魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第一部

襲撃③

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「さあ、人払いは済みました。知っていることを話してください」


 部屋には教皇とミハイルさん率いる聖騎士隊第一の精鋭、ウィルとフェルにロンバルディ王国の今回の旅に同行していた騎士隊から隊長さん含み数人、わたしに護衛のリュシオンだけがいる。

 とくにリュシオンの立ち会いは教皇が望んだ。
 直接襲撃者と戦った関係者ではあるものの相当重要そうな話題に混ぜていいものなのかとミハイルさんが教皇に確認したけれど教皇が強く希望した。
 みんなリュシオンのただならぬ扱いに疑問の目を向けていた。


「あの図形はある存在を祀る信徒が身につける紋章です。ある存在とは1000年前に初代勇者が戦いの末に封印した、邪神です。勇者であるウィリアム様ならばご存じかと思いますが」


 さっきリュシオンから説明されたあの邪神のことだ。
 それの信者がいるのか。
 ちらと彼の顔色をうかがうが視線を返しただけで黙っている。


「僕は初耳です。エルグランで所蔵している文献にもそのような記載はありませんでした」


 ウィルが驚きの声を上げ戸惑った表情をしている。

「そうでしたか。エルグラン王国では1000年前の邪神との戦いを代々国王が次の王へと初代勇者の書き記した手記とともに口伝で伝えられていたようです。どこかで途切れてしまったのでしょう」

「…残念です」

「我々聖教会でも邪神について知っている者は少ないでしょう。歴代教皇や枢機卿が前任者から引き継ぎで厳重に口止めをして教えられ知ったくらいのものです。…邪神について語ること、調べることは禁忌とされています」


 ウィルは悔しそうに顔をしかめ、禁忌という言葉にミハイルさんの左眉が跳ね上がった。
 心当たりがありそうだ。


「禁忌? なぜです?」


 フェルが訝しげに問うと教皇は身を翻し、部屋の壁側に飾られた高さ2メートルはあるだろう大きい油絵のの前に立った。
 宗教画だろうか。
 白いローブに身を包んだ亜麻色の髪の女性が金髪の男性と共に、翼を持つ女性や男性、少年少女に祝福されているようだ。
 その油絵は金色の額縁に入れられていてその一角は部屋の中で清廉な雰囲気を生み出している。


 そして教皇はその油絵に向かって歩き出す。
 「ぶつかる!」と思ったがそうはならず油絵に教皇の体がすうっと音もなく消えた。


「は!?」
「教皇様?」


 油絵から再び教皇が姿を現しこちらに体ごと向いた。


「この額縁の中の油絵は幻影です。実際には存在しません。この額縁の中は緊急時の脱出用に作られた隠し通路の入り口なのです。この道を通り皆様にはこの聖教会本部を脱出していただきたい」


 わたしたちをここから外に出すつもり?


「なぜ、僕たちを脱出させようとするのですか?」

「ここはもはや勇者様、聖女様にとって危険でしかありません。ですから一刻も早く逃げていただきたい」

「禁忌とやらを話したくないから追い出したいのでは? それともやましいことでも?」

「フェルディナンド殿下、さすがにその物言いは失礼では…」

「あちらさんの方がよっぽど失礼だろう。急に呼び寄せたと思ったらワイバーンと暗殺者がリンカちゃんを襲ってきて今度は出てけだ。リンカちゃんとウィルをコケにしてるととれるぜ」


 ロンバルディ王国の隊長に咎められるがフェルは珍しく怒りを滲ませた目で教皇を睨んでいる。
 睨まれた教皇はしっかりとフェルの言葉を受け止めわたしたちに向かって宣言した。


「禁忌について、それ以外も問われたことを洗いざらい全て、この通路を移動しながらお話します」


 わたしたちは顔を見合わせるとうなずき、提案を受け入れた。
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