魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第一部

待ち受ける者②

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「何!?」

「自らの体に取り込んだ!?」


 白ローブは悶え苦しみ出した。
 体を捻り痛みでもあるのか唸り声を上げていたがその体がその内から出た黒い靄に包まれていく。
 黒い靄はその全身を覆い膨らんでいく。
 背中がぞわぞわとする。
 みんなもその嫌な気配を察知したようで武器を構える。
 そして黒い靄が霧散してそれは現れた。
 人の形をしたそれは長いピンクブロンドを波うたせ、全身が青白い肌……ではなく青白い金属に覆われている。
 その全体は見えないけれど背中には鳥のような黄金の翼が生えているようだ。
 そして甘さのある美しい顔立ちのその眼はーーー
 

「メデューサだ! 目を見るな!」


 リュシオンが警戒の声を上げて慌てて視線を外した。
 危ないところだった。
 一足遅かった騎士全員が石化してしまっていた。
 
 メデューサ。
 それは髪が蛇で目を見ると石化してしまう魔物。
 波打っているように見えた髪は蛇だったのだろう。

 …人が魔物になった。
 衝撃的な光景だった。
 可能性としてはあり得た話だ。
 魔族は人が瘴気の影響でなったんじゃないか、なんて仮説も話し合った。
 自ら瘴気入りの昌石を取り込んだ目の前の本人は、人間を捨ててまで魔物になった。
 そこまでして叶えたい願いが勇者と聖女の抹殺で、世界の滅亡なのかと思うとやるせなかった。


「リンカ! 辛いだろうけど戦おう」

「…いけるか? 無理なようならさがっていろ」


 ウィルと、リュシオンが声を掛けてくる。
 そうだ戦わないとやられてしまう。
 まだ動揺していたけれど気持ちを切り替えて目の前の相手を考えた。

 RPGゲームでは石化防止のアイテムを飲んだり身に付けたりしていたけれどこの世界にはそういうものはなかった。
 状態防止の魔法はあるけれどそれは神官の魔法でこの中にはいない。
 わたしの神聖魔法はかかった後に解除はできるけど予防はできない。
 つまり石化は予防はできないけど、もしそうなったらわたしが解除できる。
 わたしさえ石化しなければ全滅はしない。
 ただ目を視界に入れずに倒すのは相当難しいはずだからどうしたものか。
 神話だと盾に映った敵の姿で居場所を把握して倒したとかだったかな。
 でも残ったメンバーは誰も盾をもっていない。
 アニメやラノベなんかだとどうやって倒したっけ……思い出せない。
 でもとりあえずは騎士たちの石化を解除しておこう。


「ホーリー…」


 唱えようとしたらメデューサが翼をはためかせこちらに急接近してきて中断させられてしまう。
 リュシオンはわたしの腰に左腕を回し、抱えて横に跳んだ。
 でもメデューサは方向転換してこちらを追いかけてきた。
 もしかしてワイバーンの時のようにわたしを標的にしている?
 それを背後からウィルが攻勢をかけようとするもののメデューサは背後を振り向いたため彼は慌てて顔を背ける。
 その奥の方では距離を取ったところでフェルが何か魔法を唱えている。


 メデューサの意識がウィルに向いたそのタイミングでリュシオンから魔力の流れを感じた。
 そして間髪入れず無詠唱で魔法を放った。
 前触れなく現れた巨大な柱のような氷は5本。
 その全てがメデューサに直撃した。
 無詠唱で魔法を使うことは不可能、歴史上誰もできていないと聖女講座で教わった。
 なのにいまそれをやってのけた男は涼しい顔で平然としている。なんてことないように。
 格が違う。
 邪神を自らの体に封印したと聞いて人間にできるのかとちょっと疑問に思っていた。
 なんてことはない。
 彼は魔法にとんでもなく長けた天才なのだろう。
 この魔法の才能、ある意味で魔王と呼ばれるにふさわしい。

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