雑用係の旅は続く

中田カナ

文字の大きさ
4 / 9

第4話 休息

 勇者様はこのパーティのまとめ役として皆のことをよく見ている。

 聖女様が各地の聖堂での祈りや癒しの活動がしやすいよう配慮しているし、賢者様が移動中に気になる植物を見つければ時間も取った。
 魔術師様は無口だけれど、何か主張したいことがある時は勇者様が一番早く気付く。


 そして一番下っ端の私のこともちゃんと見ていてくれていた。
 いつものように朝食の呼びかけをするとみんなが集まってくる。

「どうした?顔色がよくないみたいだな」
 勇者様が私の顔を見るなりそう言った。

「へっ?そうですか?」
 目が覚めた時点でちょっとだるいかな~とは思ってたけど、朝食の準備で動きまわってたらすっかり忘れていた。

 剣を握る人らしいごつごつした勇者様の手が私の額に触れる。
 あ、ひんやりしてちょっと気持ちいいかも。

「少し熱があるようだな」
 顔をしかめた勇者様がすぐに聖女様を呼び、癒しの魔法をかけられる。

「疲れがたまっているようですわね」
 実は今まで聖女様の癒しをずっと辞退していた。
 私はあくまで雑用係なので、聖女様の力を無駄に使わせたくなかったからだ。

「よし、今日は移動しないことにする。だからお前はしっかりと休め」
 昨日のうちに用意しておいた昼食のバスケットを聖女様に預けると、勇者様にテントへと押し込まれた。
 聖女様の癒しの魔法でもう楽になった気がするけど、のそのそと寝袋にもぐる。


「おい、入るぞ」
 勇者様が私のテントに入ってくる。
 今日は天気もよいのでテントの出入り口は開けっ放しにしている。

「申し訳ありません。私のせいで予定を変更させてしまって」
「気にするな。むしろかなり早いペースで来たから、このあたりで一休みするもいいだろう。賢者は植物採取に出かけ、聖女は近くの滝で瞑想するそうだ。魔術師の奴は釣り竿を持って川へ行ったぞ。今日の夕食は川魚だな」
 魔術師様は釣り好きで、魚を捌くのは私より上手いくらいだ。

「これからはお前にも毎日聖女に癒しの魔法をかけてもらうからな」
 そう言いながらあぐらをかいて座る勇者様。
 枕元に飲み水を置いてくれた。

「あの、でも、私なんかにもったいないです」
「お前だってこのパーティの一員だ。お前がいろいろやってくれるおかげで俺達は自分のやるべきことに集中できる。それにお前の料理はどこの店よりも美味い。あれが食えなくなるのは困るからな」
 頭をなでてくれる。

「…ありがとうございます」
「さて、少し休むといい。聖女の癒しで一眠りすればもう回復しているはずだ」

「あ、あの!」
 立ち上がろうとする勇者様を思わず呼び止める。

「どうした?」
「…申し訳ありません。やっぱりいいです」
 子供みたいなことを言おうとしてしまっていて、ちょっと恥ずかしくなる。

「言いたいことがあれば遠慮せず言えといっただろう?ほら、言ってみろ」
 勇者様は怒ってはいないみたいだ。
 ダメでもともと、正直に言ってしまおう。

「あの、もしよければもうしばらくここにいてくださいませんか?人の気配がある方がなんだか安心できるんです」
 孤児院の大部屋暮らしが長かったせいか、誰かの気配がある方が落ち着くのだ。
 そんなことを思ってしまうのは、やはりちょっと気が弱っているのかもしれない。

「なんだ、そんなことか。わかった、眠るまでいてやるから安心しろ」
 座りなおして微笑む勇者様。


 引き止めてしまったから、何か話さなければ。
「あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。私、普段は風邪もひかないくらい丈夫なんですけど、新しい環境に慣れてきた頃にいつも熱を出しちゃうんですよね。気が緩んじゃうんでしょうか?」

 勇者様がそっと頭をなでてくれる。
「そうか。だったら、この旅暮らしに慣れた証拠と思えば悪くはないかもな」


 勇者様はご自分のことを話してくれた。
 伯爵家の三男として生まれたけれど、剣術も魔法も2人の兄より能力が上で、成長するにつれてギクシャクするようになり、しまいには家を飛び出したとのこと。

「俺は兄上達のことが好きだし、兄上達が俺を好きなのもよくわかってる。だが、人の気持ちというのは単純にはいかないものでな…」
 私には兄弟はいないけれど、孤児院でも冒険者の活動でも人間関係でうまくいかないのをいろいろと見てきた。

「いつか…みんな仲良くなれるといいですね…」

 頭をなでてくれる勇者様の手の温かさでいつの間にか眠りに落ちていた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。