魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第一部

はじめましての国、ロンバルディ③

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「リンカ、君も一緒に亡命したほうがいい。今後の行動を考えるにしても、国家の後ろ盾というしっかりした足場を確保すればエルグランの叔父上も強硬な手段はおいそれととれない」

「確かに見つかったら力づくで無理矢理連れ戻してまたこき使いそうだよね。それにはとりあえず保護してもらったほうがいいか…」 

 この国がもし味方してくれるなら少しの間だけでも匿ってもらえたら助かる。

「うん、じゃあわたしも保護してもらえるようかけあってもらえる?」

「もちろんだよ。少しでも君が安心できるように手を尽くすと誓うよ。今までの仕打ちに比べればまだまだ足りないのだけれど」

「ウィル…」

 ウィルは悔やんでるんだ。
 真面目な人みたいだから、わたしが「あなたは悪くない」と言ってもさらに「気を遣わせた」なんて考えそうだ。
 なら善意を素直に受けよう。

「そうと決まれば、その幼なじみの情報を掴まないとね。その人なんて名前? 見た目とか性格は?」

「フェルディナンド。フェルディナンド・ロンバルディ。年齢は19歳。赤毛に緑の瞳で垂れ目。お喋りで社交的、…あと女性の交友関係が広い」

「女たらしじゃん。ねぇそのひと大丈夫?」

「…彼は華やかな場所が好きだから、観光地や大きい街にいる可能性が高いと思う」

 フォローしない辺りウィルもちょっとどうかとは思ってるな。
 なんで親しくしてたのか不思議だ。




             *




 朝日が眩しい。まだ朝6時くらいかな。

 昨日はすぐ宿の部屋でぐっすり眠った。
 ベッドで寝たのは久しぶりだ。
 魔王の支配地域には当然宿屋はなかったから1ヶ月ぶりくらいかな。シャワーもお湯が出て涙が出るほど嬉しい。
 シャワーもベッドと同じ理由で1ヶ月ぶり。
 なるべく清潔にしたかったけど、精々川で水浴びとか体を濡らしたタオルで拭くくらいしかできなかった。

 しばらくぶりのベッドを堪能してゴロゴロした。
 寝る前に洗濯して干しておいた白いローブを着て、朝食のできた頃だろうと部屋を出て食堂に向かった。

 食堂はパンの焼ける香ばしい香りがしていて気分が上がる。 
 朝食は2種類のセットを選ぶようだ。
 ひとつはバケット、ウインナー、じゃがいものポタージュスープ、サラダ。
 もうひとつはトースト、目玉焼き、ポタージュスープ、サラダ。
 朝はトーストが食べたいのでトーストセットにした。
 飲み物はミルクティー。
 わたしはミルクティーが好きなのでこの世界にもあってよかった。
 ちなみにコーヒーはこっちでは見たことないからないのかもしれない。
 コーヒー党には辛かっただろう。

 まだ人はまばらで空席が目立つ。
 どこに座ろうかと見回すとウィルが奥まった端の席にすでに座っていたけど、どうした?
 額に手をあて、もう片手で新聞を持っている。
 新聞に目を落としているが、目が虚ろ。
 そんな目してるのはじめてだ。
 なにがあったらそんなことになるんだ。

「ウィル、おはよう。どうしたの?」

「ああ、おはようリンカ。一緒に食事にしよう… 。いやなに、フェルディナンドのことを探そうと決めただろう? 何か情報が載っていないかと新聞を見ていたんだけれど…」

 宿屋は宿泊客には無料で新聞を貸してくれる。
 たいてい食堂にあるのでその場で読んで返却。
 そしてみんなで回し読みをする。

 この世界の識字率は貴族や商人やらの富裕層ならほぼ読めるけど平民や貧しい層はほとんどできない。
 義務教育は存在せず、教育を受けたければお金を払って学校に行くか、家庭教師を雇うことになる。
 なので新聞を置いているこの宿の客層は富裕層以上が多いのだろう。
 明らかなボロい宿だと新聞は置いていないらしい。
 客が新聞読めないなら置く必要がないから。

 促されるまま新聞の一面を覗き込むと、『フェルディナンド殿下 ダライアスの歓楽街にて恋人の美女に頬を叩かれ破局 理由は浮気か』
と、デカデカと載っていた。
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