転生令嬢の憂鬱~最強で溺愛症の婚約者を持つといろいろ大変です~

氷雨

文字の大きさ
2 / 6

天使様はピュアっ子でした。

しおりを挟む
「…ぶな」

「え?…」

今なんて?


「勝手に僕の名を呼ぶな」

「……」


え、呼ぶなって、じゃあなんて呼べばいいのよ。

「あの、ではなんとおよびしたらよろしいのですか?」

「しらない」

えー


何この子、見た目天使なのに口を開けばとんだ我儘っ子じゃないの、さ、詐欺だわ。私の感動を返せ!


「あの~、しらないというのは、いささかむりがあります」

それでもこのままではいられないため、私も必死に粘る、いくら私の顔が軽く引きつっていようが、怖い微笑みをしていようが、決して怒ってはいけない、いくらこの天使様にムカついてきたからって怒鳴ってはいけないわよルチアーノ。


「…では呼ぶな」

「……」


ひっひっふー、ひっひっふー、深呼吸を忘れてはいけないわ、こうすることで怒りも少しだけ緩和できるのだから定期的やらなくては。
あー、すっきりすっきり、ってなるかこの馬鹿!!


「あのですね?ひとからはなしかれられたらかえすというのがれいぎです!!」

「は?」

「まず!!なんですかあなたのたいどは!!じぶんよりもくらいがひくいものにはそのようなたいどをとるのがこうしゃくけのふつうなのですか!!!」


「おい、急にどうしたんだ!」

「どうしたもこうしたも、すべてはあなたのたいどがげんいんなのですー!このばかーー!!!」

「はーー!?」


はー、はー、はー、言ってやったぜ!!私!!
ざまぁみろ!!


「……」

あ、今思ったけど流石に馬鹿はないんじゃない?

これって不敬罪よね?

あ、詰んだ……………逃げよ。


「し、しつれいしました!!!」

と大きな声で謝罪をし、勢い良く頭を下げから、まだ未発達な足に精一杯力を入れて後ろに方向転換をする。

そして脇目も降らず私は走り出した。

でも、その足は後ろから聞こえてくる音に反応してすぐに止まってしまった。


「あ、おい待てっ!!……う、ごほっごほっ」

足を止めて後ろを振り返れば、地面に膝をつき地面に着くのではないかと思うほど前に倒した上半身が、激しい咳と同時に震えていた。


「ノアさま…!?」

私は一度走った道を引き返してノア様の元に駆け寄った。


「だ、だいじょうぶですか!?ノアさま!!」

「ごほっ、ごほっ…う、うる、さい、ごほっ、ごほっ、あ、っちに、ごほっ、いってろっ…」

「そんなことできません!!!」

そうだ、そんなことできるわけないじゃないか!!
こんな苦しそうな姿を見せておいて今更あっちに行けなんて、強がるのも大概にしろ!

近くに誰かいないのかしら?
というかこの御屋敷はなんでこんなに人がいないのかしら?


「あっちに、行けよっ、はぁ、はぁ、ごほっ」

「ちょっとうるさい!!」

私はとりあえずノア様の背中を摩った。少しでも良くなるようにそう願いを込めながら、ゆっくり、ゆっくりと摩ってあげた。

こんな小さな手だけど力の強い大人より良いはずだ。

お願い、おさまって…。


「はぁ、はぁ、…」

「だいじょうぶ、だいじょうぶです」

ゆっくり、ゆっくりと上から下へと上下にゆっくりと手を動かして少しでも安心させてあげる。

ノア様の病気が何なのかは分からないけど、前世で私は喘息持ちだったから少しだけ分かる。
きっとこれは発作で、咳が止まらなくなっているんだ。背中を摩ったところで効果は無いって分かってるけどしないよりマシなはず。

多分だけど、ある程度発作が起きれば喘息の場合しばらくは出ない。けど空気が乾燥していたり、暖かかったりするとまた変わってくる、本当に面倒で厄介な病気なのだ。


ただノア様は違う、ノア様が患っている病気が何か分からない以上、もしかしたら今、吐き気や頭痛だってあるかもしれない。

だから執念に私はノア様の背中を摩った。

「だいじょうぶです、わたしがいます、だいじょうぶ」


「はぁ……はぁ……」

体感だが10分くらいだろうか、それくらいの時間が経つとノア様の咳も落ち着いて、徐々に息遣いも落ち着いてきた。

私はポケットからハンカチを取り出して、ノア様の額にそっとあて、汗を拭き取った。


それでもまだ脳は興奮しているだろうから、落ち着けるためにも私は背中をさすり続ける。

それを5分くらい続けていると、ノア様の手が私の顔の前にそっと割って入った。


スっと呼ばされた手が私の顔の前で止まる。

「もう、いい……あ、ありがとう」

「はい、よかった」

そう言って笑うと、ノア様はふいっと顔を逸らしてしまった。その耳は少し赤くなっていて、きっと顔も赤くなっているから逸らしたのだろうと容易に理解出来てしまって、私は少しだけ笑ってしまった。

「な、何がおかしい…」

「いいえ、ノア様はピュアっ子なのだな~と思いまして」

「ぴ、ぴゅあ…?」

あぁ!これは前世の言葉でこっちの世界にはこんな言葉なかったわ!!

「ノアさまはかわいいといったんです…ふふ」

「なっ…!?」

少し赤くなった顔が益々赤くなったことによりノア様は手で顔を覆い隠してしまった。

あぁ…せっかくの天使様の照れ顔が……

「お、おまっ、何が天使だ!頭おかしいんじゃないのか!?」

あらま、心の声が口に出ていたようです。

「ほんとうのことですわ」

「う、うるさいぞ!」

「はいはい、たくさんせきをしましたから、これいじょうはなすとのどをいためてしまいますよ?」

「う…」

私がそう言ってあげると渋々ながらも黙ってくれた。

「いいこいいこ~」と撫でてあげれば「う、うるさい!」とまた大声を出して恥ずかしがったので「めっ!」と両手でバッテンを作ってノア様のお顔の前に突き出せば、途端にしゅんっと静かになってしまった。

それがなんだか可愛くて面白くて、私は後世で久しぶりに心から笑ったのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます

さくら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。 行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。 「せめて、パンを焼いて生きていこう」 そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。 だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった! 「今日も妻のパンが一番うまい」 「妻ではありません!」 毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。 頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。 やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。 「彼女こそが私の妻だ」 強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。 パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

処理中です...