魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃

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第二部

シャルロッテ王女の治癒②

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「あー、あー、俺が悪かった。頼むからもうこれ以上お客人たちからの兄の評価が落ちるような過去の話を蒸し返さないでくれ」
「あら、ご自分の行動が問題があることは気づいていらっしゃっるのね?」
「その時は最高の決断だと思っているんだぞ? 本当に良いものは早い者勝ちだしな」
「いつもの冷静なおつむでちゃんとお考えになってくださいましね? っごほっごほっ」
「! ほら、安静にしていろ。熱がまた上がったんじゃないか?」


とてもしっかりしているお姫様のようで、子どものような言われように王子はがっくりと肩を落とした。
軽快なやりとりに仲の良さが伝わってくる。
しかし長く話して体力を使ったのか咳をしたあと息を乱している。やはり体調は良くないのがみてとれる。
そして一目見た時からその体に関することでわたしは動揺していた。挨拶が辿々しくなってしまったのもそれが原因の一つでもある。それはーー


"どうしたリンカ"


わたしの様子の変化に魔王が気付いたようで念話で話しかけてきた。


"うん、その… 王女の体調が悪いの原因がわからないって話だったでしょう?"
"医師や薬師ではわからないため病気でも毒でもないだろうと言うことだったな。わかったのか? お前がわかったと言うことは、つまりーーー"
"うん、この王女様の中に、瘴気が見える"


それは黒いもやのようにして体の内側全身に広がっている。その濃さは魔王支配領域内の空気中のよう。当然人の体の中にあっていい濃さではない。


"魔物化してないのがおかしいくらい濃いよ"
"体質的に瘴気に耐性が高いのかもしれんが、肉体的にもだが精神的にも耐性が高いのだろう。よく正気を保っていられたものだ"
"…助けたい"


シャルロッテ王女を瘴気の苦しみから解放したい。
わたしの聖女の力を使って浄化すればきっと体調が良くなるはずだ。けれど聖女であることは気づかれてしまうだろう。そうすればおそらくは邪神信仰者が目の色を変えて命を狙って来るだろうし、テオドール王子を始めオーランド王国の人や聖教会関係者も自分たちの陣営に取り込もうと動くだろう。それは怖い。
けれど苦しんでいる女の子を助けたい。


"リンカ。お前の望むままにするといい"


呼ばれて見上げれば、アメジスト色の瞳が見ていた。


"例え聖女だと知られてもお前のことは必ず守る。俺を誰だと思っている?"
"魔王様…"
"そうだ、その魔王様がついているんだ。どうとでもできる。俺を信じろ"
"…うん"


「では、僕の出番だね」


ヴラドが小声でこちらにウインクしながら親指を立てて見ていた。魔王一派は全員やりとりを聞いていたようで笑顔のガエルも無表情のゲーデもこちらに視線を向けていた。


「申し訳ありませんが、うちのリンカに王女さまのお手を握らせて頂いてもよろしいですか? 彼女は触った相手の体の悪いところを透視できる力を持っているのです」
「なんだと!? そんな便利な力があるなら早く言ってくれ! さあ、ここに座ってすぐに視てくれ」


ヴラドが嘘のわたしの力を説明すると早く早くと急かされテオドール王子が座っていた椅子に座らされた。王女は期待と不安がないまぜになった瞳を向けてくる。けれど弱々しい力で手を伸ばしてきた。希望にすがるかのように。
嘘をついている少しの罪悪感と共に王女の手を握り力を使った。


"ホーリーヒール"


王女の体が淡く光り、みるみる体内の瘴気が浄化されていく。


「これ、は…?」
「え…?」


テオドール王子もシャルロッテ王女も想像だにしなかった光景に驚きの声を上げた。
そして少しの時間をかけて、シャルロッテ王女の体内の瘴気は完全に消し去ることができた。光は収まり、目を丸くしている二人に向け告げた。


「…終わりました」
「な、なにがだ…?」
「か、体が軽いわ…」
「え…?」
「熱くもないわ、苦しくも、全身の焼け付くような痛みもないわ… わ、わたし、わたし…っ」
「シャルっ」


シャルロッテ王女の瞳から涙がはらりはらりと溢れた。テオドール王子はたまらず寝台に横たわる王女に駆け寄ると、泣きじゃくる王女を抱きしめて泣き止むまでその頭と背中を撫でていた。
わたしはそれを「良かった」と思いながら眺めた。
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