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第2話 私の職場
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「おや、もうこんな時間でしたか。そろそろ一休みしましょうか」
「はい」
王宮の計算室にいるのは私と計算室長の2人だけ。
室長はうちの父よりずっと年上の男性だ。細身で背が高く、長い銀髪を後ろで束ねて銀縁の眼鏡をかけている。そして私と同じ計算の加護持ちでもある。
部屋の片隅にあるミニキッチンを使ってお茶を淹れ、温めたスコーンとともにテーブルに並べる。スコーンは室長の奥様が焼いたものだ。
「貴女のご実家のジャムは本当に美味しいですねぇ」
「ありがとうございます。実家から届いたら、また持ってまいりますね」
「ああ、でも無理はなさらなくてもよろしいですからね」
少し心配そうな表情になる室長。
「いえいえ、いつもたくさん送ってくるので、消費を手伝っていただけて大変助かっております」
私が笑いながら答えると室長に笑顔が戻る。
「私の妻も貴女のご実家のジャムを持ち帰るとたいそう喜んでおりますよ」
「それはとても嬉しいです。実家の母や姉にも伝えておきますね」
コンコンコン。
「失礼します…ああ、申し訳ありません。お茶の時間でしたか」
「おやおや、何をおっしゃいますやら。殿下はこの時間を狙って来られたのでしょう?」
室長が苦笑いしながら迎え入れたのは第三王子殿下。
殿下がまだ幼い頃、室長が教育係を務めていた時期があるそうで、時折こうして計算室を訪れるのだ。
「ようこそ、殿下。ただいまお茶をお出しいたしますね」
私は立ち上がってミニキッチンの方へ向かう。
「ああ、いつも手間をかけさせてしまって本当に申し訳ありません」
すまなそうな表情になる殿下。
「いえいえ、お気になさらず」
最初の頃は、私なんかが殿下にお茶をお出しして本当にいいの?とか思ったけれど、殿下ご本人と室長から「気にしなくていい」と言われ、たびたび訪れるのでもうすっかり慣れてしまった。
「どうぞお召し上がりください」
お茶とスコーンとジャムをテーブルに並べる。
お茶を一口飲んでからスコーンにたっぷりジャムをつけて召し上がる殿下。
「貴女が淹れるお茶、そして貴女のご実家のジャムは本当に美味しいですね。疲れも吹き飛びますよ」
普段の凛々しい表情もこの時ばかりは少し緩む。
いつも美味しそうに食べてくださるので、こちらとしても嬉しくなる。
「お褒めいただき光栄ではございますが、これも室長の奥様のスコーンあってのことですわ」
「ああ、そうだな。計算室長、奥方へ礼を伝えておいてくれるか?」
「かしこまりました」
殿下に頭を下げる室長。
そういえば、実家への手紙に第三王子殿下もうちのジャムを喜んで召し上がっていると綴ったら、家族全員ものすごく驚いたらしい。
「ああ、美味しかった。ありがとう。まだ仕事が山積みなんだが、なんとかがんばれそうだ」
にこやかに殿下は去っていった。
「はい」
王宮の計算室にいるのは私と計算室長の2人だけ。
室長はうちの父よりずっと年上の男性だ。細身で背が高く、長い銀髪を後ろで束ねて銀縁の眼鏡をかけている。そして私と同じ計算の加護持ちでもある。
部屋の片隅にあるミニキッチンを使ってお茶を淹れ、温めたスコーンとともにテーブルに並べる。スコーンは室長の奥様が焼いたものだ。
「貴女のご実家のジャムは本当に美味しいですねぇ」
「ありがとうございます。実家から届いたら、また持ってまいりますね」
「ああ、でも無理はなさらなくてもよろしいですからね」
少し心配そうな表情になる室長。
「いえいえ、いつもたくさん送ってくるので、消費を手伝っていただけて大変助かっております」
私が笑いながら答えると室長に笑顔が戻る。
「私の妻も貴女のご実家のジャムを持ち帰るとたいそう喜んでおりますよ」
「それはとても嬉しいです。実家の母や姉にも伝えておきますね」
コンコンコン。
「失礼します…ああ、申し訳ありません。お茶の時間でしたか」
「おやおや、何をおっしゃいますやら。殿下はこの時間を狙って来られたのでしょう?」
室長が苦笑いしながら迎え入れたのは第三王子殿下。
殿下がまだ幼い頃、室長が教育係を務めていた時期があるそうで、時折こうして計算室を訪れるのだ。
「ようこそ、殿下。ただいまお茶をお出しいたしますね」
私は立ち上がってミニキッチンの方へ向かう。
「ああ、いつも手間をかけさせてしまって本当に申し訳ありません」
すまなそうな表情になる殿下。
「いえいえ、お気になさらず」
最初の頃は、私なんかが殿下にお茶をお出しして本当にいいの?とか思ったけれど、殿下ご本人と室長から「気にしなくていい」と言われ、たびたび訪れるのでもうすっかり慣れてしまった。
「どうぞお召し上がりください」
お茶とスコーンとジャムをテーブルに並べる。
お茶を一口飲んでからスコーンにたっぷりジャムをつけて召し上がる殿下。
「貴女が淹れるお茶、そして貴女のご実家のジャムは本当に美味しいですね。疲れも吹き飛びますよ」
普段の凛々しい表情もこの時ばかりは少し緩む。
いつも美味しそうに食べてくださるので、こちらとしても嬉しくなる。
「お褒めいただき光栄ではございますが、これも室長の奥様のスコーンあってのことですわ」
「ああ、そうだな。計算室長、奥方へ礼を伝えておいてくれるか?」
「かしこまりました」
殿下に頭を下げる室長。
そういえば、実家への手紙に第三王子殿下もうちのジャムを喜んで召し上がっていると綴ったら、家族全員ものすごく驚いたらしい。
「ああ、美味しかった。ありがとう。まだ仕事が山積みなんだが、なんとかがんばれそうだ」
にこやかに殿下は去っていった。
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