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過去編

マリー Ⅰ

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「はぁ、はぁ.........」

私は草花が生い茂る丘を目指して走っていた。
約束の場所に行くためだ。

夢のせいもあり早く起きてしまった私は、ご飯も食べずに部屋を飛び出した。
一応「出かけます」とだけ書き綴った置き手紙を置いてきてはいたが騒ぎになるはずだ、ただ父様のことだ、大事にはせず暗部の者達に捜索させるだろう。
父様をまた不安にさせてしまうのは心苦しいが、私はまた、あの時のようにあの子を傷つけてしまうことが何より怖かった。

だから部屋を飛び出した私は使用人部屋から出てきたロイの腕を引っ張り、急いで馬車の準備をさせた。

「起きたばかりなのにごめんなさいロイ」

「あ、あのですねお嬢様、このような事はもうしないでくださいね?...私の首が飛びます、物理的に...」

そう言いながらも、ロイは馬車に乗せてくれた。
私があの時、あの約束の場所に行った時、ロイもいたからだ。だから事情を話すとロイは了承してくれた。やっぱり私の従者は優しい、私の我儘を聞いてくれる。それでいて悪いことはしっかり叱ってくれるのだ。私はそんな従者を持てて幸せだ。ただ、幼少の頃より使えているため、未だにロイは彼女が出来ない。こんなに魅力的な男性なのに...。


まぁ、それは追追ロイに問い詰めるとして、今はマリーに会った時、緊張しないで謝れるかをイメトレしないと。


あのひまわり畑は公爵領にあって最短ルートでも半日かかってしまう。
幸い、私が家を出たのは5時くらいだ、だからお昼前には着けるず。



はぁ、なんて、謝ればいいの...?

あの手紙の文から、彼女は相当怒っていたように思う。でも、あの芯が強く、正義を体現したような彼女が時間通りに来なかっただけで、私を憎むほど怒るだろうか。

いや、例え怒っていなくても、私は謝らなければいけない。
全ては私が悪かったんだ。
どんな罰だって、受けるわ。



王都を出て、やがて建物が少なくなってくる、その頃になると太陽は既に上がっていて南の方角へと傾き始めていた。

ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。

もう5分程で、11時だ。

あの時の約束の時間は11時。

________残り5分



止まった馬車が、到着したことを知らせ、私は扉を勢いよく開けた。

台も使わず飛び降り、ロイの静止の声も無視して駆け出した。


パンプスを履いてきてよかった、重たくないドレスを着てこなくてよかった。

これなら、約束の時間に間に合う...!!

草花が生い茂る丘を目指し、疾走する。

やがて丘は斜面へと変わり、丘を超えたことが分かった。

目の前の光景を見る。
見事に咲き乱れるひまわりが私の目を覆った。

照りつける太陽へ茎を伸ばし、花を咲かせる。
どの方角へ咲こうが、必ず太陽へと咲くその花が、彼女のようで、私は好きだった。

ひまわり畑の小道を走り、彼女を探した。

そして、見つけた。
















「レイラ...」






✱ ✱ ✱



私はマリー。
ママの綺麗なハニーピンクの髪と、パパの綺麗な水色にも黄緑にも見える瞳を受け継いだ私は両親に愛をめいいっぱい注いでもらい、とても幸せだった。

そう、だった、なのだ...。


あの日が来るまでは。

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「あ、雨だ........今日は用事が出来たのかな...」

ミリアーナは貴族だ。それもこの公爵領を納める公爵様の娘。いつもいつもお忍び用の服を着ていたけど、溢れ出る気品とか、何をするにも上品な所作をしていたからきっと貴族なんだろうなぁとは思っていたけど、ある日ママに彼女のことを話したら「それはきっと、この公爵領を治めておられる公爵様のお嬢様よ...そんなお方と友達だなんてマリーは凄いわね」と言って頭を撫でてくれた。
私はその暖かな手に撫でられるのがとても嬉しくて幸せだった。

雨が降ってきたから、もうきっとミリアーナは来ないだろうな。


私は諦めて、帰路につき、家へと帰った。



そして、異変に気づいた。



家の中から慌ただしい足音と怒声が聞こえる。
その中に、パパとママの声が混じっていた。

でも、その声ははたと無くなり、急に静かになった。

暫し、様子を伺い、何も音がしなくなったため中に入ってみることにした。

恐る恐る、壊れた戸を退かし、家の中に入ると



ママがパパを抱いて泣いていた。


「ママ...?パパ...?」


ママとパパは反応してくれない。

その代わりに、ママとパパの傍にいた人達が反応した。


「旦那様......あちらを」と貴族のように身なりのいい男にその隣の男が声をかけた。

「ほぉ....カミーアにしては良くやったな」

そう言って男がこちらに近づいて来て、私の腕を掴んだ。

「こいつを連れていく」

「はっ」

連れて、行く?......どこへ?

この人たちは誰?

ママとパパは?

私が混乱する中、ママもパパも何も言わないし、こちらも向かない。

そしてママは相変わらずパパを抱きしめたまま涙を流し続けていた。


あぁ、パパ、死んじゃったんだ。


焦るはずなのに、何故だか落ち着いていた。

そう言えば、ママもパパも何も話してくれなかった。他の子達は楽しそうに親の馴れ初めや職業とかを楽しそうに話していたのに、私だけ話せなかった、だから自然と皆私のそばを離れていった。

あぁ、そうか、この私の腕を掴んでいる身なりのいい男は、ママのお父さんなんだ、だからママ何も話さなかったんだね。

ママ、所作が凄く綺麗だもんね、私、一生懸命真似してたんだよ?貴族じゃないのにね。

じゃあ、パパは?
パパも貴族なの?


「ねぇ、パパをどうしたの?」

酷く冷静な声が出た。

私の言葉に目の前の男が驚きに目を見開いたが、直ぐに元に戻り鼻で笑った。

「ふんっ、そんな平民は殺した、あいつは私のどうぐと従者でありながら駆け落ちしたんだからな、当たり前の処罰だ」

そう言ってまた目の前の男が掴んだ腕に力を入れた。

「っ...」

耐えきれず、声にならない声が出た。


「そう、私を、どうするの?」

「ほぉ、偉く達観しているな、よくやったぞカミーア、お前に似ずに聡明なようだ......そうだな、お前にはきちんとした淑女教育をさせよう、そして然るべきもののもとへと嫁ぎ、私の役に立て」


男はそう言うと、周りに指示を出し私を馬車へと連れていった。親を殺されたことに涙も出さず、大人しく捕まろうとしている私に、捕らえようとこちらに近づいてくる者達は皆驚いていた。

腕を後ろにまわされ手で拘束されながら馬車まで歩いていく時、1回だけ後ろを振り返った。


私が泣きじゃくって、ママに助けを求めていたら、ママは私を見捨てなかったかな。

そんな考えが一瞬過ぎり、急いでその考えを頭の隅に追いやった。


ばいばい、ママ、パパ。


愛してくれて、ありがとう。


そう心の中で呟いて、前を見た。


私はもう二度と、後ろを振り返らなかった。




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これからシリアス展開&マリーの過去編に入ります。
あんまし上手く書けないので、期待はせずにお願いします。
お読みいただきありがとうございました!





















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