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05:解呪の挑戦
「まず一緒にいるそっちの旦那、あんたの呪いはもうすぐ解けるだろうよ。すでにかなり薄くなっている。だが呪いを解く鍵を見つける必要があるね。うまく解ければ呪った者に倍で返るだろうさ」
老婆の口調はやけに楽しげだ。
「…やはり本当に呪いだったのか?」
呆然としつつも旦那様が尋ねる。
「ああ、知らなかったのかい。残念ながら鍵が何なのか私にもわからんけどね。最初の頃は強固な呪いだったようだが、そっちの嬢ちゃんのおかげで少しずつ剥がれたんだろうね」
「え、私?」
うなずく老婆。
「嬢ちゃんには聖魔法と治癒魔法の資質がある。だが、残念ながらどちらも弱い。誰かいい師がいれば能力を伸ばせるかもしれんね」
そう言い終えた老婆が首をかしげる。
「それから、人の目になれるってのは長年生きてるあたしでも初めてだからよくわからないんだよ。聖魔法と治癒魔法の合わせ技なのかもしれんねぇ」
話を聞いて考えたことを尋ねてみる。
「あの、もしかして毎日旦那様の目として触れていたから呪いが薄くなった、ということなのでしょうか?」
「そうだね、聖魔法の力だ。治癒魔法も同じだよ。時間をかければ嬢ちゃんでも治せるものがあるだろうね」
ご先祖様である聖女は患者に触れることもなく一瞬で治したと伝えられるが、私にそこまでの力はないらしい。
しばらく侯爵領で過ごした後、私達は王都へ戻ってきた。
いつもの日常に戻ったある日の夜、旦那様に声をかけられた。
「夕食後に少々酒を飲みたいので、すまないが付き合って欲しい」
「かしこまりました」
侯爵領で自分用に果実酒を買い込んでいたのを知られてしまったので、酒好きとして誘われたようだ。
談話室へ行ってみるとテーブルの上にはすでにいろんなお酒が並んでいる。
「あの、お高いのばっかりですよね」
ラベルの名前を見ればわかる。
「自分で買ったものはほとんどなくて、もらい物ばかりだがな」
旦那様の目となるため肩に触れると迷わずお酒の瓶を手に取った。
「目を悪くしてから飲もうという気も起きずにいたが、少しは希望が出てきて気も楽になったら久しぶりに飲みたくなった。さて今日は無礼講だ。敬語も要らんぞ」
「「 乾杯!! 」」
なんともいえない香りがのどをスーッと通り過ぎていく。
「初めてこんな美味しいのを飲みました!」
「ああ、これは陛下からいただいたものだな。結構いけるだろう?」
よく見れば王室の紋章のラベルがついている。
ヤバい、これ1杯だけでもとんでもないお値段のはず。
でもまぁ、今日はお値段のことは何も考えないことにしよう。
普段の出来事や侯爵領でのあれこれを飲みながら話す。
「老婆の言っていた呪いの鍵というのはいったい何なのだろうな?」
だいぶいい気分になっていた私は思いついたことをそのまま口にする。
「ほら、物語では呪いで深い眠りに落ちたお姫様って王子様のキスで目覚めますよね。もしかしてそれじゃないですかぁ?」
「ちょっと待て。それでは私が姫だということにならないか?」
「あはは!そうかも」
あれ、私だいぶ酔っているかも。
「だが一理あるかもしれんな。試してみるか?」
グラスを持ったまま問いかけてくる旦那様。
「え、誰とですか?」
「君しかいないだろう?言い出した者として責任を取るべきでは?」
旦那様はいたって真面目な表情だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。どなたかそういう女性はいらっしゃらないんですか?」
確かに言い出したのは私だけど。
「君もこの屋敷で働いているのだから、私に親しい女性がいないことくらいわかっているだろう?」
「はぁ」
女性の影も形もないことはよくわかっている。
「それに誰でもいいわけじゃない。君だから試したいんだ」
「…どうして私なんですか?」
「偶然とはいえ、不思議な現象が発覚して私の目になってくれたことには大変感謝している」
旦那様は持っていたグラスをテーブルの上に置いた。
「そして常に一緒にいることで、人となりもよくわかった。君は人を思いやる気持ちを持った優しい女性だ。いつか目が元通りになっても君を手放したくない、そう思った」
そんな風に思っていてくださったなんて知らなかった。
「…でも私は一番下っ端のメイドで、旦那様は我が国の英雄と呼ばれる将軍で、立場が違いすぎて釣り合わないと思います」
「釣り合いなぞどうでもいい。私は他人の思惑より自分自身がよいと思ったものを選ぶ。私の人生だからな。それで君は私のことをどう思っている?」
酔っているので、たいして考えもせず思ったままを口に出す。
「旦那様こそ人を思いやる気持ちを持った方だと思いますよ。それに見た目は怖そうだけど本当はすごく優しいですよね。お屋敷の使用人の方々だってみんな旦那様に敬意を持って働いてます。居心地のいい職場って雇い主次第ですもんね」
「君は怖い顔は苦手か?」
「全然平気ですよぉ。うちの父や兄と似たタイプですから」
うちは男爵家だけど農業や林業もやっていて現場にも出ている。
軍人の旦那様とはちょっと違うけど、ごついタイプが多いのだ。
「それでは雇い主ではなく1人の男性としてどう思う?」
「ん~、とっても素敵だと思いますよぉ。頼りがいがありますもんね」
このところずっと一緒だったから、人となりも知っている。
裏表もなく、子供にも下っ端メイドの私にさえも気遣いを忘れない人なのだ。
「好意を抱いてくれているのなら、さっきの件を試してみないか?」
「えっと、何でしたっけ?」
首をかしげる。
「キスで呪いを解く件だ」
あ、そうだった。
「あのぉ、まずはほっぺからでいかがでしょうかね?」
「物語では違うのではなかったか?」
旦那様の声に若干凄みが増したような。
「それはそうなんですけど、いきなりは難易度が高いかなと思いまして~」
「わかった、まずはそれでいい」
交渉は成立したようだ。
「旦那様、ちょっと立っていただけますか?」
座ったままでは位置が難しそうなので、旦那様の手を取って立たせる。
「もっと屈んでください…もうちょっと。あ、そこでいいです」
中途半端な体勢で申し訳ないが、身長差があるのでしかたがない。
「君の背の高さはこんな感じなのか?」
「はい、そうです。あ、目を閉じてください」
「目を開いていても私には何も見えてはいないが?」
それはそうなんだけど。
「わかってますけど見つめられてるようでやりづらいので、お願いですから閉じてください!」
「…承知した」
旦那様に命令しちゃったけど、無礼講だからいいよね?
老婆の口調はやけに楽しげだ。
「…やはり本当に呪いだったのか?」
呆然としつつも旦那様が尋ねる。
「ああ、知らなかったのかい。残念ながら鍵が何なのか私にもわからんけどね。最初の頃は強固な呪いだったようだが、そっちの嬢ちゃんのおかげで少しずつ剥がれたんだろうね」
「え、私?」
うなずく老婆。
「嬢ちゃんには聖魔法と治癒魔法の資質がある。だが、残念ながらどちらも弱い。誰かいい師がいれば能力を伸ばせるかもしれんね」
そう言い終えた老婆が首をかしげる。
「それから、人の目になれるってのは長年生きてるあたしでも初めてだからよくわからないんだよ。聖魔法と治癒魔法の合わせ技なのかもしれんねぇ」
話を聞いて考えたことを尋ねてみる。
「あの、もしかして毎日旦那様の目として触れていたから呪いが薄くなった、ということなのでしょうか?」
「そうだね、聖魔法の力だ。治癒魔法も同じだよ。時間をかければ嬢ちゃんでも治せるものがあるだろうね」
ご先祖様である聖女は患者に触れることもなく一瞬で治したと伝えられるが、私にそこまでの力はないらしい。
しばらく侯爵領で過ごした後、私達は王都へ戻ってきた。
いつもの日常に戻ったある日の夜、旦那様に声をかけられた。
「夕食後に少々酒を飲みたいので、すまないが付き合って欲しい」
「かしこまりました」
侯爵領で自分用に果実酒を買い込んでいたのを知られてしまったので、酒好きとして誘われたようだ。
談話室へ行ってみるとテーブルの上にはすでにいろんなお酒が並んでいる。
「あの、お高いのばっかりですよね」
ラベルの名前を見ればわかる。
「自分で買ったものはほとんどなくて、もらい物ばかりだがな」
旦那様の目となるため肩に触れると迷わずお酒の瓶を手に取った。
「目を悪くしてから飲もうという気も起きずにいたが、少しは希望が出てきて気も楽になったら久しぶりに飲みたくなった。さて今日は無礼講だ。敬語も要らんぞ」
「「 乾杯!! 」」
なんともいえない香りがのどをスーッと通り過ぎていく。
「初めてこんな美味しいのを飲みました!」
「ああ、これは陛下からいただいたものだな。結構いけるだろう?」
よく見れば王室の紋章のラベルがついている。
ヤバい、これ1杯だけでもとんでもないお値段のはず。
でもまぁ、今日はお値段のことは何も考えないことにしよう。
普段の出来事や侯爵領でのあれこれを飲みながら話す。
「老婆の言っていた呪いの鍵というのはいったい何なのだろうな?」
だいぶいい気分になっていた私は思いついたことをそのまま口にする。
「ほら、物語では呪いで深い眠りに落ちたお姫様って王子様のキスで目覚めますよね。もしかしてそれじゃないですかぁ?」
「ちょっと待て。それでは私が姫だということにならないか?」
「あはは!そうかも」
あれ、私だいぶ酔っているかも。
「だが一理あるかもしれんな。試してみるか?」
グラスを持ったまま問いかけてくる旦那様。
「え、誰とですか?」
「君しかいないだろう?言い出した者として責任を取るべきでは?」
旦那様はいたって真面目な表情だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。どなたかそういう女性はいらっしゃらないんですか?」
確かに言い出したのは私だけど。
「君もこの屋敷で働いているのだから、私に親しい女性がいないことくらいわかっているだろう?」
「はぁ」
女性の影も形もないことはよくわかっている。
「それに誰でもいいわけじゃない。君だから試したいんだ」
「…どうして私なんですか?」
「偶然とはいえ、不思議な現象が発覚して私の目になってくれたことには大変感謝している」
旦那様は持っていたグラスをテーブルの上に置いた。
「そして常に一緒にいることで、人となりもよくわかった。君は人を思いやる気持ちを持った優しい女性だ。いつか目が元通りになっても君を手放したくない、そう思った」
そんな風に思っていてくださったなんて知らなかった。
「…でも私は一番下っ端のメイドで、旦那様は我が国の英雄と呼ばれる将軍で、立場が違いすぎて釣り合わないと思います」
「釣り合いなぞどうでもいい。私は他人の思惑より自分自身がよいと思ったものを選ぶ。私の人生だからな。それで君は私のことをどう思っている?」
酔っているので、たいして考えもせず思ったままを口に出す。
「旦那様こそ人を思いやる気持ちを持った方だと思いますよ。それに見た目は怖そうだけど本当はすごく優しいですよね。お屋敷の使用人の方々だってみんな旦那様に敬意を持って働いてます。居心地のいい職場って雇い主次第ですもんね」
「君は怖い顔は苦手か?」
「全然平気ですよぉ。うちの父や兄と似たタイプですから」
うちは男爵家だけど農業や林業もやっていて現場にも出ている。
軍人の旦那様とはちょっと違うけど、ごついタイプが多いのだ。
「それでは雇い主ではなく1人の男性としてどう思う?」
「ん~、とっても素敵だと思いますよぉ。頼りがいがありますもんね」
このところずっと一緒だったから、人となりも知っている。
裏表もなく、子供にも下っ端メイドの私にさえも気遣いを忘れない人なのだ。
「好意を抱いてくれているのなら、さっきの件を試してみないか?」
「えっと、何でしたっけ?」
首をかしげる。
「キスで呪いを解く件だ」
あ、そうだった。
「あのぉ、まずはほっぺからでいかがでしょうかね?」
「物語では違うのではなかったか?」
旦那様の声に若干凄みが増したような。
「それはそうなんですけど、いきなりは難易度が高いかなと思いまして~」
「わかった、まずはそれでいい」
交渉は成立したようだ。
「旦那様、ちょっと立っていただけますか?」
座ったままでは位置が難しそうなので、旦那様の手を取って立たせる。
「もっと屈んでください…もうちょっと。あ、そこでいいです」
中途半端な体勢で申し訳ないが、身長差があるのでしかたがない。
「君の背の高さはこんな感じなのか?」
「はい、そうです。あ、目を閉じてください」
「目を開いていても私には何も見えてはいないが?」
それはそうなんだけど。
「わかってますけど見つめられてるようでやりづらいので、お願いですから閉じてください!」
「…承知した」
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