天使の奇跡

雪飴ねこん

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天使の奇跡

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──次はもっと愛されますように……

朝。窓から神々しい光が差し込む部屋。壁一面は真っ白で、あるのはベッドとシンプル机と椅子。そして机の上に置いてある食べ物だけの部屋。
「また……あの時の夢……」
ポツリと独り言を言う私に帰ってくる言葉は勿論ない。ここには一人で住んでいる。それはこの部屋に限ったことではなく、外に出てもこの世界は一人ぼっちだ。何故一人なのかと言うと私は「天使」になったから。

汗でまとわりつく服を脱ぎ捨てシャワールームに向かう。シャワーを浴びたら机の上にある朝食を食べ仕事に向かう。

天使の仕事は死んだ人間を天界に連れてくることだ。
家のドアは世界のどこにでも行けるあのドアのように仕事場につながっている。一旦外に出て死んだ人間がいることを確認し、ドアを閉める。そうしてもう一度ドアを開けると天界につながっていると言う仕組みだ。
今日は私と同じぐらいの女の子を私も行ったことのある病院から連れてきた。流石に自分の知ってるところは怖かったが一つの病室にドアがつながっていたので特に何もなかった。この連れてきた女の子はある日突然重い病気にかかってしまい、高校生活が始まる頃には寝たきり。そこからは早かったそうだ。可哀想。というのは失礼に当たるがずっと俯いている彼女を見ていると同情はどうしてもしてしまう。
「あの…」
突然彼女は私に話しかけてきた。驚いた私は目を見開いたあと落ち着いていつも通り冷たく返事をした。
「何?」
「えっと、死神…?さん?天使さん?お名前はなんですか?私は沙耶って言います!」
能天気に聞いてきた彼女に私は呆れながらも名前ぐらいはいいだろうと答える。
「私は弥生。あと、天使。」
「天使なんですね!おいくつですか?」
私は名前だけでなく色々聞いてくる彼女を見て何故こんなに話しかけてくるのか?自分が死んだのが分かってないのだろうか?そんなことを思って呆れた顔をしていると彼女が申し訳なさそうな顔をして言った。
「ご、ごめんなさい。女性に年齢を聞くのは失礼ですよね…」
私はさらに呆れて少し間を空けてから返事をした。
「私は、多分17歳。あと、あなた自分が死んだことわかってないの?」
「……分かってます。でも、死んだからって泣いていたくはないんです。きっと周りのみんなも泣いてるから。見えなくても、私ぐらいいつも通りで居ないと。それに、死んだとはいえ久々に病院の外に出て、体が思うように動かせて嬉しくて!」
そう言って彼女はその場を飛び回りこっちを見てニコッと笑った。多分彼女は死んだことの悲しみや、生きてる間に外に出れなかった悲しみ、そんな物と戦ってるのではないだろうか。そんな勝手な解釈をしながら歩いていると天界に着いた。
「ここが天界ですよ。大切な人を待つのも、転生許可をもらって転生するのも、天界を楽しみここで新しい人生を送るのもあなたの自由です。」
簡単な説明をして立ち去ろうとした瞬間彼女が腕を掴んできた。
「まって!えっと……案内してよ!私、病室しか知らないから、普通の人間のすることもわからないと思う……し、それに!同じぐらいの歳の人と遊んだことないから一緒にとかダメかな……?」
こうして彼女の申し出を断れず、私自身初のカフェに行ったり遊園地に行ったりして天界を満喫した。
「楽しかったなー、弥生ちゃんも楽しかった?」
「うん、そうだな。初めてこういう事をした、」
「そうなんだ、やっぱり天使は毎日お仕事なの?」
「休んでもいいのかもしれないけど、家から出たら仕事場につながってるんだ。仕事場の次は天界。だから外に出たことはないな。もしかしたらまだ日が浅いから知らないだけでノルマとかが終わったら外に出られるのかもな。」
なるほど…と興味深そうに相槌を打ちながら沙耶は次々質問してくる。
「なんで天使になったの?」
「自殺して、目が覚めたら天使だった。だから、辛いことに耐えられなくて自殺したから天罰で、天使になってずっと外に出られずに仕事をさせられてるのかなって思う。」
私は沙耶が黙って俯いたのを見て生きられなかった自分とは違い自ら命を捨てた大馬鹿者に腹が立っているのだろうと思い、その場を立ち去ろうとした。その瞬間彼女は泣きながら私に抱きついてきた。
「弥生ちゃん!弥生ちゃん……なんで私の目を見てくれないの……私が弥生ちゃんを助けられなかったから?それとも、私のこと忘れちゃったの?」
私は彼女を突き放そうとしたが、しっかり抱きついて離れなかった。
「弥生ちゃん、いつもお父さんや周りの人に酷いことされて、それで辛くなったんだよね?だから、弥生ちゃんはそんな罰受けるは必要ないよ!だから、ここで、一緒に居よう?」
そういう彼女に私はなんで今更こんな事を言われるんだろうと涙が出てきた。

──弥生が自殺をする少し前。
「こんにちは!私、沙耶!この病院にはずっといるから分からないことがあったら聞いてね!」
そうやって私に笑顔で話しかけてきた沙耶は病気なのか分からないほど生き生きしていた。
私は、虐待されて瀕死になった所を虐待した張本人の父親が車で引いてしまったと嘘をついて病院に連れてきたのだ。きっと殺して捕まるのが怖くなったんだろう。警察や医者は無能だからこの怪我で虐待されてるとはならなかった。普通なら怪我の具合とかでわかると思う。だが、父は財閥の一番偉い人であった為に周りは何も口出しができなかったのだろう。おかしな話だ。
一命を取り留めた私は二、三日で無理矢理退院させられた。
だがその前に沙耶はたくさんのことを教えてくれた。そしてたくさんの心配をしてくれた。そして最後には、「また遊びにきてね」と。
約束通り私は父親の目を盗んで家から抜け出しては病室に行って沙耶と他愛のない話をしていた。
そしてある日ナースステーションの近くで話していた看護師達の話を盗み聞きして紗夜がもう長くはないことを知った。
私は怖かった。初めてできた理解者を、私を傷付けたりしない人を失うのは。私はその恐怖心に身を任せ沙耶に「先に行ってるね。」と言い残しその病院から飛び降り自殺をしたのだ。

「弥生ちゃん!弥生ちゃん!私、弥生ちゃんが来なくなってからすごく寂しかった!弥生ちゃんが死んだって聞いてからは思っちゃいけないけど、早く死にたいって思っちゃったぐらい……!だからお願い……もう居なくならないで……」
そう言い放ち泣きながら崩れ落ちる彼女を見つめて私は自分勝手だった事を後悔し、彼女の為にこれからは一緒にいたいと思った。だが私には「天使」という終わらない役目がある。どうしようもない事を延々に悩んで居ると沙耶が顔を上げた。
「弥生ちゃん……?やっぱり私のこと忘れたの……?」
「違う、でも私は天使だから……」
そう言う私を見て沙耶は少し考えてまた顔を上げた。
「弥生ちゃん、天使も転生できるのかな……?」
「え……?も、もしかして二人で転生するの……?」
「うん!二人で転生して!二人で生きようよ!私と、弥生ちゃんの二人で!」
そう言って沙耶は私の手を引き転生の手続きを済ませ転生する場所まできた。
「人間転生にあたっての注意事項です。記憶は消去されます。いつの時代に生まれるかわかりません。性別や親も選べません。」
長々と転生の注意事項を読み上げる案内人の人を横目にずっと繋いでる手を初めて握り返す。
「沙耶、本当に行くの?記憶消えちゃうって言うし、私天使だから転生できるか分からないし……」
「大丈夫だよ!忘れたくないって強く願えばきっと!大丈夫!私も分からなくて怖いけど、弥生ちゃんと一緒にいたいから!」
「わかった……」
繋いだ手を離さないように強く握って二人で歩みを進める。
「ここを飛び降りれば人間界です。準備ができた方からどうぞ」
案内人はそう言うと帰っていった。
「紗夜ちゃん、ずっと一緒だよ。私が弱くて、勝手に死んで傷付けたりしてごめんね……」
「気にしてないよ、こうやって会えたし、ちゃんと言った通り待っててくれたから!」
「ありがとう……」

部屋の中に元気な泣き声が聞こえる。いつもより2倍大きく。
「おめでとうございます!双子でお二人とも元気に泣いてますよ!」
そう言われた母は泣いて喜んだと言う。その日の日記に母はこう書いている。沙耶、弥生、ずっと愛しています。

私たちが今こうして居れるのは奇跡だと思う。
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