エロゲの男性主人公の立ち位置に転生しましたが、前世も今世も女です。

キマメ

文字の大きさ
7 / 79

7・分岐点①

しおりを挟む
 地元名家のイケメン跡取り達とぽっと出の転校生が仲良くなるなんて、いつ吊るし上げられてもおかしくない、と思ったがそんなことはなかったぜ。
 というか、うちの学園の女子、男子に興味なさ過ぎじゃない?
 私を除いて美男美女揃いだというのに、浮いた話を少しも聞かない。いや、男子が攻略対象の女の子を見て溜息をついてるのはたまに見る。

 私がゲームのままの男性主人公だったなら、沙姫ちゃんと仲良くしていることを責められていたに違いない。
 そんなイベントもあったはずだ。本人は知らないけど、沙姫ちゃんには親衛隊がいるからね。特攻隊長はメガネで色の違う制服を着てた辺りがエロゲ世界。
 『ラストサマーメモリー』の大筋のストーリーはルートが進むと好感度強制発生で基本一本道だったけど、日時場所パラで細かいサブイベントが起こったのだ。だから毎回新鮮に遊べたっけ。

 女の私が吊るし上げられないのはエロゲ世界だからかな。男性主人公を差し置いてライバルが女子にモテてたら面白くないよね。
 私がルートを開いていないから、ライバルが危機感を抱いて攻略対象に近寄ることもない。蒼吾君も友情ルートに入ったのか、授業中に血走った目で沙姫ちゃんを見つめていることもない。気にして様子を窺う私に苦笑を返してくるくらい落ち着いている。
 苦笑を返されるのは、授業についていけてないくせによそ見してていいの? という気持ちを込めてだと思う。

 この分なら吊るし上げられなさそうで良かった、と勉強会からまだ一週間も経たないうちに安心したのは早かった──

「葵先輩に近寄らないでください!」

 ある日の放課後、いつものように裏庭の自販機でランダムボタンを押していたら、見覚えのある女生徒に言われたのだ。
 いや、ついつい毎日ジュース買いに来ちゃうのよ。
 ほとんどサキュバスジュースなんだけど、一度だけお茶が出たの! ゲームみたいにはいかないかなーなんて思ってたけど、飲んだら明らかに頭の回転が速くなったの!

 また出ないかなー。
 後一回いいのが出たら買うの止めようと思ってる。
 だってこのままじゃ冷蔵庫がサキュバスジュースでいっぱいになっちゃうから。……流しに捨てるのもなんか起こりそうで怖いんだよねー。最初から買うなって話だけど。

「聞いてるんですか?」
「ああ、うん。聞いてる聞いてる」

 ショートヘアと日に焼けた肌、野生動物のようにしなやかな体。
 運動部の練習着に身を包んだ彼女は一年後輩(でも十八歳以上だよ!)、蒼吾君を好きで追いかけてる女の子だ。彼女が蒼吾君を監禁男の未来から救ってくれるのならお任せするけれど、それは無理だ。
 ゲームでもNTRネトラレ役の男性主人公が協力しないと彼女と蒼吾君の仲は発展しなかったし、現在女の私は彼女に協力出来ない。

 この子は……蒼吾君は大人の女性が好き→H=大人という思い込みで、男性主人公に肉体関係を迫ってくるのだ。まあ主人公の発言セリフのせいなんだけどさ。
 好きな相手をものにしたくてほかの人間と関係を持つのはいかがなものか、と思って関係を持たない蒼吾君にNTRネトラレルートを探ったが、そんなものはなかったよ。
 蒼吾君に彼女をNTRネトラレるのは絶対に、主人公が彼女と関係を持った後でした。いくらエロゲでもどうかと思うよ、そういうの! もちろん監禁もダメだよ!

 ……まあ男性主人公×体育会系後輩女子彼女の正規ルートなら違う始まりもあるんだけど、沙姫ちゃんを監禁男から救うという使命があるので今の私には彼女に関わっている暇がない。
 卒業に向けてお茶も買わなきゃいけないし(キリッ)!

「あなたのようにどこの馬の骨ともわからない人が葵財閥の御曹司にすり寄るなんて、目的はわかってます! お金でしょう?」

 現金はもらったことないけれど、この前のドライブでは食事とパフェを奢ってもらったよ。
 勉強会のときは手作りの夕食をご馳走になったし、ひとり暮らしだと知られてるからか毎日お弁当を作ってきてくれている。紅太郎君や沙姫ちゃんもくれる。
 三人のお弁当で三食済ませて、お弁当箱だけ洗って返してる。……どうやって恩返ししたらいいんだろう。蒼吾君の監禁男化は止めようと決意してるものの、頑張りました! とそれを告げることは出来ないよね。

 それにしても『どこの馬の骨』って今どき言わないよね。
 うーん。このイベントはグラウンドで起こるはずなんだけどなあ。性別が変わったことで、いろいろおかしくなってるのかも。それともゲームと違って現実では、どのイベント場所もシームレスにつながってるからかな。
 きゃんきゃん吠え続ける後輩女子を黙らせるセリフは覚えてる。覚えてはいるけれど、それを言っちゃうと肉体関係を迫られるようになっちゃう。

 性別が違うから大丈夫と安心してはいられない。貞操の危機だ。
 それに沙姫ちゃん以外の攻略対象の顔はあんまり見たくないんだよねー。
 スペースキーに重し置いて飛ばしてたとはいえ、何度も見たHシーン思い出しちゃうから。目の前の後輩女子は特に、初めては葵先輩がいいからと男性主人公にお尻を──

「聞いてるんですかっ?」
「……うん、聞いてたよ」

 嫌なことを思い出していた私の代わりに、彼女を止めたのは蒼吾君だった。

「あ、あ、葵先輩っ?」
「どうして僕の交友関係を君に意見されなきゃいけないのかな? 僕達は友達でもなんでもないよね?」
「ご、ごめんなさい。でもアタシ葵先輩が心配で……先輩はこの転校生に騙されているんです!」
「僕が世莉ちゃんに? 世莉ちゃんはね、僕の命の恩人で大切な友達なんだ。僕を騙す必要なんかない。彼女が欲しいというのなら、葵家我が家のすべてを譲渡してもかまわない」
「命の恩人?」

 首を傾げたのは後輩女子ではなく私だった。
 命の恩人ってなんのことだろう。後、ご両親と弟君がいるんだから葵財閥のすべては無理でしょ。
 蒼吾君に睨まれた彼女は、顔面蒼白で小刻みに震えている。

「部活の途中じゃないのかい? 早くグラウンドに帰りなよ。……これからもこの学園にいたいのならね」
「ご、ごめんなさいっ!」

 後輩女子は野生動物のように美しいフォームで去っていった。

「蒼吾君、今のって……」
「うん。世莉ちゃんに許す気がないなら、いつでもあの子を退学にするよ? 葵家我が家はこの学園に毎年多額の寄付をしてるし、創立者の末裔の紅太郎も世莉ちゃんに迷惑かけた人間は許さないと思うし」
「ゆ、許すもなにも、ちょっと絡まれただけだから……」
「絡まれるのって嫌じゃない?」
「嫌だけど……いなくなったから、もういいよ。それより命の恩人って?」
「暴れ犬から助けてくれただろ?」
「アレキサンダーは暴れ犬じゃなかったよ」
「名前覚えたんだ。今週末に紅太郎の家へ行くの、楽しみにしてるみたいだね」
「うん。蒼吾君は大丈夫? 犬怖くない?」
「怖いから、また守ってよ。世莉ちゃんが変なのに絡まれたときは、僕が守るから」

 そう言って、蒼吾君は笑う。
 後輩女子の話はこれで終わり、ってことみたい。

「はは、ありがと」
「ところで世莉ちゃん。いつも買ってるそのジュース、美味しいの?」
「っ!」

 覗き込まれて、私は腕の中のサキュバスジュースのペットボトルを握り締めた。
 初日に拾ったのを返してくれたときも初めて見るって興味持ってたんだよね。
 どうしよう。さっき後輩女子を睨みつけていた蒼吾君には監禁男の片鱗を感じた。いっそここがエロゲ世界だと告げて、そうならないよう気をつけてって話してみようか。

「僕もランダムボタン押してみてるんだけど、一向に出てこないんだよね。いつもお茶ばっかりでさ」
「えー! いいなー!」

 サキュバスジュースについて聞かれていたことも忘れて、私は叫んでしまった。
 だって羨ましいよ、学力が上がるお茶! さすが友情ルートで学力を上げてくれる男、葵蒼吾君!……紅太郎君がランダムボタンを押したら、運動の上がるジンジャーエールが出てくるのかな?
 私のテンションに、蒼吾君が顔を引き攣らせた。

「そ、そう? 飲み切れなくて冷蔵庫に入れてあるから、今度うちに来たときあげるよ」
「いいの? わーありがとう」

 蒼吾君が監禁男にならないよう見張らなくちゃだから、勉強会はやめられない。
 でも三人に迷惑をかけているのは明らかなのだ。三人とも頭がいいから、私みたいなレベルの人間がいること自体理解不能だろう。それでもこの前は根気よく教えてくれた。
 お茶を飲んで学力を上げておけば、教えるほうも楽だと思う。

「……お茶あげるからさ、代わりにそのジュースちょうだい。興味あるんだ」
「え?」

 答えを返す暇もなく、蒼吾君は腕を伸ばして私の持っていたサキュバスジュースを奪い取った。
 きゅぽ、とキャップを捻る。

「どんな味? 炭酸だよね」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

A・殺さないけど奪い取る!→8ーAへ

B・とりあえず話をしてみよう。→8ーBへ

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

※一度分岐したら、エンドに到達するまでルートが続きます。エンドになったら、違う分岐ルートが始まります。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

黄泉がえり陽炎姫は最恐魔王に溺愛される

彪雅にこ
恋愛
「ああ、私、とうとう死んでしまうのね…」 侯爵令嬢フェリシアは、命の危機に瀕していた──。 王太子の婚約者だったフェリシアは、何者かの手にかかり、生死の境を彷徨い黄泉へと渡りかける。奇跡の生還を果たしたものの、毒の後遺症で子を成せなくなったと診断され、婚約は破棄に。陽炎姫と呼ばれる日陰の存在となっていた。 まるで邸を追い出されるかのように隣国の好色伯爵の元へ嫁がされる途中で馬車が暴漢に襲われ、再び命の危険に晒されたフェリシアを救ったのは、悪魔のような山羊の頭蓋骨の面を被った魔王だった。 人々から最恐と怖れられる魔王は、なぜフェリシアを助けたのか…? そして、フェリシアを黄泉へと送ろうとした人物とは? 至宝と称えられながらも表舞台から陽炎のように消えた侯爵令嬢と、その強大すぎる魔力と特異な容姿により魔王と恐れられる公爵の、恋と成長の物語。 表紙は友人の丸インコさんが描いてくださいました!感謝♡

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...