地獄タクシー Ⅱ

コノミナ

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1章 生鬼

プロローグ

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テレビ局の副調整室はサブと言われ、スタジオが見える部屋でスタジオの
カメラが映している映像をモニターに映しディレクターが
指示して番組を作っていく場所である。

迷彩服の男は猿ぐつわをされ、後ろに手錠をはめられサブの脇の
階段をスタジオに向かって下りて、スタジオの真ん中に下りた瞬間、
腹が大きく膨らみその中央から真二つになり首、手、足がバラバラに
飛んでスタジオは煙とともに真っ赤に血に染まった。
そしてその周りには数人の男が倒れていた。
「浜田、浜田!!」

その時、携帯着メロ三日月で礼司は目を覚ました。
礼司は布団の中から目も開けずに携帯を取り
「はい、夜野です」
「おはようございます。夜野さん」
それは、タクシー会社の配車係の大村からの電話だった

「本日指名が入っています」
「今日?」
「はい、11時にですから1時間早く出庫お願いします」
「今日は休みじゃないか」
「何を言っているんですか。休みは昨日じゃないですか。
今日は3月20ですよ」
「あれ俺、丸1日寝たわけか」
「とにかくお願いします」
「了解」

礼司はあの事件の事を思い出した。
こっちの世界に戻ってきてもう1ヶ月経っていて、
例の青山墓地に魔美も現れず携帯電話も通じなかった。
それにも関わらず、毎晩のように見るテレビ局の爆発のシーンに
礼司は嫌な予感を感じていた。
「浜田に何かあったのか」礼司はそれが気になっていた

11時に指定の方南町の松山宅に着いた。
そこは環状七号線と方南通りの交差点から
数十メートル入った一戸建ての家だった。

呼び鈴を押すと30代前半の髪の長い美しい女性が出てきた
「おまたせいたしました」礼司はドアの所に立っていた
客の松山良子を乗せると良子は丁寧に頭を下げた。
「わざわざすみません」
「どちらまで?」
「鎌倉霊園お願いします」
「はい、ちょっと待ってください」
礼司はカーナビをセットして長距離の仕事がついて喜んだ。

「あのう、往復お願いできますか?」
「も、もちろんです」

環状八号線から第三京浜で横浜へ向かうと
「先月うちの息子、雅也が亡くなりまして」
「そうですか。お気の毒に」
「小学校二年でした」
「交通事故ですか?」
「はい、方南通りの交差点で」
「そうですか」
「ひき逃げなんです」
「はい」

「以前、地獄タクシーの夜野さんの事を聞いていたので、
犯人がわからないかと思いまして」
「すみません、みえません」
「そうですか?」
良子は下を向いて涙を流し、時々鼻をすする音がした。
その後、良子は無言で外を見たままだった。
「悪い事言っちゃったかな?」礼司はつぶやいた

鎌倉駅から20分ほど走ると鎌倉霊園があった、
駐車場に車を止めると礼司は花を持って良子と
一緒に霊園の川沿いを歩き桶に水を汲んだ。
「すみません」
「いいえ」
良子は線香をあげ手を合わせ
礼司はその脇で手を合わせると映像が浮かんできた

それは、信号が変わって横断歩道を渡っている雅也を
黒い車がブレーキをかけず轢く様子が浮かんだ。
まだ体の小さい雅也はボディの内側に巻き込まれ
20m引きずられ、一度バックをして環状七号線の方へ
方向を変えて走って行った。

「犯人は飲酒運転ですね」
「飲酒運転?見えますか」
「はい、見えます」
「ところで、ひき逃げの犯人の車わかりますか?」
「ええ、黒の外車で丸が4つあるやつ」

「ああ、あれですね」
「他には?」
「30代の金持ち風の男ですね」
「ゆるせない」良子は小さな声で言って
涙を止めどもなく流していた。
「かなしいなあ」

お参りを終え駐車場へ向かって歩くと後ろに
変な感覚があって礼司が振り返った。
「夜野さん、どうしました?」
「いいえ」
「帰りにお蕎麦でもいかがですか?」
「はい、いただきます」礼司は嬉しそうに言った
参道沿いにある蕎麦屋に入ると礼司は
天ざるそばとあんみつを注文した

「夜野さん、甘党なんですか?」
「はい、あはは」
「お子さんは?」
「娘が一人うるさいのが居るような、居ないような。」
「一緒にお住まいですか?」
「あはは、遠くにいます」
「そうですか、じゃあお寂しいですね」

「ええ、だから松山さんのお気持ち分かります」
「ありがとうございます。犯人捕まえて殺したい」
良子は興奮して顔を礼司に近づけた。

礼司は良子の声にドキッとした。
「犯人を捕まるといいですね」
「解かりました、早速動きます」
「でも、警察は動きませんよ。こんな事信用しませんから」
「解かっています。ビラを作って交差点で配ります」
「はい、私もお手伝いをします」

礼司は母親の愛情に感動して協力を願い出た
「いいんですか?」
「大丈夫です、鎌倉往復で売り上げがありますから、
後はさぼりです。あはは」
「ありがとうございます」
その夜、礼司は自分の頭に浮かぶ車のイメージを
インターネットのカタログからスキャニングをして
チラシを作った

次の日方南町交差点を通ると止まった車にビラを配る良子を見かけた。
「がんばれ、良子さん!!」
礼司は心の中で叫んだ

その夜、12時に鎌倉鶴岡八幡の交差点で、
江ノ島方面から来た車が鳥居の前の参道の石垣に
衝突して運転手が死亡した。

現場検証をしていた警察官はつぶやいた。
「相当飲んでいたな」
「ああ、ノーブレーキだ」
パトカーの赤いランプがむなしく光っていた
翌日の12時には横浜横須賀道路の
日野付近で側壁に激突して死亡事故が起きた

3日後の12時には第三京浜の保土ヶ谷で
中央分離帯に激突しての死亡事故が起きた

4日後1時には第三京浜の玉川ICで側壁に
激突して死亡事故が起きた
翌日、車で聴くラジオのニュースでは
連続飲酒運転の交通事故死を報道していた。

ラジオでそれを聞いていた礼司は
「おいおい、同じような事故ばかりだな」
そうつぶやいた。

その夜12時過ぎ、礼司は多摩川からの帰りに
246号線を渋谷に向かって走らせていた。
駒沢の交差点に来た時、脇に並らんだ黒い車の
運転席を何気なく見ると、ぼさぼさ頭でつり上がった目の女性が
ハンドルを胸に押し付けるように握っていた。

「おお、怖い」
礼司が言い終わるか無いかの時
その車は急発進して凄い勢いで交差点の中に入った。
そして向かいから来た車に接触して電柱に激突した。

「ガシャン」
と凄い音とともに車のボンネットに
電柱は食い込み白煙を上げていた
「ああ、やっちまったよ」
礼司はその車の運転席を見るとエアバックに
首を突っ込んでいるのはスーツ姿の男性だった。
「あれ?男?」


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