魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第一部

二人、焚き火を囲んで①

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 焚き火を挟んで勇者とわたしは向かい合っていた。
 あのあと日暮れが近いということで勇者とわたしは目視できる森に向かった。
 ちなみにあの仮面の人物は彼も知らないらしい。
 どうしてわたしたちをここに転移させたかはわからない。
 そして焚き火につかえる枝や木の実を集め、川の近くで野宿することにした。
 暖かい季節だったため果物や魚も採れお腹はそれなりに満たされた。
 そして今は食事を終えてひと心地ついたところだ。
 食事中はお互い黙っていた。
 虫の鳴き声がする。
 魔物がいると虫の鳴き声すらせずひっそりとしているからきっとこの森には魔物はいない。
 魔物がいると気を張っていないといけないがこの様子だといても野生動物程度だろうから気が楽だ。
 落ち着いて話すにはいい。
 きっと話すと長くなるから。
 ややあって先に相手が話しはじめた。

「まず、僕のことはウィルと呼んでくれ。君とはまともに会話したこともなかったから君からしてみれば信用に値しない相手だろう。…国王陛下は僕の叔父だしね。でも、君とは良好な関係でありたい」

 そういえば国王と親戚とは聞いてたけどかなり近い親戚だったんだ。
 それにしても呼び方とは、距離を縮めようとしてるのかな。
 彼のことは善良な好青年だと思っている。
 温室育ちなのか猜疑心とか危機感なんかが足らないかなって思うところはあるけど。


「わかった、ウィルと呼ぶね。訂正させてもらうとわたしはあなたのことは信用できる人だと思っているよ」

「ありがとう。しかしまずは謝らせてもらいたい。我が国の国王ならびに…」

「謝らないで。あなたは当事者じゃない。あなたが悪いわけじゃない」


 かといって王様の身内のウィルが一切後ろめたい素振りを見せなかったらわたしは彼を信用しなかっただろう。


「わかった。このことはいずれ必ず当事者たちに償いをさせると誓う」


 いずれ、といっても今後わたしはウィルの故郷、エルグラン王国にわたしは帰ることがあるかな。


「君は従属の術をかけられていたということだけれど、今は完全に解除されているのかい?」

「今は消えているみたい。でも真名まなを知られているからまたかけられるかもしれない」


 真名まなとは本名のことだ。
 わたしの『リンカ』という名前も本名じゃない。 


 本名は『まどか』。『一ノ瀬 円いちのせ まどか』。
 リンカというのはリィンカーネーションからとった偽名。
 まどかと意味合いが近いから覚えていた。


 この世界では真名は命同然の意味をもつ。
 真名を知られてしまえば呪い殺されたり、洗脳も簡単にできる。
 わたしのように従属の術なんていう人権のない状態にされても反抗できなくなる。
 だからこの世界では真名は名付けた親なり保護者なり以外には、伴侶、親友、などの本当に信用信頼している相手にしか教えない。
 教えるということは『命を預けるほど、あなたを信頼している』というとても重い意味を持つ。


 そのため、普段名乗っているのは誰もが偽名なのだ。
 ネットやアプリゲームのユーザー名のようだ。
 ウィリアムも本名ではないはずだ。


「真名はいつ知られてしまったんだい?」

「召喚されてすぐ。礼儀正しく名乗ったら、すぐさま術をかけられたよ。わたしの世界には真名やら魔法やらはなかったからそんなことになるとは思わなかった」


 わたしはふつうに本名を名乗った。
 本名を名乗ることの危うさや真名のことについてその場の誰も教えてはくれなかった。
 物知らずの異世界人を簡単に利用できると喜んだだろう。
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