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第二部
追う者たち①
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「おかしいな。公爵に追いつかない」
螺旋階段を一つ下まで降り、二つ目の塔に入りしばらくしてテオドール王子が怪訝そうに口にした。
それはわたしも気になっていた。わたしたちより少しだけ早くシャルロッテ王女と拉致犯を追ったはずのメトセラール公爵に追いつかない。ガエルの魔獣たちに乗せてもらっているぶんかなり猛スピードで追えているはずなのに。
「メトセラール公爵独自のルートがあるのでは? 拉致犯の元に転移で飛んだとか」
「む、こちらの味方だと国王は言っていたではないか?」
「拉致犯はそうとは知らないのでは? 共犯者だと公爵が騙し通していたなら転移先に指定できるような品を互いに持っているのかもしれません」
「なるほど」
「いや、転移の術はこの通路では使えないはずだ。女神の領域だから女神の許可した手順と人物でないと地下神殿に行けないように作られていると聞いた」
セキュリティとしてそれは大事だろう。転移で容易に行き来できてはわざわざ順路を作った意味がない。
「残念! 転移が使えれば王子は地下神殿に行ったことがあるのだからすぐに駆けつけられたというのにな!」
「本当にな。しかし転移できないのになぜ公爵に追いつけないのか…」
「公爵も魔獣に乗っていたりしてな!」
「はは、さすがにそれは…ないとも言いきれないが。俺は公爵のことがちっとも分かっていないからな」
話しているうちに王子の声のトーンが下がり、落ち込んでいるのかもしれないと心当たりを尋ねてみた。
「それは…国王陛下のお言葉のことを気にしているんですか?」
「ああ、想定外で割とやられているらしい。頭の中をあれからずっとぐるぐるまわっている。味方だなんて、思ってもいなかった。俺はあの人を表面だけで判断して勝手に敵認定していたんだな。とんだ愚か者さ」
「テオドール王子…」
敵と思い込んでいたけれど、でもそれはあえてそういう態度を取ったのだろうと国王は言っていた。なら王子がそう思うような行動をしたのは公爵の思い遣りであり、公爵が望んだことだ。まだ力がなかった王子を危険から守るためにしたこと。
それを気に病む彼にできることは…
「殿下は悪くありません」
「え?」
「殿下を守るためと、自分を敵と思わせようと公爵が振る舞ったのがそもそも原因です。だから、もう守る必要がない強い存在なのだと、拉致犯たちを捕まえ、成長した姿を見せつけて公爵にわからせましょう。守られるだけの子どもではもうないのだと」
「わからす…」
「そして、膝を突き合わせて、腹を割って話をするといいと、そう思います」
「…そうだな。ああ、俺を守らないといけない子ども扱いをしたことを反省させよう。よし、この件が片付いたら公爵を自室に呼び寄せきっちりわからせるとしよう」
吹っ切れたようで笑顔が溢れた。気持ちを持ち直してくれたようでほっとした。
「では、公爵に興味深々な殿下に、僕が身を粉にして得たメトセラール公爵の秘密に包まれた姿を披露しましょう」
「なにを働いたかのように言っているのだ?」
「貴様は見境なく侍らせただけだろう」
「いえいえ、相手は選んで王族居住区の重要なことを知っていそうな使用人だけにしましたよ!」
あの庭のテーブルセットでは選ばれた上級使用人がヴラドに侍るハーレムを作ったようだ。年嵩だった人は国王あたりに長く仕えるような重鎮だろうか。
「待ってくれ、オーランド王家のデリケートな個人情報をどれだけ握った?」
「まあ、お父上からお母上への愛のお手紙の内容ですとか程度です」
「忘れてくれ。両親を尊敬しているがそういった話は聞きたくない! しかしそんなことまで知っているのは父の古参の信を置いているものだろう。誰が教えたんだ!? 侍従長か? 従者か? 侍女か?」
螺旋階段を一つ下まで降り、二つ目の塔に入りしばらくしてテオドール王子が怪訝そうに口にした。
それはわたしも気になっていた。わたしたちより少しだけ早くシャルロッテ王女と拉致犯を追ったはずのメトセラール公爵に追いつかない。ガエルの魔獣たちに乗せてもらっているぶんかなり猛スピードで追えているはずなのに。
「メトセラール公爵独自のルートがあるのでは? 拉致犯の元に転移で飛んだとか」
「む、こちらの味方だと国王は言っていたではないか?」
「拉致犯はそうとは知らないのでは? 共犯者だと公爵が騙し通していたなら転移先に指定できるような品を互いに持っているのかもしれません」
「なるほど」
「いや、転移の術はこの通路では使えないはずだ。女神の領域だから女神の許可した手順と人物でないと地下神殿に行けないように作られていると聞いた」
セキュリティとしてそれは大事だろう。転移で容易に行き来できてはわざわざ順路を作った意味がない。
「残念! 転移が使えれば王子は地下神殿に行ったことがあるのだからすぐに駆けつけられたというのにな!」
「本当にな。しかし転移できないのになぜ公爵に追いつけないのか…」
「公爵も魔獣に乗っていたりしてな!」
「はは、さすがにそれは…ないとも言いきれないが。俺は公爵のことがちっとも分かっていないからな」
話しているうちに王子の声のトーンが下がり、落ち込んでいるのかもしれないと心当たりを尋ねてみた。
「それは…国王陛下のお言葉のことを気にしているんですか?」
「ああ、想定外で割とやられているらしい。頭の中をあれからずっとぐるぐるまわっている。味方だなんて、思ってもいなかった。俺はあの人を表面だけで判断して勝手に敵認定していたんだな。とんだ愚か者さ」
「テオドール王子…」
敵と思い込んでいたけれど、でもそれはあえてそういう態度を取ったのだろうと国王は言っていた。なら王子がそう思うような行動をしたのは公爵の思い遣りであり、公爵が望んだことだ。まだ力がなかった王子を危険から守るためにしたこと。
それを気に病む彼にできることは…
「殿下は悪くありません」
「え?」
「殿下を守るためと、自分を敵と思わせようと公爵が振る舞ったのがそもそも原因です。だから、もう守る必要がない強い存在なのだと、拉致犯たちを捕まえ、成長した姿を見せつけて公爵にわからせましょう。守られるだけの子どもではもうないのだと」
「わからす…」
「そして、膝を突き合わせて、腹を割って話をするといいと、そう思います」
「…そうだな。ああ、俺を守らないといけない子ども扱いをしたことを反省させよう。よし、この件が片付いたら公爵を自室に呼び寄せきっちりわからせるとしよう」
吹っ切れたようで笑顔が溢れた。気持ちを持ち直してくれたようでほっとした。
「では、公爵に興味深々な殿下に、僕が身を粉にして得たメトセラール公爵の秘密に包まれた姿を披露しましょう」
「なにを働いたかのように言っているのだ?」
「貴様は見境なく侍らせただけだろう」
「いえいえ、相手は選んで王族居住区の重要なことを知っていそうな使用人だけにしましたよ!」
あの庭のテーブルセットでは選ばれた上級使用人がヴラドに侍るハーレムを作ったようだ。年嵩だった人は国王あたりに長く仕えるような重鎮だろうか。
「待ってくれ、オーランド王家のデリケートな個人情報をどれだけ握った?」
「まあ、お父上からお母上への愛のお手紙の内容ですとか程度です」
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