魔王城での聖女生活～異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます～

第二部

瘴気を絶つ①

イェフは瘴気を吸収してダメージを超回復している。そのためいくら攻撃をくわえてものれんに腕押し。ただし瘴気の供給元の地脈を浄化すれば彼は無敵ではなくなる。でも地脈はどこまでも続いているように見える。浄化し切れるとはとうてい思えない。


「地脈にある瘴気をイ…神子は取り込んで回復しているようです。だから地脈を浄化すれば神子を止められると思います」
「地脈か。古い文献で見たことがある。大陸全土に張り巡らせていて繋がっているそうじゃないか。それはリンカ嬢の身が持たないだろう」
「はい、規模が大きすぎます。一気に浄化するのはわたしには手に余ります。でも、この辺り一帯だけでも浄化できれば神子の回復を一時的に阻止できると思います」
「ええ、それならば貴女への負担はずっと少なくて済むと思うわ。やってみましょう」
「はい！」


わたしは祈るように両手を組み、目をつぶって地脈にある瘴気に集中した。川のようなそこにわたしの魔力を注ぎ込み辺りに浸透させ願いをのせた。
初めて術を唱えなかった。したいことに合う術をわたしは知らなかったから。だからこれはわたしが自分で考えた力の使い方。


「…瘴気よ去って」


願いをのせて魔力を解放した。地脈が光って視界が眩しい。いままで使ってきたどの術よりも眩しく感じた。うまく魔力を使えた感触がした。かくして、光が収まった地脈は願い通り瘴気が消えていた。


「うまくいった…！」
「やったなリンカ嬢！」


わたしが成功を喜ぶとテオドール王子も喜び片手を上げた。意図が分からなくてなんだろうとじっと見つめると遅れて気づき、わたしも片手を上げて彼とハイタッチした。ぱんっといい音がした。


「あーあ、お姉さんに対策されちゃった」


話しかけられてどきりとした。
イェフは困った顔をしていた。一帯の地脈の瘴気を浄化されたことに気づいたようだ。肩をすくめやれやれといった風情だ。


「お姉さんは瘴気見えるし消せるもんね。そりゃあ仲間のために僕の回復を阻止しようとするよね。残念だけど僕はお姉さんに仲間扱いしてもらえてないからね」


ひとりうんうんと頷き慌てる様子はない。回復手段を一時的とはいえ奪われたというのに不安はないのだろうか。


「でもお姉さんががんばったところ悪いけれど、僕もやられるわけにいかないから対抗するよ」


そう言い、彼は指先をついっとスマホの画面をいじるように動かす。変化はすぐにわかった。浄化した辺り一帯の地脈に繋がっている付近の地脈から瘴気が流れ込んできた。そして数秒のうちに元の瘴気にまみれた地脈に戻されてしまった。これでは何度同じことをしても意味がない。


「瘴気を僕は意のままに動かせるんだ。だから何度やっても瘴気をよそから持ってくるだけで元通りさ。ごめんね」


にこにこしながら優しく諭すように言うイェフに、手のひらの上で転がされているオモチャのように自分を感じた。


「ほう、ならば対策法はやりようによっては有効だな」


ずっと静観していた魔王の発言にみんなの視線が向いた。