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5話 お風呂
しおりを挟むお風呂には着いた。
着いたのだ。
でもどうぞ入ってというようにお風呂場の中に彼らの腕を掴んで引き入れるも突っ立ったまま動きやしない。
もう一度意思疎通を図るもやっぱり返事が返ってこない。
どうやら相当彼らの傷は深いらしい。
完全に彼らは心を閉ざしてしまっていた。
無機質な目で、何も言葉を発さずただそこにいる。このままでは本当に手遅れになってしまう気がする。
「はぁ、仕方ないな」
俺はおどけたように言うと、彼らの着ている服を脱いでいった。ただ1人洗ってる間にもう1人は裸でいると寒いため端っこの方で服を着たまま待っていてもらうことにした。
「さぁこっち」
赤い髪をした男の手を引きながらシャワーの元まで連れていく。
肩を押して無理やり椅子に座らせると、まずは水で髪の汚れを落とした。
因みに日本と同じような仕組みで、2つあるうちの上のボタンを押せば水がでて、下のボタンを押せばお湯に変わった。
毛先までしっかり洗っていく。
一通り根元まで指を通して洗ってから、近くにあったシャンプーって書かれたものをに2プッシュくらいして出してから手に馴染ませ、しっかりと根元の汚れを取るために念入りに洗っていく。
こうやって洗ってあげていると大型犬をわしゃわしゃ洗っているようでなんだか楽しかった。
ちらりと横目で黒髪の男を見遣れば、相変わらず無機質な目で下を向いていた。
その光景にどうしようもなく胸が苦しくなる。
ざぁぁぁあっとお湯を流しながら2回ほどシャンプーをして洗い流すと、今度はコンディショナー?トリートメント?どっちかわかんないけどそれをとって今度は毛先に丁寧に塗りつけた。その際ぎゅっぎゅっと染み込むように押していくのも忘れない。最後に全体に塗りつけたら数分放置。
俺はその間黒髪の男の服をせっせと脱がせていた。
脱ぎ捨てた服をひとまとめにして端っこに整理してから再び赤髪の男の元に向かい、お湯で洗い流してあげる。軽く石鹸で体を洗ってあげてから5人くらい余裕で入れそうな湯煎に連れていき、前もって溜めておいたお湯の中に浸からせてあげた。
そんでもって今度は黒髪の男にチェンジ。
そんな感じでせっせと髪を洗い体を洗いと、母親のと如く世話をし続け、ようやく一休みした頃、ついに彼らが口を開いた。
「......なんで、そこまでするんですか」
「...私には理解ができません」
少し彼らから離れた位置でお湯に漬かっていた俺の耳に、掠れた2人の声が聞こえた。
「しゃ、喋った...え、なんで、え、喋れたの?喋れたのかよ、なんだよもぉ~!」
「...」
「...」
一人興奮しながら口を開けば黙り込む2人。
「...ごめん、えっと、なんでそこまでするかだっけ?うーん、なんでだろうね、俺がやりたかったからかなぁ」
「...意味がわかりません」
「...」
すっかり綺麗になった緋色の髪と、濡れた前髪から覗く金色の瞳に思わず魅入られそうになる。
美形だなぁと思いながら「そっかぁ~」とだけ軽く返事をしておくと少しだけ目を見開いた気がした。
「...ところでさ、君たちの名前が知りたいんだけど、そろそろ教えてくれるかな?」
後ろに両手を付き、体を支えながら声をかければ今度はちゃんと返事が返ってきた。
「...ありません」
「...私もです」
え、名前ないの?まじ?
あーそうなんだ、だから答えなかったのか。
あれでも、ないならないでちゃんと言ってくれればって、まぁいいか、ないなら俺が勝手に決めちゃお。
「...それって俺が名前付けちゃっていいの?」
「...かまいません」
「...私もです」
黒髪くんそればっかじゃん、と少し笑いながら名前を考える。
「う~ん...」と唸りながら考えをめぐらせる。
赤髪くんはそうだな、女性的な顔だし...黒髪くんはあれかな?あーでも、あれもいいなぁ、いやーどうしよ。
もういいや、よし、決めた!!
「...赤髪くんはアカネ、黒髪くんはヒスイってどうかな?結構いいと思うんだけど...」
2人は「アカネ...」「...ヒスイ」と自分の名前を確かめているようだ。
「...アカネって言うのはよく女性に使われる名前なんだけど、赤髪くんって綺麗だし夕日みたいだからアカネって名前にしたんだ...ヒスイは石というか宝石というか、綺麗な緑が混じった黒い宝石があるんだけど、それに似てたからヒスイ...どっちも俺の故郷の言葉なんだ、どうかな?」
少し照れくさくてそっぽを向いていた顔をアカネとヒスイの方へ向けると、どこか嬉しそうに自分の名前を呟いていた。
何この子達すっごい可愛いんだけど。
名前貰っただけでそんなに嬉しいの?なにそれ可愛すぎ。
心の中で悶えながらもう少しだけお湯に浸かった。
応援ありがとうございます!
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2人にいい兆しが見られて良かった!ストーリーの流れも好みで、続きがとっても気になります!