地獄タクシー Ⅱ

コノミナ

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4章 武鬼

武鬼

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武鬼

しとしとと雨が降る夜、日曜日の有楽町一丁目
急に降ってきた雨のせいか手を上げるカップルが多かった
その中必死で手を振る男性を礼司は見つけタクシーを止めた
「東京駅へ、急いでください」
34~5歳の紺のスーツを来たなかなかハンサムサラリーマン風
男性だった。

「新幹線ですか?」
「はい、京都まで」
礼司はタクシーの時計を見ると
21時15分を過ぎていた
「お客さん、間に合いませんよ、
最終は21時20分ですから」
「ええ!!」
男は肩を落として、しばらく考えると
礼司に体を近づけた。

「じゃあ京都まで行ってください」
「えっ、えええ」
「京都まで500キロ 20万円くらいかかりますよ」
「お金は良いんですけど、時間はどれくらいかかりますか?」
男は体を乗り出して言った

「5時間以上かかりますけど」
「そうですか。着くのは2時過ぎか・・・」
「どうしますか?」
「分かりました。お願いします」
男は頭を下げた。

「はい、急ぎます」
礼司は八重洲口から宝町のランプへ向かった
そこへ、魔美から電話があった
「夜野さん、仕事です」
「今、お客さんを乗せているんだけど」
「ええっ、どれ位で降りそう」
「長距離だから」
「1時間くらい?」
「いや、5時間」
「ええっ、どこへ行くの」
「京都だよ」

「ええっ、仕事は京都よ」
「どの道23時には間に合わないぞ」
「違うわ、今日の23時よ」
「ん?間に合う方法があるのか?」
「あるわよ、とにかく三軒茶屋へ
よって一緒に行きましょ」
「うん」
「お客さん」
「はい」
ウトウトしていた客は返事をした

「あのう、もし京都に早く到着方法が
有ったらどうしますか?」
「えっ?、そんな方法があるんですか?」
男は体を乗り出した
「ええ。あるんです」
「お、お願いします、一分でも早く着けば」
「分かりました」

礼司は三軒茶屋の南里大学病院の前で魔美を乗せた
「こんばんは」
魔美は後ろの男に頭を下げた
「は、はい」
魔美は鬼のノブをこっそり下から渡した
「こ、これで行くのか」
「うん」
「大丈夫か?」
「もちろん」
「OK」
礼司は後ろを振り返った
「お待たせしました。出発します」
「大丈夫なんですか?」
「任せてください、ははは」

礼司はシフトノブを交換した瞬間
周りから人の気配も走っている車も消えた
そして礼司がアクセルを思いっきり踏むと
タイヤからキュキュキュと言う音を立て
白い煙を出してタクシーを走らせた
男は礼司に聞いた
「運転手さんずいぶんスピード出しているようですけど
捕まらないですか?」
「あはは、それも覚悟です」
「ありがとうございます。気をつけて運転してください」


「はい」
「でも、今日はずいぶん空いていますね」
「そうですね」
そこに、魔美が小さな声で囁いた
「ねね、夜野さん。彼に寝てもらってくれるかな」
「うん、そう願いたい」
「じゃあ、願って」
「ん?」
「眠れって思えばいいのよ」

「ね・む・れ。これでいいのか?」
男は一瞬で崩れるように眠った
魔美は後ろを振り返って
「ほら、眠った」
「ど、どうしてだ?」
「夜野さん、鬼のノブを使って
この世界に来ているから
霊力が上がって人を眠らしたり
記憶を消したりできるようになっているのよ」
「そうなのか?」
「そうよ、私全然寺の住職さんたちの記憶消しているわ」
「お前も霊力あるのか」
「まあね、こっちの世界の人よりはね。夜野さんほどじゃないけど」

「おお、ところで浜田さんの具合は?」
「まだ、意識が無いの」
「でも変だな、奴は何の被害が無いんだよな」
「うん、なんの怪我もショックも受けて無くて脳波も安定してるわ」
「俺も明日。見舞いに行く」
「うん、夜野さんが行けば意識が戻るかも」
礼司はアクセルペダルが床に付きっぱなしでノーブレーキ
運転を続けていた。

「なあ、魔美。この車時速何キロ出るんだ。
メーター180kmで止まっているから」
「夜野さんの気持ちしだいよ。
夜野さんが出ろと思えばもっと出るかも」
「なるほど」
するとタクシーはスピードを上げた
誰も走っていない高速道路にはたくさんの地縛霊立っていた
その地縛霊は礼司が運転するタクシーが通り過ぎると
次々に空へ昇って行った

「魔美、霊が上がっていくぞ」
「うん、このタクシーのパワーで浄霊されているのよ」
「今までそんな事無かったろう」
「夜野さんの霊位が上がったのよ」
「そうか」
「早く夜野さんのパワーを上げてもらわないと・・・。」
「ん?」

「そうそう、途中鬼が二匹居るからね」
「どこだ?」
「大井松田と岡崎」
「両方とも事故のメッカじゃないか」
「そうよ」
「分かる気がする」
東名高速に乗って十分もしない内に中井PAを通り過ぎると

「そろそろ出そうだな」
「うん、右ルートのトンネルを過ぎたところ居るわ」
魔美はGPSを見て言った
「OK昔の上り線か」
「そうね、東京に荷物を運ぶトラックがよく事故を起こしたから」
「どんな鬼だ?」
「双鬼に似た鬼よ」
「じゃあこれで轢けば良いんだな」
「うん」
礼司はトンネルの中をに入るとスピードを落とした

トンネル内のオレンジの明かりの中からトンネルの出口を見ると
トラックくらいの大きさの巨大なライオンに似た、双鬼が立っていた
「ま、魔美でかいぞ」
「あはは、大きいねえ」
「相当人を食ったんだろうなあ。時間かかりそうだなあ」
この双鬼も人間の顔をベースに口が大きく裂け、
牙が伸びていて頭の両側に角が生え身体は茶色い毛で覆われていた。

「こっちに向かってくるぞ」
「以前やっつけた双鬼はかかってこなかったけど・・・・大丈夫かな」
「なんとかやってみるぞ」
礼司はアクセルを思い切り踏み込み音を出して走り出した
双鬼は体を翻し逃げ出した
カーブの多い高速道路は双鬼を簡単に轢殺す事はできなかった

「武器はないのかよ。ミサイルとかレーザービームとか」
「ハイビームライトだけだよ」
「やっぱり、それかよ」
「3回だけね」
「ああ、しかし右へ行ったり、左へ行ったり困ったな」
「大きい分だけこっちは動きが鈍いわ」
「うん」
大きな左カーブを過ぎた瞬間直線道路になった
「おお射程圏内はいったぞ」
礼司はライトをハイビームにした。

ヘッドライトから赤いビームが双鬼に向かって発射された
「ああ、赤いビームが出た」
「きゃー凄い!!」
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