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1話 青年との出会い
ここは…と思うまもなく私は悟った。
けれどうまく確証が持てなかったため、暫し放心する。
地面に座り込んだままの状態で周りを見渡す。
街灯はあるが少々薄暗いためはっきりとは分からないが、きっとあれは滑り台だろう。それに隣にあるのがブランコで、離れた反対側の位置にあるのが鉄棒だろう。
何故私が名も知らぬであろう異世界の物を知っているかと言うと、おそらくこの世界は前世で暮らしていた日本と言う国なのではないか?とこの公園を見て思ったからだ。
不思議なことはあるもので、私は生まれた時から前世の記憶を持っていた。ただそれは時間が経ちすぎたせいもあって朧気になりつつあったものの、今この時、私の前世の記憶は自分の名前を覗いて鮮明に思い出し始めた。
と言っても今この状況でおさらいするほど呑気にしている暇は無いので現状を確認するため立ち上がった。
形といえど婚約者から送られた淡いスカイブルーのマーメイドドレス。幾重にも重なったレースは土が付いてしまって汚れていた。
それを少し残念に思う自分もいるが、取り敢えず情報を集めようと構わず立ち上がった。
そして、高くなった視界で周りを眺めたおかげで、この公園にはもう一人人間がいたことに気が付いた。
街灯の下、ベンチに寝そべりリュックを枕にして眠る青年がいた。
紺色のブレザーに、紺色のチェックのズボンは明らかに学生であった。
こんな夜に?一人で?家に帰らないのだろうか…と純粋に思うがもしかしたら帰りたくなくてここにいるのかもしれないので詮索するのはやめようと決めながら、私はベンチで眠る青年に近づいた。
頼みの綱はこの人しかいない、絶対失敗しないようにしなきゃと心に言い聞かせながらそっとベンチの傍で座り込み、青年に声をかけた。
「あの、すみません」
「…」
「あの!すみません!!」
「…」
反応のない青年に私の声も徐々に大きくなっていく。しかしふと、青年の耳に何かが入っているとこに気が付き、それをそっと取って声をかけた。
「あの、すみません、起きていただけますか?」
「…ん」
声が届いたのか、青年が眉根を寄せる。
じっとその光景を眺めていると徐々に瞼が持ち上がり、その薄い茶色の瞳が私を捉えた。
眩しそうに青年が何度も瞬きする。
あまり近過ぎるのもどうかと思い、少しだけ離れる。と言っても青年がいるベンチからほんの気持ち程度しか離れてはいなかったが。
「…あんた、誰」
「私はリディアン・バスティーです」
つい反射的に自己紹介してしまったものの、ここはそんな返答をする場面じゃないのでは?と言ってしまった後から後悔する。
「…もしかして何回も話しかけてたのって、あんた?」
「…えぇ、まぁ」
「何か用?」
「えーと…」
明らかに機嫌の悪いと分かる青年に、なんと声をかけていいか分からなくなり口ごもる。
ここは素直に交番に案内してもらいたいとか、言えばいいのだろうか?ただこの世界で家も戸籍も何も持たない17の女が交番なんかに、それもこんなドレス姿で行っても変人扱いされて大変な事になりそうな未来しか見えない。
どうしよう…と途方に暮れた時、青年はベンチから起き上がり、足を地面につけた。
そして、再び私に視線を戻した時、青年はピシリと音がしそうなほどに固まってしまった。
あぁ、きっとこのドレス姿を見てビックリしているんだわ。と元日本人だった私は思う。
青年は固まったまま未だ動かずこちらを眺めるばかり。私はどうしていいか分からず、首を傾げ曖昧に笑った。
「…ッ!」
「あの…助けていただけませんか?」
「…」
なんと言っていいか分からず、取り敢えず声をかけた。そこでやっと青年は口を開いた。
「…夜に一人は危ない、早く帰れよ」
ぶっきらぼうに青年は言ってくる。
「…帰る家がないんです」
「…は?」
青年は意味がわからないと言うように片眉を器用に上げた。
「だって私、異世界から来ましたから」
「…」
驚きに目を見開く青年を尻目に私は顔を伏せ地面を眺める。
今だ自分の中でも消化しきれていないこの現実を受け入れるのは辛い。自分で言った異世界から来たという言葉に徐々に気持ちが重くなる。
ぽた。
一雫の涙が地面を濡らした。
泣いてはいけない、そう思えば思うほど涙が溢れてくる。
初対面の、しかも異世界の人の前でいきなり泣き出すなんて迷惑以外の何物でもない。
私はぐっと手の甲で涙を拭うと顔を上げた。
青年はそんな私をじっと見ていたのか困惑の表情を浮かべている。
「…何でもします、私の出来ることであればなんでも…!だから、お願いします、私を助けてください!」
コルセットのせいで土下座は出来ないがそれに近しい格好で頭を下げ、必死に懇願する。
「な、ちょっとやめろよ!」
「…お願いします!」
私の必死な様子に青年がはあぁぁぁと長いため息を吐いた。
「立って、お願いだから」
そう言われては立たないわけにもいかず、私はすぐに地面から腰を上げ立ち上がった。
大丈夫か?と青年がハンカチを差し出してくる。
それをありがたく受けとり、目に軽く押し当てた。
「…ありがとうございます、あの洗って返します」
「いや、いいよそんなハンカチ」
「いえ、返します」
はぁと2度目の溜息をつきながら青年は諦めたように笑い、「…好きにすれば」と言うと私の手を取って歩き出した。
「…ここ、俺の家」
そう言って数分かけて足を止めた場所はなんと彼の家だった。青年に手を引かれるままに入った家は、普通の住宅と違って前世の庶民的な家に住んでいた私から見ても一目で立派だと分かるほど大きな家だった。
もしかしてお金持ち?自分のことを棚に上げながら周りもチラチラと見てしまう。
あれはテレビ、だろうか?私が日本にいた時と違って随分と進化したみたいで、大きなソファの向かい側の壁に掛けられていた。
あのテレビどうやって壁にくっついてるんだろう?と疑問はあるものの、手を引かれるままに青年と共に2階へと上がった。
4部屋程あるうちの一部屋に私は案内された。
「…この部屋使ってないから、好きに使うといいよ、と言っても本当に何も無いから寝る時は1階のソファを使って、あれベットになるから」
もう話すことは無いとばかりにバタンと青年は扉を閉めると、再び私の手を引いて歩き出した。
「ここでちょっと待ってて」
そう言って青年は手を離し部屋に入っていくと、何かを持って戻ってきた。
「…じゃあ次」
再び青年は私の手を掴むと反対の手で紙袋を掴みながら歩き出した。
「お腹すいてる?」
キッチンと思われる場所に案内された時青年にそう聞かれたので、「いいえ、大丈夫です」と言うとお風呂場に手を引かれた。
「…これ俺の服で悪いけど着替え、シャンプーとコンディショナーはグレーのやつを使って、あとは、下着だけど流石に俺のを貸すわけにいかないから自分のを着てほしい」
そう言って先程部屋を出た時から持ち歩いていた紙袋を手渡してくる。
それからもシャワーはここを捻って使う、とか。
石鹸はここにあるから、だとか。青年は丁寧に教えてくれた。
「あぁそうだ君が着てるドレスだけど、洗濯機に入れないでこの籠に入れて置いてほしい」
説明に忙しかった青年がそう言ってこっちを向く。茶色の瞳と目が合い、ドキリとする。
しかし、私はたと気づく。今になって。
私はまだ、彼の名前を聞いていない。
説明も終わり、私を置いて彼が出て行こうという瞬間私は青年の腕を掴んだ。
(…ちょっと待って!!)
「あの、お名前を、教えていただけませんか?」
「あぁ、名前ね…俺は風間 隼人、君は確か…」
「リディアンです、どうぞリディアンとお呼びください」
「分かった、じゃあ俺の事も隼人でいいよ、俺はあっちでご飯つくってるからゆっくり温まって、じゃあ」
そう言って青年改め隼人は部屋から出て行った。
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